03
「名乗りもせず申し訳ありませんでした。改めまして、私はこの国の第一王女のヘリエトート=ランタレキアと申します」
「あー、俺は門田一です」
姫様、改めヘリエトートさんをなんて呼んでいいかわからずに一瞬口ごもると、そのことを察したのか自己紹介をしてくれた。本来なら一番最初にしておくべきことだろうけど、両者ともに混乱してしまっていたのだろう。
互いにぎこちない笑みを浮かべ、聖剣のあった場所を後にする。
次は旅に出るまでの間、しばらく俺が寝泊まりする場所に案内してくれるらしい。
最初の石の部屋と聖剣の保管場所は、特別な場所だからか、高めの壁に囲われていた。きっとこの壁も魔法で作ったのだろう。聞いた限りでは、手作業で作るだけの余裕はないはずだ。
高い壁の外に出ると、少し離れているが、正面にお城のような建物が見えた。
なぜ断定しないかというと、自分の知っている西洋のお城とは違い、装飾類がほとんどないからだ。どちらかと言えば大き目の一軒家という感じだ。
「さきほど、国、と申しましたが、人の住める場所はこの街しか残っていないのです」
街一つしかないって、想像してたよりもずっとギリギリじゃないか。いや、もしかしたらこの街が大陸の半分を占めていて、人口も億に近いくらいいるのかもしれない。
目に見える範囲に高い防壁が見えるけど、何層にも防壁があるのだろう。
「あの防壁が人類の生存圏だと思ってください。防壁を壊せる生物がここまで来ない間だけの話ですが……」
まぁ、防壁はあの一枚だけだよな。というかあれを壊せるよな生物がいるのか。剣一本で勝てるのか?
いや、まだ実物を見ていないし、聖剣で何ができるかも確認できていない。判断するのには早い。
「あの一番大きな建物は、空から来る敵に対処するためのものです。その役目を担うのが、より強力な魔法を使える私たち王族なのです」
「とりあえずは、その壁を壊せる生物を倒す事ができれば安全が確保できるというわけですか」
「はい、そうなります。その生物は魔法を食い破るため、魔法に頼ってきた私たちでは対処しきれなったのです」
対魔法に特化してるタイプなら勝てそうな気がしてきた。数が多ければ一人じゃ押しつぶされるだろうから、しばらくは特訓の日々になりそうだ。
城らしき建物の入り口までやってきたが、門番みたいな人はいないのか。警戒すべきは人ではなく謎生物ってことなんだろうな。
部屋に案内する前に、国王に会っておいてほしいとのことなので、執務室のような場所へとやってきた。
「聖剣を使いかの生物と戦ってくださると聞きました。この国の代表として、感謝いたします」
入るなり渋いおじさんに頭を下げられた。多分王様だ。
「卵というものが無いことが問題だと聞きました。すぐにでも何人か探索に行かせるべきなのでしょうが、生きて帰ってこれる範囲ですと、以前我々が住んでいた場所になるため見つからない可能性が高く……」
「あぁ、いえ。卵は自分で探しに行きますので、お気になさらず」
以前人が住んでた範囲がどれくらいかは知らないが、国一つ分なら相応に広いだろう。その先まで行くとなると、随分と長くかかりそうだ。
王様が何か言おうと口を開きかけたとき、甲高い鐘の音が鳴り響いた。
「このタイミングで来たのか」
「ハジメ様、おそらく今襲撃に来た生物は鳥に分類されるので、よろしければ見に行きませんか?」
もしかしたら卵生かもしれないからか。そんなの見ただけじゃわからないけどね。
しかし自分が戦うべき相手を見ることは大事だし、二人の落ち着いた様子を見ると鳥っぽいのはよく来る上倒せる相手なのだろう。最強っぽい王族の戦力も見てみたい。
承諾の合図として頷くと、二人は駆け足で上の階へ向かっていった。その後をついていくと、屋上部分に出た。
「西の壁よりスガラジャ四を確認したと報告がありました。壁を越えるまで数秒とのことです」
「西だな」
スガラジャというのが飛来してくる生物の名前だろう。王様は冷静に方角を確認して、その姿が見えるのを待っていた。
「来ました!」
「ヘリエよ、防御結界は任せたぞ」
「はい、お父様。すでに準備はできています」
防壁までは数キロメートルの距離があるように見えるけど、その防壁の上に見えたスガラジャは手のひらサイズだ。でかすぎやしませんかね。
「行くぞ! 第一弾、発射!」
王様の掛け声に合わせて、スガラジャに向けられた右手から幾何学模様の魔法陣が出現し、何かエネルギー弾のようなものが飛び出していった。
「第二弾、発射!」
王様が再びエネルギー弾を打ち出す前に、一羽のスガラジャが力尽きたように落ちていった。
そのまま地面に落ちるかと思ったら、数メートル上で何かに阻まれるように落下が止まった。
一分も経たない内にスガラジャはすべて撃ち落とされ、死体の周りに人が集まって処理をし始めていた。きっとよくあることなのだろう。
「これなら俺要らないんじゃないですかね……」
王様の無双っぷりに思わず本音が漏れる。
「スガラジャ程度なら問題はありません。図体がでかいだけで弱い部類ですから」
「防壁の外にいる、空を飛ばないモノたちは比べ物にならない強さを持っています。熟練の戦士たち数人がかりでようやく倒す事ができるほどの強さです」
スガラジャは雑魚なのか。しかしあの大きさだと接近戦は不利そうだ。斬撃飛ばせたりできたらいいんだけどな。
「外にいる生物はスガラジャほど大きいものは稀です。大体あの半分ほどの大きさになります」
半分でも結構大きい気がするけど、やっぱり実際に見るのが一番早いか。
「できれば早い内に防壁の外へと行きたいのですが、準備とやらはどれくらい時間がかかりますか」
俺にはタイムリミットがあるので、どうしても気がせいてしまう。外にいる生物が強いと言われても、それは変わらない。
「ありがたいことですが、必要な物資や随行する人員を選んでおりますので、二日ほどかかってしまいます」
二日か…… 現在のマヨネーズ残量がおおよそ千二百グラム。一日にせめて十グラムは摂取しないと禁断症状が起きるだろうから、約百二十日分か。
スガラジャとかいう奴も、もしかしたら卵生かもしれんから意外とすぐ解決する可能性もあるからな。二日は必要な準備期間と割り切って万全の大勢を整えよう。マヨネーズがないから万全とはいかないが。
「ではそれまでの間に聖剣を使いこなせるようにしたいので、どこか訓練できる場所はありますか」
「それでしたら南に訓練場がありますので、そこをお使いください」
とにもかくにもマヨネーズのため。全力で臨むしかない。
「ちなみに、スガラジャの巣がどこにあるかわかりますか?」
卵生か確かめるためにも聞いておかないとね。
「ほぼ毎回西からやってきますので、おそらくは西の方にあると思います」
西ね。覚えておこう。
「ですが、スガラジャの体には子に乳を与える器官がありましたので、卵生の可能性は……」
あぁ、そうか。哺乳類かどうかは見ればわかるのか。
いきなり希望が一つ、絶たれてしまった……