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35歳の憂鬱。  作者: 武 画美
番外編。
20/21

ハタチのとき。(前編)


専門学校2年で、就職活動しなくては、いけないのだが、これといって、やりたい仕事は、なかった。新しいバンドを始めたばかりで、就活どころではなかった。


「リョウタ、この間の合コンどうだった?」

「イマイチ」

「お持ち帰りしなかったんだ?」

「したけど、イマイチ。」

「付き合うまで、いかなかったんだ」

「いかねーよ。イマイチなんだから」

「リョウタも、女の好みに、細かいんじゃねーの」



そうはいっても、しっくりこない女と、わざわざ付き合う気になれない。

柏木綾太。先週20歳になったばかりである。地方都市の専門学校の情報処理システム科に通っている。


「じゃあな。オレ、バイトだから」


新しいアルバイトを始めて、一週間である。いつも、アルバイトは、続かない。一日で辞めたバイトもある。でも、バンドは、金かかるし、親の仕送りだけでは、足りないので、仕方なく、レストランのホールのアルバイトを始めた。



金曜日のレストランは、忙しく、それに、急遽休んだスタッフもいて、休憩をとる時間もなかった。夕飯食べないできたので、腹が減っていた。

22時を過ぎて、やっと休憩とれそうだった。でも、レストランは23時までなので、あと一時間で、アルバイトは、終わりなのだが、いちおう、休憩に入った。


「リョウタくん、まかない食べる暇なかったんじゃない?今作ったばかりだから、私のまかない食べていいよ」

厨房の京子さんが、オレに、まかないを譲ってくれた。

「でも、京子さんも、まだ食べてないんじゃ」

「私は、いいの。あまりお腹すいてないから。リョウタくん休憩も、取らないで、働いてたから、食べていいよ」

「ありがとうございます」


京子さんが、作ったまかないは、回鍋肉丼で、美味かった。

京子さんは、年上だと思うけど、何歳かは知らない。でも、17時から、いつもラストまで、入っている。

落ちついていて、入ったばかりのオレを気にかけてくれて、面倒みのいい人だった。オレの周りには、いないタイプの女性だ。



男子更衣室。

「京子さんって、証券会社辞めて、このバイトは、転職先を見つけるまでの繋ぎみたいだから、転職先が決まったら、辞めるみたいだよ」

フリーターの28歳の武川さんと、大学生の安田さんが話をしてた。

「そうなんだ。だから、昼は就活してるから、夜のシフトなんだな」

「京子さんて、美人で色ぽっいよな。あれで30歳には、見えないよな」


「えっ、30歳っ」

オレは、京子さんの年が30歳というのに、驚いて、思わず声に出して言ってしまった。


「なんだ。リョウタくん、そんなに驚いて」

武川さんが、言った。

「いや、30歳には、見えなかったんで」


京子さんが、30歳って、オレより10歳も年上だ。落ちついては、いるけど、そんなに年上だとは、思っていなかった。



でも、いつもアルバイト続かないオレが、今度は、続きそうな気がした。



週3日のアルバイトのつもりだったが、オレは、週5回にシフトを増やした。


「あれっ。今日、京子さんは?」

「今日は、公休の休みだよ。」

京子さんと同じ厨房の武川さんが言った。

「なんだ?リョウタくん、ずいぶんガッカリしたようだな」

顔に出ていたのか、武川さんに指摘された。

なんだか、今日のバイトやる気ないな。


アルバイトが終わってから、男子更衣室で、武川さんと一緒になった。

「リョウタくん、年上好きなの?」

「別に、そういうわけじゃないですよ」

「でも、京子さんはダメだよ。オレも狙ってるんだから」

「武川さんだって、京子さん年上じゃないですか」

オレは、思わずムキになって言った。

「オレは、たった2歳しか違わないんだから、年上のうちに入らないよ」

「2歳だって、武川さんは、年下に、変わりないですよ」

「突っかかるな。でも、リョウタくんは、20歳だろ。ついこの間まで、未成年だったんだから、リョウタくんは、ガキすぎて、京子さんに、相手にされないよ。しかも学生だろ。付き合ったら、ヒモじゃないか。無理無理」

