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35歳の憂鬱。  作者: 武 画美
本編。
9/21

ボーカル改造。


リョウタは、すっかりイジケてしまった。


「どーせ、オレなんかギター下手くそだし」

「メジャーになる実力もないし」

「東京にも行けないし」

「大学もでてないし」

「ガキだし」

「金もないし」

「どーせ」


こんな調子で、打ち上げから帰ってきてから、ずっとイジケてる。


speck crewのマサトは、大学の1個上の先輩だった。

誘われてspeck crewのライブに行くようになり、いつのまにか、マサトと付き合うようになった。

マサトの大学卒業と、ともに、speck crewは、上京し、東京で、活動するように、なった。

上京するときに「ついてこないか」と、マサトに言われたが、私は、大学を辞めたくなったし、ついていかなかった。

それっきりである。これまでspeck crewの活動は知っていたが、今日は、大学以来、久しぶりにマサトに会った。

14年ぶり、なんか忙しくて、マサトのこと、思い出す暇もなかった。



「だから、京子は、年のわりには、バンドに詳しいんだ。」

リョウタが、まだグチグチ言っている。

「年のわりには」が、余計である。

「いくら遠い昔の元カノとはいえ、オレの尊敬するマサトさんと付き合ってたわけだ」

遠い昔って、人を歴史上の人物みたいに言うな。

「京子が、マサトさんの元カノということは、オレとマサトさんは、兄弟になったんだ」

なんか、そういう言い方嫌だ。

「どーせ、オレは、できの悪い弟だよー」

いつまでも、ネチネチと、しみたれった奴だ。

年下だから、まだ我慢してるが、これが、オッサンだったら、張り倒してる。



「リョウタ、マサトは、もう結婚して、子供もいるのよ。大学時代の元カレのこと、ぐちぐち言われても、もう終わったことなんだから」


「隠してるなんて、おかしいよ。オレがspeck crewのオープニングアクトやるって言った時、言ったっていんじゃないの。実は、マサトさんのこと、忘れてなかったから、やましい気持ちあったんだよ」


「いちいち元カレのことなんか、言うわけないでしょ。マサトことなんか、忘れてたわよ」

私は、リョウタの相手で充分なのに、そんな昔の元カレのことなんか、いちいち思い出すかよ。こっちは、オマエの相手で、大変だっつーの。




「私、ディズニーランドに、行った彼と会うのをやめることにしました」

あの街コンで知りあった彼のことか。

昼休憩中に、新人の南美が話だした。

「なんかあったの?」

「彼、一流企業の社員なのに、最初から、デート代が全部ワリカンなんです。ガソリン代も、きっちりワリカンで、請求されるんです。ひどい時なんか、端数を私が払うんです。」

「彼、何歳なの?」

「35歳です」

そりゃ酷いわ。35歳で、一流企業の社員で、一回りも年下の女の子に、請求するなんて。

別にワリカンが、悪いとは言わないが、35歳のいい大人が、最初から、23歳の女の子に奢る気持ちがないというのも、いかがなもんだろう。

リョウタだって、バイト代が出たときは、ラーメンを奢ってくれる時があるというのに。

奢ってもらいたいというのではなくて、気持ちの問題だ。

「その35歳の彼、イケメンだったの?」

「いえ。熊みたいでした」

熊も、見ようによっては、可愛いが、熊みたいな彼、見なくても想像できた。




「裕太、顔整形したいって言い出した」

「えっ。なんで?」

「オレらのバンドのホームページに、書き込みがあって、ボーカルの裕太のことをボロクソに批判してたのが、何件かあった」

私も、ボーカルは、イマイチと思ってたが、最近の裕太くんは、ボイストレーニング行ったりして、努力してる。

「顔がブサイクだ。とか、ボーカル変えたほうがいんじゃないとか、けっこう酷いこと書いてあった」

「裕太くんは、ブサイクではないよ。普通よ。よくある顔なだけ」


「京子、それ、フォローになってない。むしろ、酷いこと言ってる」

つい思ってたことを言ってしまった。

「でも、裕太くんって、愛敬があって、気が利くし、性格がいいから、ボーカルは、顔じゃないわよ」

今度はフォローになってるだろうか。

「裕太、すごい落ち込んで、今度の対バン出たくないって言ってる。対バン相手のボーカルがイケメンばっかりなんだよ」

「カラコンいれて、化粧すれば、いいじゃないの」

「いちおう、あれでもカラコンいれて、化粧してる」

ありゃ、そうでしたか。


「化粧足りないのよ。もっとアイライン濃くして、シャドーは、紫にして、チークは、思いきって、黒にするとか。目立たなきゃダメよ」

「京子、それじゃあ、オレ達のバンドの方向性が違ってくる」

あー、一応、方向性あったんだ?


