ハタチのとき。(前編)
専門学校2年で、就職活動しなくては、いけないのだが、これといって、やりたい仕事は、なかった。新しいバンドを始めたばかりで、就活どころではなかった。
「リョウタ、この間の合コンどうだった?」
「イマイチ」
「お持ち帰りしなかったんだ?」
「したけど、イマイチ。」
「付き合うまで、いかなかったんだ」
「いかねーよ。イマイチなんだから」
「リョウタも、女の好みに、細かいんじゃねーの」
そうはいっても、しっくりこない女と、わざわざ付き合う気になれない。
柏木綾太。先週20歳になったばかりである。地方都市の専門学校の情報処理システム科に通っている。
「じゃあな。オレ、バイトだから」
新しいアルバイトを始めて、一週間である。いつも、アルバイトは、続かない。一日で辞めたバイトもある。でも、バンドは、金かかるし、親の仕送りだけでは、足りないので、仕方なく、レストランのホールのアルバイトを始めた。
金曜日のレストランは、忙しく、それに、急遽休んだスタッフもいて、休憩をとる時間もなかった。夕飯食べないできたので、腹が減っていた。
22時を過ぎて、やっと休憩とれそうだった。でも、レストランは23時までなので、あと一時間で、アルバイトは、終わりなのだが、いちおう、休憩に入った。
「リョウタくん、まかない食べる暇なかったんじゃない?今作ったばかりだから、私のまかない食べていいよ」
厨房の京子さんが、オレに、まかないを譲ってくれた。
「でも、京子さんも、まだ食べてないんじゃ」
「私は、いいの。あまりお腹すいてないから。リョウタくん休憩も、取らないで、働いてたから、食べていいよ」
「ありがとうございます」
京子さんが、作ったまかないは、回鍋肉丼で、美味かった。
京子さんは、年上だと思うけど、何歳かは知らない。でも、17時から、いつもラストまで、入っている。
落ちついていて、入ったばかりのオレを気にかけてくれて、面倒みのいい人だった。オレの周りには、いないタイプの女性だ。
男子更衣室。
「京子さんって、証券会社辞めて、このバイトは、転職先を見つけるまでの繋ぎみたいだから、転職先が決まったら、辞めるみたいだよ」
フリーターの28歳の武川さんと、大学生の安田さんが話をしてた。
「そうなんだ。だから、昼は就活してるから、夜のシフトなんだな」
「京子さんて、美人で色ぽっいよな。あれで30歳には、見えないよな」
「えっ、30歳っ」
オレは、京子さんの年が30歳というのに、驚いて、思わず声に出して言ってしまった。
「なんだ。リョウタくん、そんなに驚いて」
武川さんが、言った。
「いや、30歳には、見えなかったんで」
京子さんが、30歳って、オレより10歳も年上だ。落ちついては、いるけど、そんなに年上だとは、思っていなかった。
でも、いつもアルバイト続かないオレが、今度は、続きそうな気がした。
週3日のアルバイトのつもりだったが、オレは、週5回にシフトを増やした。
「あれっ。今日、京子さんは?」
「今日は、公休の休みだよ。」
京子さんと同じ厨房の武川さんが言った。
「なんだ?リョウタくん、ずいぶんガッカリしたようだな」
顔に出ていたのか、武川さんに指摘された。
なんだか、今日のバイトやる気ないな。
アルバイトが終わってから、男子更衣室で、武川さんと一緒になった。
「リョウタくん、年上好きなの?」
「別に、そういうわけじゃないですよ」
「でも、京子さんはダメだよ。オレも狙ってるんだから」
「武川さんだって、京子さん年上じゃないですか」
オレは、思わずムキになって言った。
「オレは、たった2歳しか違わないんだから、年上のうちに入らないよ」
「2歳だって、武川さんは、年下に、変わりないですよ」
「突っかかるな。でも、リョウタくんは、20歳だろ。ついこの間まで、未成年だったんだから、リョウタくんは、ガキすぎて、京子さんに、相手にされないよ。しかも学生だろ。付き合ったら、ヒモじゃないか。無理無理」
人をガキ扱いして、ムカつく奴だ。
「武川さんだって、28歳にもなって、フリーターじゃないですか。そっちのほうが、相手にされないですよ。オレは、これからですから」
「はあ?オレは、行政書士の資格とれるまで、アルバイトしてんだよ。資格とれたら、オマエなんか、足元にもおよばないの」
