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マヨラー、異世界にて死す  作者: 信濃の梅
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01


 マヨネーズとは何か?


 それは人類が永遠に問い続けるだろう命題だ。俺も数年前から自らに問い続けている。

 

 現時点での答を挙げるなら、マヨネーズとは「人生」だ。

 朝起きてマヨネーズを食し、走り込みから帰ってきてマヨネーズを食し、大学の授業の合間にマヨネーズを食し、昼ご飯にマヨネーズを食し、おやつにマヨネーズを食し、筋トレをしてマヨネーズを食し、晩ご飯にマヨネーズを食し、風呂上がりにマヨネーズを食し、マヨネーズを食して就寝。

 こんなふつうに、俺はまさしくマヨネーズは人生だといえる一日を過ごしている。


 もちろん、マヨネーズだけを食べているわけではない。付け合わせもちゃんと用意してある。

 米を主食とする人も、米だけではなくおかずと一緒に食べるのと同じだ。


 走ったり筋トレしたりしているのは、健康のため、つまりはマヨネーズのためだ。

 より長く生き、より多くのマヨネーズを食す。そのために大学では栄養学も学んでいるし、運動も欠かさない。


 俺はマヨネーズのために生きている。


 4歳のときに初めてマヨネーズを口にしてから、およそ十六年。マヨネーズを口にするたびに、それは強く心に刻まれる。

 給食の時間、先生に怒られようとも毎日マヨネーズを持ちこんだ。修学旅行で飛行機に乗るとき、手荷物にマヨネーズを入れていて一悶着あった。外食に行くと度々持ち込みについて店員に注意された。


 それでも、俺は断固としてマヨネーズを常に携帯しつづけたし、ことあるごとに食べ続けた。


 一度、中学校のときに面白半分で俺のマヨネーズを隠した奴が居た。俺は怒り狂いながら探したが見つけられず、ついには禁断症状を起こし、吐いて気を失った。

 保健室で目覚めてすぐにマヨネーズを口にしたことでその後問題は起きなかったが、友達はいなくなった。


 友人などいなくとも、俺にはマヨネーズがある。それだけで俺の生は充実し、最大の幸福を得られる。

 むしろ、マヨネーズさえあれば俺はどこであろうと生きていけるのだ。


 そして今日もマヨネーズを買いにスーパーへ行く。


 一週間分のマヨネーズを買いたい所であったが、今日は安売りでお一人様二本までとなっている。仕方なく明日も買いに来ることとにして、マヨネーズの付け合わせになるものと一緒にカゴに入れ、レジに向かう。


 清算と袋詰めを終え、帰路につく。

 そろそろ日が短くなり始める九月の下旬。薄青い空に浮かぶ、白い月を見上げながら信号が変わるのを待つ。


 青信号に変わったことを告げる音楽を耳にして、瞬き一つして視線を前に下ろす。


 そこには青に変わった信号と、信号を待っていた人が歩き出した姿が見えるはずだった。

 しかし、俺の視界に映ったのは薄暗い、石造りの部屋だった。


「は? なにこれ?」


 思わず言葉が漏れる。周りには数人居るようで、独り言を聞かれたような状況に少し恥ずかしくなる。

 

