体調不良。
足が痛い。電車でオヤジに、足を踏まれた。
あのオヤジ、謝りもしないで、知らんぷり。いい年して、謝ることも知らないなんて、恥ずかしい人だ。
生理前の私は、ちょっとしたことでも、イラついている。
しかし、経理の明子さんみたいに、ヒステリック全開になりたくないので、会社では、イラつきを押さえなくては、いけない。
仕事の合間にトイレ行くと、トイレで、新人の南美が泣いていた。
「どうしたの?」
一応、聞いてやった。
「経理の明子さんに、怒られたんです」
「どうして?」
「休憩時間終わっても、営業の加藤さんと話をしてたら、怒られたんです」
そりゃ、怒られて、当然だ。さすが明子さん。
「泣いてないで、早く席戻ったほうがいいよ。また怒られるよ」
新人の南美は、泣く暇があって、羨ましい。
私は、やっとトイレに、これた状態だというのに。
今日は、生理前で体調悪いから、仕事早く片付けて、定時で帰りたい。
「笹原、明日の会議で使うマニュアル作ってるか」
「はい。あと少しで、終わりそうです」
「悪いんだけど、大幅に、変更あるから、修正して、差し替えてくれ」
早く言えよ。もう終わりそうなのに、今更変更なんて、嫌がらせにしか思えない。イラつく。くそ課長。
また残業だ。体調悪くて、ぐったり。
明日出勤すれば休みだ。頑張ろ。
昨日の残業のせいか、今日は、更に体調が悪い。しかし、今日は会議の準備しなくちゃいけないので、休めない。
青ざめて、急騰室で、会議のコーヒーの準備してると、経理の明子さんが来た。
「笹原さん、顔色悪いわよ。大丈夫?」
「ちょっと生理前で体調悪いだけなので、大丈夫です」
「少し休んだら?」
経理の明子さんは、いつもはヒステリックだが、優しいところもある。男性社員など、私の顔色など、気づかないが、同じ女性である明子さんは、気づいてくれた。
「会議の準備あるので、大丈夫です」
「そう?無理しないようにね」
生理前は、徐著不安定なので、優しさが身に染みる。
無事に今週も休まずに出勤した。
どっと疲れがでて、着替えないで、ソファで、寝てしまった。
化粧も落としてない。肌もボロボロだ。
明日の休みは、一日寝てよう。
昼に起きると、ふらふらした。でも、具合は、悪いが腹は減る。
買い物してないから、冷蔵庫に何もないはずだ。
買い物に、出掛ける気力もない。
携帯が、なった。
また、元カレのリョウタだった。
「あのさ」
「どうしたの?」
私は、喋るのも、やっとだった。
「京子、声がへん。寝起き?」
「うん。具合悪くて寝てた」
「大丈夫?」
リョウタが、大丈夫という言葉を知っていたなんて、驚きだ。
「ごめんね。今日は具合悪いから、治ったら聞くね」
リョウタには、悪かったが、そう言って電話を切った。
お腹はすいたが、今日は寝てよう。
二時間くらい寝たみたいで、もう3時だ。
貴重な休みが、寝て終わりそうだ。
ピンポーン
誰だろ?勧誘か?
インターホン出ると
「オレ」
オレオレ詐欺?今のオレオレ詐欺って訪問するんだ?
「リョウタだよ」
うわーリョウタか。
「どうしたの?」
「京子、具合悪くて、飯食べてないと思ったから、買ってきた」
どうしたんだろ。何か頼みごと、あるんだろうか。なんか怖い。
「家よく覚えてたね」
「覚えてるよ。付き合ってた頃、何回も来たから」
「コンビニから、おにぎりとサラダ買ってきた。あと熱あると思ってアイス買ってきた」
無邪気な顔で、リョウタは袋からアイスを出した。
「熱ないよ。お金ないんだから、何も買ってこなくても、よかったのに。でも、ありがとう」
「京子に、彼女のことで、迷惑かけたりしたから」
この間のリョウタの今の彼女が、私に電話してきたこと気にしてたんだ。
「じゃあ。オレ帰るわ」
でも、リョウタは、何か話がありそうだった。
「なんか話あったんじゃないの?」
「今日は、いいよ。京子、具合悪そうだし」
「気になるから、言って」
リョウタは、ソファに座った。
「オレ。東京に行こうと思ってる」
「もしかして、バンドで?」
「うん。バンドで。東京で、活動しようと思ってる」
いやいやいや、あのヘタクソなバンドでは、無理でしょー。
こういうのを無謀と言う。
無理無理無理、ボーカルは、歌うまくないし。ボーカルのルックスもイマイチだし。リョウタのギターは、うまいほうだけど、それでも東京で、活動なんて、無理。
「だって、ベース脱退したばっかりでしょう」
「この間サポートしてくれたカンちゃん、オレらのバンドに入ってくれることになったんだ」
それにしたって、東京は無理でしょ。
「今は、地元で、活動して、人気あるバンドいるよ。なにも東京行かなくても、ツアーできるよ」
「そうだけど。東京で、ライブやりたいし」
「生活どうすんの?」
「ホストやろうと思って。金いいし」
でたよ。ホストで、稼げると思ってるところが甘い。
「ホストやって、そこで、金持ちの女みつけようと思って」
