母親。
金曜日に、バツイチの慶子と飲みに行った。
慶子は、高校までの同級生で、タウン情報誌で、働いてる。
「京子、お盆に実家に帰るの?」
「うーん。実家には、兄夫婦いるし、帰っても一日くらいかな。慶子は、帰るの?
「帰んないかな。帰っても、親、うるさいし」
「私もだよ。まだ結婚しないのかって、グズグズ言われる」
「私なんか一年で離婚したこと、グズグズ言われるよ。うるさいのなんのって」
うちの親だけじゃないんだ。うるさいのって。
「母親なんか、40歳でも50歳の男でもいいから、公務員か、安定してる一流企業に勤める人に、しろって、うるさい」
「あーわかる。私の元旦那なんか、サービス業だから、安定してない言われた」
「なんで、親って公務員にこだわるんだろうね。男は高給取りじゃないとダメよって、うるさい。うるさい。」
こうして、慶子と、親の愚痴は、延々続いた。
たまに、うちは、理解ある親だと、自慢している人がいるが、不思議だ。
親なんて、頭ごなしに、親の言うことを聞くんだみたいな態度である。
そんなんだから、実家に帰る回数も減って来た。
昨日は、飲みすぎた。
11時まで、ベットで、うだうだしてると、誰かがきた。
リョウタかもしれない。そう思ってドアを開けると
「京子、もしかして、まだ、寝てたの?」
げっ。母親だった。
「なんで、いきなり来るのよ。来るときは連絡してよ」
「こっちに用事あったから、寄ってみたの」
休みに、またグズグズ言われるかと思うと憂鬱だ。
「あなた、まだ結婚しないの?」
また始まった。
「しないわよ」
「もう50歳以上の人でもいいから、公務員見つけなさい。バツイチでも、バツニでも、この際言ってれないから。でも、公務員よ」
母親の力説は、続いた。
「郁恵さんってば、朝7時に起きてくるのよ」
今度は、兄嫁の愚痴が始まった。
「パートから帰ってきて、夕飯食べると、リビングいないで、すぐ2階に上がるし」
そりゃ、兄嫁も、こんな口うるさい姑と、夜まで一緒に居たくないだろう。
「郁恵さん、休みも、掃除もしないで、出掛けるし、少しは、掃除してほしいもんだわ。私ばっかりやってるんだから。孫の世話も私よ」
そんな不満あるなら、同居なんて、しなければいいのに。
ピンポーン。
誰かがきた。リョウタだったら、どうしよう。
ドアを開けると、やはりリョウタだった。
「リョウタ、ごめん。今日は、お母さんが来てるの」
リョウタには、悪いが帰ってもらうとすると
「京子、どなた?」
げっ。母親が、玄関まできた。
「オレ。柏木リョウタと言います。京子さんとお付き合いしてます」
リョウター、なんで、そんなこと言うのよ。
「そうなの?京子と?リョウタくん、あがって。あがって」
母親は、リョウタをあがらせた。どういう魂胆だろう。
「リョウタくん、何歳?」
母親は、リョウタに質問ぜめにするらしい。
「25歳です」
「25歳。リョウタくんみたいなイケメンの子が、京子みたいなオバサンで、いいの?」
「はい」
自分の娘をオバサン呼ばわりするな。
「リョウタくん、お仕事は何やってるの?」
ほら質問ぜめだ。必ず仕事は聞くと思った。
「バンドやってるんで、今は居酒屋でバイトしてます」
「えーバンドやってるの。そうね。若いうちは、好きなことがやったほうがいいわね。あとで後悔するしね」
なんだ?この物分かりのいい大人ぶるのは、いつもと言ってることは、違う。
「京子、リョウタくん来たんだから、寿司とりなさいよ。三人で食べましょう」
「オレ。今からバイトで、行かなきゃいけないんで」
「バイト休めないの?」
母親が、無理をいいだした。
「急に休むと人手足りなくなるんで」
「そう?残念ね。リョウタくんって真面目なのね」
そう言って、リョウタは、バイトに行った。
「リョウタくん、また会いましょうね」
母親は、リョウタを見おくり、手まで振っている。
「お母さん、随分、さっきと言ってること違うんじゃないの。いつもは、男は公務員と、言ってるくせに」
「それは、京子が、40歳50歳の男と付き合ってた場合よ。40、50で、安定してない男は、嫌でしょう。でも、リョウタくんは、まだ25歳だから、これからよ」
確かに、それも、そうだが、それにしたって、この態度の豹変ぶりはなんなんだ。
ああ、母親は、確か、韓流スターに、ハマっていたはずだ。私は、韓流は、詳しくないから、名前は知らないが、今は、20代の俳優に夢中だって聞いたことがある。
それでか、若いイケメンに弱いのは。
「やっぱり、婿は若いほうが、いいわねー」
母親は、完全に浮かれていた。
どうであれ、リョウタを認めてくれて、良かった。
「お母さん、帰らなくっていいの?孫が待ってるんじゃない」
「今日は、親子で出掛けたから、いいの。それより、せっかく、こっちに来たんだから、美味しいもん食べさせなさいよ」
そう言われて、私は、最終の新幹線の時間まで、母親に付き合わさせられた。
日曜日、目が覚めると、昼だった。
昨日、母親の相手して、疲れたらしい。爆睡してた。
隣で、リョウタも、昨日は、土曜日で、バイト先が混んで、かなり疲れたらしく、爆睡してた。
リョウタと二人で遅い昼食を食べてるとき
「昨日から、新しいバイト入ったんだ」
「そう。良かったね。でも慣れるまで大変だろうけど」
「店長の従姉で、最近離婚したらしくて、仕事掛け持ちしてるから、忙しい週末だけなんだ。レジを担当してもらってる」
「その人、何歳?」
「成子さんと言って、40歳。小学生の息子さんが、いるらしい」
「じゃあ、バイトしてるときは、息子さんは?」
「離婚して実家に帰ってきたから、親が見てるしい。」
「そう。掛け持ちじゃ大変ね。」
私でさえ、今の会社だけでも、キツイのに、40歳で仕事を掛け持ちなんて、キツイだろうな。でも、子供を育てるには仕方ないのかな。
「その人、結婚するまで、大手スーパーにいたらしく、レジの覚えが早くて、レジの達人みたいだ」
「それは、助かるわね」
「最初は、挨拶はするけど、無愛想で、話しかけづらい人だと思ってたんだけど、開店して、お客さんきたら、豹変して、すごい営業スマイルで、お客さんへの対応が、抜群に良かった。だから、お客さんにも、良い人入って良かったね。と言われた」
「仕事と割りきってるんだね。もう、プロだね」
確かに、年をとると、意味のないところで、愛想よくすると、疲れる。仕事と割りきって、使い分けるようになる。
お盆休みは、何しよう。
リョウタは、バイトらしい。
午後は、リョウタと、まったりしてた。