人をガキ扱いして、ムカつく奴だ。

「武川さんだって、28歳にもなって、フリーターじゃないですか。そっちのほうが、相手にされないですよ。オレは、これからですから」

「はあ?オレは、行政書士の資格とれるまで、アルバイトしてんだよ。資格とれたら、オマエなんか、足元にもおよばないの」

武川さんも、ムキになって、声が高くなっていた。

「ふんっ。28歳のオッサンじゃないですか」

「オッサンって。ガキよりいいだろ。京子さんは、大人の男のほうがいいに決まってるよ」

なんだガキガキって。28歳くらいで、大人ぶりやがって。

でも、武川さんは、京子さんと同じ厨房なので、一緒にいる時間が長い。



休憩時間が、京子さんと一緒になった。

「リョウタくんってバンドやってるんだ。ボーカル?」

「ギターですよ」

「ギターかあ。私、hideが好きだから、ギターいいね」

「えっ。オレもhide大好きですよ。尊敬するギタリストです」

「hideいいよね。」

そうして、休憩時間に、京子さんとhideの話で盛り上がった。京子さんは、けっこう音楽に詳しくて、オレが、バンドやってるのに興味があるようだった。



アルバイトが終わって外に出ると、寒かった。

「ハックッションっ」

あまりの寒さにオレは、くしゃみをしてしまった。

「リョウタくん、風邪?」

そこへ京子さんが来た。

「風邪じゃないですけど、寒くて」

「はい。こんな薄着じゃ風邪ひくわよ」

そう言って、京子さんは、オレに、マフラーをかけてくれた。

「でも、京子さんが寒いんじゃ」

「私は地下鉄だから大丈夫よ。リョウタくんは、自転車だから、寒いでしょう。」

「す、すいません」

京子さんのマフラーは、温かくて、いい匂いがした。

なんでだろ。秋とはいえ、こんな寒い夜に、自分よりオレに、マフラーをかけてくれるなんて。こんな余裕の優しさに、今まで、出会ったことがない。誰にもだろうだろうか。それとも、オレがガキだと思って優しくするのだろうか。



授業が終わってから、アルバイトの時間まで、翼と、スタバで、喋った。

「リョウタ、珍しくバイト続いてるじゃん」

「まあな」

「いい子でも、いるのかよ」

「子じゃないけど、年上で、気になる人がいる」

「年上かあ。でも、OLとか見ると、年上もいいなーと思う時ある」

「だろ。優しさが違うんだよなー」

「リョウタ、本気?」

「まだ。わかんないけど、いいなーって思う」

10歳も年下のオレが京子さんと付き合えるとは、思ってないけど、でも、フリーターの武川さんなんかに取られるのも、シャクに触る。


女子更衣室。

「なんか、リョウタくん、京子さんに、なついてますよね」

ホールスタッフの友佳が言った。

「そうかな?犬じゃないんだから」

「リョウタくんと付き合ったらいんじゃないですか」

「ええっ。リョウタくんって、20歳よ。10歳も年下なのよ。ありえないよ」

「でも、リョウタくんイケメンですよ」

「確かに、可愛いけどね」

「じゃあ、京子さん、リョウタくんを食べちゃったら?」

「もうー。友佳ちゃん何言ってんの。私みたいなオバサン相手にされないよ」



急遽、アルバイト先のレストランは、改装で、明日、店休になった。なので、その日出勤の夜番スタッフで、仕事終わってから、カラオケに行った。

フリーターの武川さんは、休みだったので、いない。

カラオケ屋に行って、部屋に入ると、オレは、京子さんの隣に座った。

オレの番が来たので、hideのエバーフリーを歌った。

そうすると、京子さんは、hideを思い出したのか泣いていた。

「リョウタくん、歌上手いから、hideのこと思い出しちゃった」

オレは、京子さんに、ティッシュを渡した。

いつの間にか、オレと京子さんの距離は、近くなっていた。

かなり酒もはいり、夜番スタッフは、盛り上がっていた。

オレは、京子さんの傍にいたくて、聴く側にまわった。


盛り上がって、カラオケを解散したのは朝3時になっていた。

「京子さん、送りますよ」

オレは、一人で帰ろうとしてた京子さんに、駆け寄った。

「大丈夫よ」

京子さんは、ちょっと酔っていた。

「危ないですよ。送ります」

「大丈夫。こんな30歳女なんて、誰も襲わないわよ」

「オレが襲いますよ」

気づくと、オレは、京子さんの手を握っていた。



朝。オレは、京子さんのマンションで目を覚ました。

「リョウタくん、学校行かなくていいの?」

「今日は、休む」

「だめよ。学校行かなきゃ」


「今日は、京子といたいから、休む」



こうして、オレは、京子と付き合い始めた。





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