また始まった。貢いでもらうしか、考えられないのかね。
「なんで、そういう発想しか出来ないの。ホストだって、若いほうがいんだから、今25歳だったって、年とるんだよ。30歳になってもホストやるの?」
私はリョウタの甘い考えに、イラついた。
「誰だって、楽して、お金稼ぎたいよ。でも、楽な仕事なんかないから、我慢して働いてるんだよ。そういう人が働いたお金で、貢いでもらおうなんて、リョウタは、甘いよ」
もう私はイライラが、止まらなかった。
「京子は、わかってくれると思ったのに」
リョウタは、哀しそうな顔をした。
いくらイラついてるとはいえ言い過ぎた。
「ごめん。体調悪いから上手く言えない」
「オレ。帰るよ」
そういって、リョウタは帰って行った。
私は最低だ。いくら生理前で、イラついたとはいえ、リョウタが挑戦しようとしてることを否定するなんて、最低だ。
私も、20代の頃、やろうとしてることを、親や友だちに、否定されて、悔しかったはずなのに、なんで、リョウタに、あんなこと言ったんだろ。
私が言われて嫌なことを、私も人に言っていた。
そんな年のとり方、嫌だったのに。
私はリョウタの親でも、家族でもない。ただの他人だ。
それを説教ぽっいこと言って、やめさせようとして、私は何様なんだろう。
生理前で、イラついて、リョウタに当たるなんて、情けない。
自己嫌悪で、いっぱいだった。
テーブルのアイスが、溶けていた。
結局。土日は、寝て終わった。
月曜日は、朝の満員電車が、辛かった。
私は、まだ自己嫌悪をひきづっていた。
生理が終わったら、リョウタに、謝ろう。
貸しスタジオで、
「リョウタ、あのさ。上京すること親に反対されてさ。もうちと、待てないかな」
ボーカルの裕太が言った。
「他のメンバーも、反対されたらしいし」
「うん。いいよ。やっぱ、まだ早いかもな」
「なんだー。リョウタ東京行く気満々だから、受け入れないと、思った」
「なんか、オレの一番の理解者だと思ってた人に反対されて、ちょっとショックだったから」
「女?その人、リョウタに東京に行かれたら、寂しかったんじゃないかな」
「それはないよ。オレいなくても、やっていける人だから」
「そうかな?」
「裕太、なんか良いバイトない?」
「オレの働いてる居酒屋来る?今、人足りないんだ。時給もいいし、髪の色も自由だし、休みも融通きくよ」
「じゃあ、頼むよ」
リョウタから、着信が何回かあった。
でも、私は、でなかった。生理中で、またイラついて、上手いこと言える自信がなかった。
「笹原、南美ちゃん今日、風邪で、休むそうだから、南美ちゃんやってた仕事頼むよ」
どーせ、街コンで、疲れて起きれなかったんだろーが。
また残業か。疲れるな。何もかも嫌になった。
5時すぎて、新人の南美の分の仕事を終えて、トイレに行こうと立とうしたら、目の前がグラグラして、回った。
気づいたら、私は医務室にいた。
「目覚めた?仕事中に倒れたのよ」
経理の明子さんが、いた。
「具合悪いのに、新人の女の子の分の仕事まで、したんだってね。具合悪いときは、はっきり断らなきゃダメよ。小林課長は、なんでもやらせるんだからね。融通の効かない男ね。部下の体調もみなくちゃ。」
「仕事、私の分の仕事残ってて、やらないと」
「大丈夫よ。さすがに小林課長も気にして、自分で、やったみたいよ」
あの課長が、自分で、資料作りするなんて、信じられない。
「私、頭きて、小林課長に言ったわ。早く出勤させて、新人に仕事覚えさせろって。若いんだから、体力ありあまってるんだから、働いてもらわないとね」
明子さんは、笑って、そう言った。
一人で、やれると、思っても、人に頼らなくちゃいけない時があるんだね。
「もう、8時だし、私、車できたから、家まで送っていくわ」
こんな時間まで、帰らないで、明子さんは、付いててくれたんだ。
家庭があるのに、申し訳なかった。
マンションに、ついて、部屋まで、明子さんに、付き添ってもらうと
「あれ?弟さん?」
部屋の前に、リョウタが立っていた。
「弟さん、お姉さんが心配で来たのかな。じゃあ、あとは、弟さんに、任せて、私は帰るわね」
「色々と、ありがとうございました。」
私は、明子さんに頭を下げた。
「どうしたんだよ。あの人、会社の人?」
リョウタは、ずっと待ってたのだろうか。
「会社で、倒れたから、送ってもらったの」
「ごめん。オレのせい?あん時、京子、体調悪いのに、オレが無理な話したから」
「違うよ。私が体調管理出来ないから悪いんだよ」
リョウタをみると、顔が腫れていた。
「顔どうしたの?」
「彼女と、別れた。そうしたら、彼女にボコボコされて。金も返せーって言われて、彼女に買ってもらったのも、全部売って、有り金はたいて、バイト代を前借りして、全部返した。」
「その顔じゃ、イケメン台無しだね」
「バイトだけど、真面目に働いて、まだ、ここで、バンドやってみるよ」
リョウタが、少し大人になったように、見えた。