オープンニングアクト。
お盆休み前の仕事は忙しかった。
お盆前に、片付けてしまわなければならない仕事もあり、毎日残業だった。
マンションに帰れば、夜中にバイト帰りのリョウタが来るときもある。
なんか疲れが溜まってる。
お盆休みは、実家に帰らないで、ゆっくり休もう。
「京子さん、お盆休みは、どこかに行くんですか」
新人の南美が聞いてきた。
「行かない。実家にも帰らないで、くつろぐことにした。」
「そうなんですか。私は、街コンで知り合った人に誘われて、ディズニーランドに行くんですよ。」
「へえ。そう」
お盆の混む時に、ディズニーなんて行きたくない。
「お土産、買ってきますね」
南美は、今度は、その街コンと知り合った人と、うまくいくんだろうか。
「京子、おれらのバンド、speck crewのオープニングアクトに、急遽決まったんだ。すごいだろー」
バイト帰りのリョウタが来て、興奮して話してる。
speck crewは、この地元の出身のバンドだ。
いちおうメジャーレーベルだが、ライブハウスを回り、地味に活動してる30代のバンドだった。
「speck crewのリーダーで、ギターのマサトさんは、すげえギターが上手くて、hideの次に尊敬してるギターリストなんだ」
リョウタは、熱く語ってた。
「京子、絶対見にきてよ。」
今日から、お盆休みだ。
昼過ぎに起きて、平和だ。
部屋の掃除終わったら、くつろいでよっと。
リョウタのバイト先の居酒屋。
「えっ。奥さん入院したんですか」
「ああ、今朝具合悪くなって、病院連れて行ったら、そのまま入院。3日くらいの入院なんだけど、今日からお盆で、かなり予約入ってるし、調理場オレ一人では、キツイかもしれん」
店長は、急な奥さんの入院で、困っていた。通常は、店長と奥さんと二人で調理場を、やってる。
「今日から混むから、ホールも減らせないし、誰か調理場経験ある人いないかな」
「あっ」
「リョウタ、誰かいるのか?」
「オレの彼女、オレと一緒にバイトしてた時に調理場してた。そん時に調理師の免許をとったはずだ」
「リョウター。ぜひ彼女に頼めないか」
店長に、拝み倒された。
「京子、今日からお盆休みで、いるかもしれないから、言ってみます」
結局、私は、リョウタのバイト先の居酒屋の調理場を手伝うことになった。
「京子さん、和風パスタ作れる?」
「はい」
「女性客も多いから、京子さん作れるのに、メニュー変えるから、頼むよ」
お盆初日と、あって居酒屋は、かなり混んだ。ホールは、リョウタと、裕太くんと、例の40歳の掛け持ちしてるシングルマザーの成子さんで、やってる。
閉店時間になっても、客がひかなくて、かなり忙しかった。
「京子さん、調理師の免許持ってるのに、OLさんだなんて、もったいないよ」
閉店してから、みんなで、遅いまかないを食べてる時に店長が言った。
「老後、店を開こうかと思って取ったんですよ」
「そうなんだ。それにしても、もったいないよ。お盆中、手伝ってもらえると助かる」
こんなに忙しいのでは、断るにも断れず
「日曜日は、次の日から、仕事始まるので、無理かもしれませんが、それ以外は大丈夫です」
「ありがとう。日曜日までは、女房が退院すると思うから」
こうして、私のお盆休みは、リョウタのバイト先の居酒屋の手伝いをすることになった。
「この水菜のパスタ美味しい。新しいメニューなの?」
お客さんに、京子の作るパスタは、評判良かった。
「土曜日までのメニューなんです。」
「そうなの。お盆しか食べれないのは残念だわ」
リョウタは、久しぶりに京子と一緒に働けて、嬉しかった。
「京子さん、実家帰らなくて良かったんですか?」
閉店してから、着替えてるときに、シングルマザーの成子さんが聞いてきた。
「帰っても、愚痴愚痴言われるだけですから。結婚しろしろと、うるさいんです」
「わかるー。私は、離婚して、親と同居してるんだけど、離婚したことから、子供のことから、愚痴愚痴言われる。親だから、言いたいこと、容赦なくズバズバ言われるし、これじゃあ、姑のほうが、まだマシだったわ」
「年とっても、親って、うるさいもんなんですよね」
シングルマザーの成子さんと親の愚痴で、話があった。
「京子さん、ありがとう。おかげで、お盆のピークを乗り切れたよ。これ、少ないけど、バイト代。大入分も入れといた。また何かあったら、頼むよ。」
店長は、バイト最終日に、私にバイト代をくれた。
「ありがとうございます」
体力的にキツかったが、臨時収入が入ったのは嬉しい。
「リョウタ、明日は、大学生のバイトが、出てきてくれるらしいから、休んでいいぞ。京子さんと一緒に過ごせよ」
というわけで、リョウタも休みになった。
お盆最終日は、一日、リョウタと二人で寝てた。
もう、出掛ける気力がないー。
お盆明けは、リョウタは、月末のオープニングアクトをつとめるライブのため、バンドの練習に明け暮れていた。
「京子、ライブは、明日だからな。絶対来てよ」
「残業で、いけないかも」
「はあ?何言ってんの。speck crewのオープニングアクトだよ。そのおれらのバンドの晴れ舞台を見に来れないって、彼女として、どーなの?」
お盆の疲れが、まだ抜けないんだけどな。
「じゃあ、早めに仕事に、切り上げて、時間までには行くから」
「必ず、来いよ。必ずだからな」
キャパ300人のライブハウスは、地元出身のspeck crewのライブとあって、満員だった。
リョウタのバンドは、どうにかミスもなく、オープニングアクトを努めた。
ライブが終わり、リョウタからLINEがきた。
「京子、裏口にきて、おれらのバンド、speck crewの打ち上げに、参加することになった。友達も連れてきていいと言われたから、京子も、行こう」
「私は、いいよ。リョウタたちだけで、行ってきて。私は、帰るから」
「なんでだよ。行こうよ。今、迎えにいくから」
ライブ終わりの人混みの中で、リョウタは、私を見つけ、無理に、裏に連れて行った。
speck crewのメンバーが出てきた。
speck crewのリーダーのマサトが、私を見て言った。
「よお。京子、久しぶりだな」
そう、speck crewのマサトは、私が21歳の時に付き合ってた人だった。