ブロック。
「ボーカルの裕太くん、歌上手くなったね」
「裕太、ボイストレーニングに通い始めたんだ」
ボイストレーニングで、こんなに違うもんなんだ。前と声の延びが全然違う。
今日は、リョウタのバンドのライブをバツイチの慶子と見に行った。
「最後の曲、どうだった?」
「まあ、普通」
「そんだけ?あの曲は、京子のために作ったのに」
私が素っ気ない感想を言ったら、リョウタは、拗ねてしまった。
よくある曲だったので、良いのか悪いのか分からない。
歌詞も、よくある詞だ。バンドマンがよく使う定番の単語を並べただけ。
私の為に、一生懸命作ってくれたのに、申し訳ないが、その辺はシビアだ。
「打ち上げ楽しかったね」
ライブ終わったあとに、打ち上げに、慶子と参加した。
安い居酒屋での打ち上げだったが、それなりに盛り上がった。
慶子は、タウン情報誌で、働いてるだけあって、バンドも詳しかったりして、35歳の私達と、20代のバンドメンバーでも、なんとか話があった。
「たまに、マイナーなバンドの取材するんだけど、頑張ってる感じが良くて、オバサンが応援するよ。みたいな気持ちになる」
慶子が、語り始めた。
「なんていうバンドですか」
「ブルーグレイとか言うバンド」
「地元の名古屋では、人気あるバンドみたいですよ」
「そうなんだ。なんか皆、素直なメンバーでね。すごく感じ良かった」
そんなわけで、話が盛り上がり、帰りは、午前様になった。
「そんなことより、デモ渡すから、オレの曲ちゃんと聴いてよ」
リョウタは、まだ拗ねてる。
「わかった」
「必ず、聴けよ」
もう、無理矢理聴かなくちゃいけない。
キツイ。
「京子っ」
げっ。ナオキだ。
交際を断った以来、会ってない。なんだか、気まずい。
「あれっ、オマエ、弟いたっけ?」
日曜日だから、リョウタと買い物してたところだ。
「弟じゃないよ」
リョウタは、ナオキを睨んでいた。
「もしかして、彼氏とか?オマエ、何歳年下に、手だしてんの」
相変わらず、失礼な奴だ。
「ナオキ、急ぐから、じゃね」
リョウタが、ずっーとナオキを睨んでいたので、その場を離れたかった。
「なんなの?あのオッサン」
「ただの大学の同級生だよ」
「京子って、呼び捨てにして、オマエっても呼んで、慣れなれしすぎじゃねーの」
「ちょっと、デリカシーのない人なの」
「これだから、オッサンはよ」
リョウタは、機嫌悪くなった。
私がお風呂に入ってるすきに、どうやらリョウタが、私のLINE見たらしい。
「なんなの京子の彼氏、オレをずっーと睨みやがって、態度悪いな」
「ごめんなさい」
「どんな躾されて、育ったのかね。今の若い奴は。」
ナオキのデリカシーのなさも、どんな躾されて育ったのかと、言いたい。
「あんなチャラそうなガキなんかと、付き合ったら、貢ぐだけ貢がされて、要なしになったら、ぽいっと捨てられるぞ。やめとけ」
「いいの。可愛いから」
「後悔するぞ」
誰がガキだよっ。むかつくな。このオッサン。
ブロックしてしまえっ。リョウタは、勝手にナオキをブロックした。
月曜日に出勤すると
「笹原、もしかして、オレをブロックしてる?」
営業の板谷さんが、言ってきた。
「えっ。してないですよ」
「昨日、今日の仕事のことで、確認したいことあったから、夜、LINEしたら、ずっと既読にならないから」
LINEを確認してみると、登録してる男性が全部ブロックに、なっていた。
リョウタの仕業だ。
もう私のLINEを、勝手に見たんだ。
しょうがないな。
まるで、子供だ。
これが、30代、40代の男に、勝手にブロックされたら、ドン引きだけど
リョウタだから、仕方ないね。
あー可愛い。