「裕太くん、あの金髪やめれば?普通の顔が金髪にするとオタク系に見えるし。金髪が、もっさい感じなのよ。違う色にして、髪も段いれて、軽くしたらいんじゃないの」

この際だから、思ってることを言った。

「じゃあ京子が、裕太にアドバイスしてくれよ。おれのバンドのメンバー、京子が、speck crewのマサトさんの元カノと知ってから、京子を尊敬の眼差しで見てるから。裕太を助けて、やってよ」

ちょっと、リョウタの言い方がカチンときたが、

「わかった。じゃあ土曜日に裕太くん、連れてきて。カットして、カラーリングするから」

と、おっせかいな私は、ボーカル改造計画をかってでることにした。



土曜日、裕太くんはきた。相当落ち込んでるみたいで、いつも明るい裕太くんは、暗かった。

「ドラックストアで、明るめのブラウンのカラー買ってきたの。まずカットからするから、裕太くん、ここに座って」


まず、全体的にスキバサミで、軽くした。

「前髪、縦にハサミいれて、すき間つくるから、裕太くん目閉じて」

これで、もっさいのは、抜けただろう。

「おー裕太、軽くなった。若くみえる」

リョウタは、暗くなってる裕太くんを、盛り上げようとして必死だった。

「今度は染めるから、リョウタ、後ろのほうを染めて」

「わかった。」

裕太くんの髪を染めながら、私は、おっせかいだと思ったが、言った。

「裕太くん、元気ださなきゃだめよ。今度の対バンのライブに彼女も、見にくるんでしょう」

「彼女、友達連れて見にくるって言ってて。対バン相手のボーカルは、みんなイケメンだから、オレだけブサイクだったら、彼女に友達の前で恥かかせるかもしれない。どうしよ」

これは、かなりマイナスに、考え始めてるな。


「もしメジャーに、なったら、批判されるのなんて、当たり前なんだよ。批判されないバンドなんていないんだから。だから、今から、そんな書き込みなんか気にしちゃダメよ。そんなことで、落ち込んだら、書き込みした奴等の思う坪よ。見返してやらなきゃ。メジャーになるんだったら、メンタルも強くしないと」

メジャーに、なれるかは、さておき。一応、私なりに精一杯励ましたつもりだ。


カラーリングを、終え、髪を乾かして、ブローした。

「わあ。裕太、めちゃ良くなった。前より、ずっといい。明るくなった」

出来上がりを、みて、またリョウタが必死に盛り上げてた。

「うん。可愛くなったね」

うん。前よりは、かなり良いと、思う。

「そっ、そうかな」

いくらか、裕太くんは、表情が明るくなった。


「やっぱspeck crewのインディーズ時代をささえた元カノの京子だけあるよな」

また、リョウタが、ちくちくイヤミを言ってきた。

「今のムカつく」

「リョウタ、ただ焼きもち焼いてるだけですよ」

笑いながら、裕太くんが、言った。


「京子さん。明日のライブ、メイクも京子さんに頼みたい」

裕太くんに、メイクをお願いされた。

「いいよ」

すっかり、私は、この子達の保護者になった気分だ。


私の25歳の時も、こんなんだったろうか。

落ち込んだり、喜んだり、喜怒哀楽が激しくて、表情が豊かで。小さなことに、一生懸命で、この子達は、キラキラしてる。


25歳の時の私には、そんな気持ちなかった気がする。

大学卒業して、就職して、毎日仕事に付いていくのに、必死だった。大学の時と違って、笑うことも、喜ぶことも、少なくなってた25歳だった気がする。



一度は夢を諦めた私は、ただ安定とやらに、慣れていくのに、やっとだった。


私は高校を卒業して、美大に、行きたかった。

しかし、親に猛反対されて、美大に行くなら、学費は、一銭も出さないと言われた。お金などない高校生の私は、親に従うしかなかった。

結局、人気のある無難な地方の私立大学に、行った。

でも、美大には、行けなかったが、大学は、それなりに楽しかった。

絵の道は、諦めた。諦めたのは、親に反対されただけじゃなくて、大学一年の時、諦めきれず。美大を受け直そうと、見学に行ったときに、私は自分のレベルの低さを知ったのだ。

画家を、目指す人、グラフィックデザイナーを目指す人の作品は、もういつでもプロになっても、おかしくない作品ばかりだった。

そんな高いレベルでも、プロになれるのは、一握りだった。


諦めたことは、後悔してない。

なぜなら、新しい夢をみつけたから。



年とったと、焦る必要はない。諦める必要はない。

今、自分で働いてお金をえてる私は、もう親に反対される義務もない。



それはリョウタが、教えてくれた。気づかせてくれた。

いつか、リョウタと別れる時が、くるかもしれない。

その時は、またリョウタに感謝しよう。




ライブ当日。

裕太くんのメイクは、私の好みで、メイクして申しわけないが、アイラインを濃くして、目を大きくみせた。

「裕太、目でかく見える。カラコンいれてるし、目がキラキラして見える」

メンバーが、盛り上がっていた。

「京子さん、オレらのバンドのマネジャーに、なってよ」

このバンドのマネジャー?ヘタクソで、将来性がないけどね。



「次、オレらの番だ」


「裕太、行くぞっ。」



そう言って、彼らはステージに向かっていった。







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