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35歳の憂鬱。  作者: 武 画美
本編。
18/21

愛する人との別れ。


最近、体調が悪い。

そういえば、生理が遅れている。生理がくるから、調子悪いのかもしれない。

でも、これくらいで仕事を休んではいられない。若いOLなら、休んでも多目にみてもらえるかもしれないが、私のような35歳の年増のOLなんて、やたら休んだら、リストラの対象になるかもしれない。

だから、少々体調が悪いくらいで、休みたくない。



「京子さん、顔色悪いですよ。大丈夫ですか」

新人の南美が、気づいて声をかけてくれた。

「大丈夫。この資料やってしまわないと、いけないから」

「早退しなくて、大丈夫ですか」

「大丈夫。ありがとう」

そういったが、かなり調子が悪かった。


気を紛らすために、トイレに行ったら、お腹に立っていられないくらいの痛みが走った。

「京子さん?」

南美が、トイレに入ってきた。私は、うずくまり、立てなくなっていた。



「はい。リョウタは、うちのバイトですが。お待ちください」

店長が、電話にでた。

「リョウタ。なんか京子さんの会社の人から電話だ」

京子の会社?なんで京子の会社の人が、オレのバイト先の電話番号知ってるんだろ。

「はい。お電話変わりました」


電話は、京子の後輩の南美さんからだった。

「わかりました」

電話を切って、オレは、ぼーぜんと立ち尽くした。

「リョウタ?京子さん、どうかしたのか?」

店長が、オレに聞いてきた。



「京子、・・・流産したって」




店長の奥さんが、顔を覆った。


「リョウタっ。なにやってんだ。早く京子さんのところに行けっ」

店長が、オレを怒鳴った。


オレは、何が起きたのか解らなかった。

タクシーの窓から見える風景が、真っ白だった。



南美が、救急車を呼んで、病院まで、付き添ってくれた。リョウタのバイト先の居酒屋に、電話をかけるために、街中の居酒屋に、かたぱっしから、電話をして、リョウタの働いてる居酒屋を探したみたいだった。



「京子」

京子は、病室に寝ていた。

京子は、オレが、来たのに気づくと

「リョウタ、ごめんね」

そう、オレに、謝った。

「なんで、謝るんだよ」

「リョウタに、迷惑かけたから」

なんで、こんな時に、オレのこと気にするんだよ。


「私、妊娠は難しい体なの。だから、もし妊娠しても、こうなること分かっていたの」


「なんで、言わないんだよ。そんなにオレが頼りないのかよっ」

オレは、京子を責めていた。


「お兄ちゃん、そんなに責めちゃダメだよ。いちばん辛いのは彼女のほうなんだから」


隣のベットにいた初老のご婦人が、たまりかねて言った。

「すいません・・・」

オレは、謝って、うなだれた。


「私もね。若いとき、二回流産したの。でも、三回めの妊娠は無事に産まれてきてね。今はもう社会人になって、元気に働いてる。」

ご婦人は、話を続けた。


「だから、諦めることないよ。」

ご婦人の言葉に、京子は、泣いていた。


オレは、一晩、寝ている京子の手を握っていて、付き添っていた。



次の日、京子は、午前中に、退院した。



リョウタのバイト先の居酒屋。

「リョウタ。京子さんについてなくて、いいのか」

店長が、心配して言った。

「はい。京子のお母さんが、来てくれたので」


「リョウタくん。辛いのは京子さんなんだから、リョウタくんが支えなきゃだめよ」

店長の奥さんがオレに言った。


店長と、奥さんには、子供がいない。それは、なぜなのかは、知らない。

でも、奥さんは、同じ女として、京子の気持ちが分かるようだった。



オレが父親になるなんて、考えたことも、想像もしたことなかった。

オレに似てたのだろうか。

京子に、似てたのだろうか。

男の子だったのだろうか。

女の子だったのだろうか。



オレが、もっと、ちゃんとしてれば、産まれてきてたのかもしれない。

オレが余りにも頼りないから、産まれて、こなかったのだろうか。




バイトを、終えて、マンションに帰ると、京子のお母さんがいた。

「リョウタくん。おかえり」

お母さんは、こんな時間まで起きていた。

「京子ね。リョウタくんを待っているって言ってんだけど、私が寝なさいと言ったの」

「はい」


「リョウタくん、座って」

京子のお母さんは、オレをソファーに促した。

「京子から聞いたわ。京子、妊娠が難しい体なんだってね。あの子、何にも言わないんだもの」


「オレも知りませんでした」


「リョウタくん。リョウタくんは、若いんだから、京子に、縛られることないわ。リョウタくんは、健康な若い女性を探したほうがいいと思う。あんな京子みたいなオバサンじゃなくて、リョウタくんは、イケメンだから、すぐ可愛いくて、健康な彼女見つかるわよ。もし、そうなったとしても、京子は、リョウタくんのことを恨んだりしないから。あの子は、分かっているから」


オレは、黙っていた。


「このままじゃ、リョウタくんのご両親に、申し訳なくて・・」

そう言って、京子のお母さんは、泣いた。



「オレ、子供が欲しくて、京子と付き合っているわけじゃないですから」



そして、京子のお母さんは、声をあげて泣いた。



寝室に入ると、京子は寝ていた。

寝室の窓から月が、この部屋を照らしていた。

月は、地球上の誰を見ているのだろう。

オレ達のことも、見守ってくれてるのだろうか。



京子は、一週間、会社を休んだ。

「リョウタ、私、明日から会社に行く事にした」

「大丈夫なのか。まだ無理しないほうがいいよ」

「大丈夫。私みたいなオバサンOLが、いつまでも休んでたら、クビなってしまうよ」


「京子」


「なに?」




「オレみたいな奴を、たとえ一瞬でも、父親にしてくれて、ありがとう」




「うん」

京子は、泣きたいのを我慢して、精一杯、微笑っていた。



「今度の休みに、一緒に供養に行こう。オレ達の子供なんだから」



京子は、泣いていた。

オレは、京子を抱き寄せて、一緒に泣いた。




10歳も、年下のリョウタに、こんな思いをさせて。

年上の私が、もっと、ちゃんとしてれば、リョウタに、こんな思いをさせることなかった。

あのとき、もっと、強くリョウタを突き放してれば、リョウタに、こんな思いをさせることなかった。



でも、今の私には、リョウタの優しさが、心の奥まで染みた。

いつも、無邪気で、ワガママで、駄々っ子のリョウタが、本当は、誰よりも、優しくて、いつのまにか、私より、大人だった。






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