結末。
「一週間も休みまして、申し訳ございませんでした。」
私は、出勤して、課長に、これまで休んだことを詫びた。
「体調悪いときは、無理しないで、言ってくれ。なんだかんだ言っても体が一番だからな」
普段の課長らしくない言葉を頂いた。本音は、どうかは知らないが。
「笹原、もう大丈夫なのか?無理するなよ。でも、笹原いなくて、大変だったよ」
営業のエースの板谷が声をかけてくれた。
「京子さーん。大丈夫なんですか。京子さんいなくて、オレ寂しかったです」
新人の田中くんが、来た。
どうやら、南美は、私が流産したことは、みんなに言ってないようだった。南美には、悪いことをした。病院まで、付き添ってもらったり、リョウタに連絡してくれたり。
「南美さん、色々ありがとう」
「京子さん、まだ無理しないで下さいね。言ってくれれば、私やりますから」
南美から、私がやりますから。と言う言葉を初めて聞いた。若いからと、南美をいい加減と決めつけてたけど、いざというときは、頼りになるのかもしれない。
「京子、おかえり」
リョウタは、今日はバイトが休みだった。
「夕飯、作った。美味くないかもしれないけど」
野菜ミックスを炒めただけの野菜炒めだった。でも、今日から出勤した私に、気を使ったのだろう。
「美味しい」
リョウタが作った野菜炒めは、見た目は悪かったが、美味しかった。
「今日はバンドの練習は?」
「休んだ」
私のために、休んだのかも知れない。
「片付けオレが、やるよ。京子、久しぶりに仕事して疲れたろうから、くつろいでていいよ」
「ありがとう」
キッチンで、片付けをしてたリョウタを見て、申し訳ない気持ちで、いっぱいだった。
リョウタに優しくされればされるほど、私は、リョウタを縛ってるのだろうかと思ってくる。
私は、リョウタと、このまま一緒にいて、いいのだろうか。
京子が、流産を気にして、オレと別れを考えてる気がした。
オレは、どうすればいんだろう。京子に何をしてあげられるのだろう。
あれから二週間がたった。
最近、リョウタは、ひどく疲れてるようだった。
土日の昼も、何処かに出掛けてる。
「京子、バイト終わるのを待ってなくていいから、寝てていいよ」
居酒屋のバイトから帰ってきて、私にそう言って寝てしまった。
食欲も、あまりないみたいだった。痩せたようにみえる。
いったい、何をしてるのだろう。私は、リョウタの体が心配だった。
「裕太くん」
リョウタのいない土曜日に、一人で買い物していると裕太くんと会った。
「裕太くん。教えて。居酒屋のバイトそんなに忙しいの?リョウタ毎日疲れてるみたいで。」
裕太くんは、気まずそうだった。
「リョウタに、京子さんが心配するから、言うなっていわれてて」
「お願い教えて。知らないほうが心配するから。お願い、裕太くん」
「リョウタ、昼は、酒屋の配達のバイトしてる」
「昼も働いてるの?」
「時給がいいからって。でも、飲食店街への配達だから、かなりの量を時間までに配達しなきゃいけないから、かなりハードみたいで」
「どうして?リョウタ、何か欲しいものがあるの?」
「リョウタ、京子さんが流産したこと気にしてて。自分がちゃんとしてれば、京子に無理させることなかったって。だから、自分が京子さんの分まで働けば、京子さんが働かなくていいからって、昼もバイトしてる」
どうして、そんな無茶するのだろう。私がリョウタを追い詰めてるのかもしれない。
「京子、寝てていいって、言ったろ」
リョウタが、居酒屋のバイトから、帰ってきた。
「昼も働いてるんだってね」
「裕太が喋ったんだな。あのお喋りがっ」
「私が無理に聞いたの。裕太くんは悪くない」
「ったく。あのやろう」
「バイト、掛け持ちやめて。どっちか、辞めて」
「辞めない」
「どうして?リョウタ、こんなに疲れてるのに、このままじゃ体壊しちゃうよ」
「オレが、働けば、京子、仕事辞めれる。あんな残業が多い会社なんて、辞めろよ。オレが、夜昼働けば、バイトでも30万円は、稼げる。だから、京子は、仕事辞めて、家にいればいい」
こんなにまでリョウタが、無理してまで、一緒にいたって、私は、苦しくなるばかりだった。
「バイト、どっちか辞めないなら、別れる。ここからも、出ていって」
「京子」
「リョウタが、そんなに無理して、生活したって嬉しくない。辞めないなら、本当に別れる」
「わかった。バイト辞めるから」
「もう無理しないで。リョウタに何かあったら、私どうすればいいの」
私は、涙が止まらなかった。
「京子、ごめん。心配させて、ごめん」
やっぱ、オレは、ガキだ。
結局、オレのやってることは、京子に負担をかけている。
なんで、オレは、大人に、なれないんだろう。
リョウタは、昼の酒屋の配達のバイトを辞めた。
「リョウタごめんな。オレが京子さんに喋ったから」
裕太が、すまなそうに言った。
「いいよ。オレが悪い」
「リョウタ焦るなよ。かえって京子さん心配するんじゃねーの」
「うん。そうだな」
誰が見ても、オレがやってることは、計算できてなくて、無茶苦茶にみえる。成長しないまま、このままバイトやってていいのだろうか。
父親が、話があるから、実家に来てほしいというので、土曜日に、私一人で、実家に帰った。
「和明が、今マイホームを建ててる。完成したら、和明夫婦は、この家を出ていくだろう。」
父親は、言った。
「だから、京子、家に戻ってきてほしい」
急な話で、私は、すぐに答えられなかった。
「私も、もうすぐ定年だが、おまえ一人くらい、まだ、食わしてやれる」
父親は、私が子供ができにくい体だということを知って、気にしてるのだろうか。
「ここで、店を開きたいなら、その資金を私が出してもいい。リョウタくんも一緒にと言いたいが、リョウタくんは、まだ若い。リョウタくんを縛ることは出来ない」
「京子、帰ってきなさい。もう一人で頑張ることはない」
定年まで、公務員で、頭が固くて、融通のきかない父親だと思っていた。自分勝手にやってる私など、どうでもいい娘だろうと思っていた。
「お父さん、なぜ、あのとき、リョウタとの交際を許したの?」
「少年が、そのまま大きくなったような子だったから、悪い子じゃないと思った」
私は、リョウタのいるマンションに帰った。
「リョウタ、私、実家に戻ることにした」
私は、リョウタに父親に言われたことを話した。
「実家に帰って、店をやることにした」
リョウタは、私の話を黙って聞いていた。
「リョウタは、どうする?リョウタの好きにしていいよ。ここに残るんなら、このマンション、このままリョウタが使っていいよ。」
「オレ、京子と一緒に、京子の実家に行くよ」
「いいの?」
「ああ。京子と一緒に店をやるのが、オレの夢だから」
5年後。
「おばあちゃんー。ママは?」
「ママは、お店でしょう」
「ママのところに行く。ママー」
「ほんとに、恭ちゃんは、パパそっくりね」