武川さんも、ムキになって、声が高くなっていた。
「ふんっ。28歳のオッサンじゃないですか」
「オッサンって。ガキよりいいだろ。京子さんは、大人の男のほうがいいに決まってるよ」
なんだガキガキって。28歳くらいで、大人ぶりやがって。
でも、武川さんは、京子さんと同じ厨房なので、一緒にいる時間が長い。
休憩時間が、京子さんと一緒になった。
「リョウタくんってバンドやってるんだ。ボーカル?」
「ギターですよ」
「ギターかあ。私、hideが好きだから、ギターいいね」
「えっ。オレもhide大好きですよ。尊敬するギタリストです」
「hideいいよね。」
そうして、休憩時間に、京子さんとhideの話で盛り上がった。京子さんは、けっこう音楽に詳しくて、オレが、バンドやってるのに興味があるようだった。
アルバイトが終わって外に出ると、寒かった。
「ハックッションっ」
あまりの寒さにオレは、くしゃみをしてしまった。
「リョウタくん、風邪?」
そこへ京子さんが来た。
「風邪じゃないですけど、寒くて」
「はい。こんな薄着じゃ風邪ひくわよ」
そう言って、京子さんは、オレに、マフラーをかけてくれた。
「でも、京子さんが寒いんじゃ」
「私は地下鉄だから大丈夫よ。リョウタくんは、自転車だから、寒いでしょう。」
「す、すいません」
京子さんのマフラーは、温かくて、いい匂いがした。
なんでだろ。秋とはいえ、こんな寒い夜に、自分よりオレに、マフラーをかけてくれるなんて。こんな余裕の優しさに、今まで、出会ったことがない。誰にもだろうだろうか。それとも、オレがガキだと思って優しくするのだろうか。
授業が終わってから、アルバイトの時間まで、翼と、スタバで、喋った。
「リョウタ、珍しくバイト続いてるじゃん」
「まあな」
「いい子でも、いるのかよ」
「子じゃないけど、年上で、気になる人がいる」
「年上かあ。でも、OLとか見ると、年上もいいなーと思う時ある」
「だろ。優しさが違うんだよなー」
「リョウタ、本気?」
「まだ。わかんないけど、いいなーって思う」
10歳も年下のオレが京子さんと付き合えるとは、思ってないけど、でも、フリーターの武川さんなんかに取られるのも、シャクに触る。
女子更衣室。
「なんか、リョウタくん、京子さんに、なついてますよね」
ホールスタッフの友佳が言った。
「そうかな?犬じゃないんだから」
「リョウタくんと付き合ったらいんじゃないですか」
「ええっ。リョウタくんって、20歳よ。10歳も年下なのよ。ありえないよ」
「でも、リョウタくんイケメンですよ」
「確かに、可愛いけどね」
「じゃあ、京子さん、リョウタくんを食べちゃったら?」
「もうー。友佳ちゃん何言ってんの。私みたいなオバサン相手にされないよ」
急遽、アルバイト先のレストランは、改装で、明日、店休になった。なので、その日出勤の夜番スタッフで、仕事終わってから、カラオケに行った。
フリーターの武川さんは、休みだったので、いない。
カラオケ屋に行って、部屋に入ると、オレは、京子さんの隣に座った。
オレの番が来たので、hideのエバーフリーを歌った。
そうすると、京子さんは、hideを思い出したのか泣いていた。
「リョウタくん、歌上手いから、hideのこと思い出しちゃった」
オレは、京子さんに、ティッシュを渡した。
いつの間にか、オレと京子さんの距離は、近くなっていた。
かなり酒もはいり、夜番スタッフは、盛り上がっていた。
オレは、京子さんの傍にいたくて、聴く側にまわった。
盛り上がって、カラオケを解散したのは朝3時になっていた。
「京子さん、送りますよ」
オレは、一人で帰ろうとしてた京子さんに、駆け寄った。
「大丈夫よ」
京子さんは、ちょっと酔っていた。
「危ないですよ。送ります」
「大丈夫。こんな30歳女なんて、誰も襲わないわよ」
「オレが襲いますよ」
気づくと、オレは、京子さんの手を握っていた。
朝。オレは、京子さんのマンションで目を覚ました。
「リョウタくん、学校行かなくていいの?」
「今日は、休む」
「だめよ。学校行かなきゃ」
「今日は、京子といたいから、休む」
こうして、オレは、京子と付き合い始めた。