 見えるの範囲に居る人は呆然と突っ立っている。この部屋の広さは大学の三百人ほど入る講義室くらいか。出入り口は一つしかなさそう。

 周りを見渡してそこまで考えてから、自分が今とんでもない事態に陥っていることに気付き、パニックになりそうになる。


「あぁ、よかった…… ようやく、成功したのですね……」


 だが、パニック一歩手前の状態で、安堵したような、泣きそうで消えそうな声が聞こえてきた。

 その声を聞いて、僅かばかり落ち着いた頭で言葉の意味を考える。しかしまだ論理的に思考するだけの落ち着きは取り戻せていなかったので、思考を放棄する。


 声を出した人物に目を向けると、こちらにゆっくりと歩いてきていた。


 此処がどこかもわからず、自らの安全が確保できているとも思えない。そのため、近づいてくる人に対して身構えてしまう。

 敵対する意志を少しでも見せるのは得策ではないだろうが、そんなことを考える余裕など今の俺にはなかった。


「あっ、申し訳ありません。これ以上は近づかないので、私の話を聞いていただけますか?」


 こちらが身構えたことで、警戒されていると感じたのだろう。近づいてきていた女性は足を止め、柔らかい声と口調で話しかけてきた。


「……今、何がどうなっているのかわからないので、とりあえずあなたの話を聞かせてもらいます」


 冷静に言葉を返そうとしたが、緊張しすぎているのか、ぶっきらぼうな返答になった。


「ありがとうございます。では、まず貴方様の身に起きたことについてお話をいたします」


 くすんでパサついた金髪なれど、全く損なわれない美貌の女性が、伏し目がちに話し始める。


 そこから長い話が始まった。腹時計的には四十分ほどだったように思う。

 途中で周りにいた人が椅子を持ってきてくれたので、話の半分くらいは座った状態で聞いた。

 俺が座ってからも、女性は座ることなく話し続けた。


 とりあえず理解できた範囲で要約するなら、


・ここは俺の居た世界とは違う世界。つまり異世界である。


・人類の生存圏は狭く、今も少しずつ狭まってきている。


・人類が生きるために必要な生存圏を守るために上位の生物と戦う必要がある。


・神の奇跡とやらで聖剣を授かったが、この世界の人類には触れることすら叶わない。


・聖剣を十全に扱える潜在能力を持った人を召喚し、助けてもらおうとした。


ということらしく、その条件に該当したのが俺だという。


「こちらの勝手な都合でここに誘拐してきたようなものです。ですので、たとえ貴方様が私たちを助けてくださらずとも構いません。召喚を行った者たちの首を差し出せというなら喜んで差し出しましょう」


 どうにも物騒なことを言い出したが、確かに俺は誘拐されたのだと言えるだろう。しかも帰れないというオプション付きで。

 身代金が支払われたなら解放されて家に帰れる可能性のある誘拐なんかより、よっぽど悪質なものだ。拉致という言葉の方が適切な気もする。


「私たちを助けてくださるということは、命がけで戦うことを意味します。その場合は貴方様の願うことを、私たちの叶えられる範囲で、とはなりますが、全て叶えさせていただきます。それで許されることではないでしょうが、せめてもの償いです」


 地味だがある程度の華のあるドレスから、なんとなくこの女性は身分が高い人なのだろうなどと場違いな事を考え始める。

 話が重いし、いきなり過ぎて頭がついてきてないんだよね。


「私たちは今、このような外道な方法にも縋りつかないといけないほどに追い詰められています。既に呼び出してしまった後で言うのも間違っているでしょう。ですが、ですがどうか。私たちを、助けていただけないでしょうか」


 それは見事なまでの土下座だった。いつ膝をついたのかもわからないほど滑らかな動きで、洗練されたフォルムは感動的ですらある。

 周りを見てみれば、この部屋に居た人物はすべて同じように土下座をしていた。冷静に見れば異様な光景であり、若干の恐怖を覚えるほど。


「……えぇっと」


 なんと言っていいかわからず言葉に詰まる。その間も目の前の女性をはじめ、地に伏す人達は身じろぎ一つせずに待機している。

 これは断れる雰囲気ではなさそうだ。場の空気を読んで流される日本人で断れる剛の者は、なかなかいないだろう。俺も、その他大勢の一人でしかない。


「確認したいことが一つあるのですが」


 俺の言葉を聞いて、女性は顔を上げる。その眼は人類の生存が危ぶまれている状況とは思えないほど、まっすぐに輝いていた。


「私に答えられることならなんでもお聞きください」


 その眼が眩しすぎて、目を合わせていられなくなって視線を逸らす。逸らした先には買い物袋。そこから、マヨネーズを取り出す。


「マヨネーズってありますか?」



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