引き抜き。
「リョウタ、梨むいたよ」
「置いてて」
リョウタは、パソコンで新曲のアレンジをしてた。次のライブまで、間に合わせたいらしい。
「先に寝るね」
邪魔しないように、私は寝室に行った。
最近、ヤケになったように、曲を作っている。
何があったんだろう。
「リョウタ、今のバンドじゃ、絶対メジャーには、なれない。あのメンバーで上京したって、無理な話。そんな甘いもんじゃないよ。」
ケイジさんは、オレらのバンドを全否定した。
「オレ、腕に、タトゥーいれようかな」
リョウタが突然言い出した。
「えー、やめなよ」
お金もないのに、タトゥーなんて無謀だ。
「京子の名前をいれたい」
「彼女の名前を入れると、たいてい別れるよ」
「えっ、そうなの?」
「外人の有名人、そうじゃん」
「そうなんだ。」
「リョウタの次の彼女のために、私の名前を入れるのは、やめたほうがいいよ」
リョウタの顔色が変わった。
「なんだよ。次の彼女って。なんで、京子って、いつもそうなんだよ。悟ったふりしてさ。またオレが浮気すると思ってんだろ」
リョウタは、一気に不機嫌になった。
「リョウタ、ごめん。そんなに怒んないでよ」
「ケイジさん、帰ってきてたんですか」
街で、偶然、裕太とケイジが会った。
「おー裕太。メジャー決まってな。その前に帰ってきた。明日、東京帰る。」
「メジャー決まったんですか。すごい」
「リョウタをオレらのバンドに引き抜こうとしたら、即答でフラレたよ」
「えっ、リョウタを引き抜き?」
「なんでも夢があるとかで、断られた。リョウタの夢って、メジャーになることじゃなかったのかよ」
「夢?」
「裕太。キレイなメンバー愛もいいけど、人の可能性を潰すことは、本当のメンバー愛じゃない」
そう言って、ケイジは、裕太と別れた。
貸しスタジオ。
「リョウタ、どういうことだよっ」
スタジオ入ってくるなり、裕太は、リョウタに、突っかかっていった。
「ケイジさんに聞いた。メジャー決まってるケイジさんのバンドに引き抜かれたそうじゃないか。それを、なんで断るんだよ」
「別に、気が進まないから」
「オレ達のことなら気にしないで、メジャーになればいいじゃん。リョウタ、東京に行きたがってだろーが。」
「別に、もう断ったんだから、いいだろ」
「カッコつけんなよ。メジャーなれんのに、バカじゃねーの」
裕太は、リョウタを攻め立てた。
「オレの夢と、ケイジさんの夢が違ってただけのことだよ」
「やっぱリョウタは、バカだよ。そんなバカと、一緒にやれね」
「あーわかったよ。」
そう言って、裕太と険悪になったまま、リョウタは、スタジオを出た。
リョウタがマンションに帰ってきた。
「あれ?バンド練習じゃなかったの?早かったね」
「裕太とやり合った」
「裕太くんと?いつも、あんなに仲いいのに。どうしたの」
「京子、ずっと一緒にいてくれ」
そう言ってリョウタは、私を抱きしめた。
それは、口約束にすぎない。
子供を産めない体の私は、リョウタと、ずっといることは、できない。
いつかくる別れのために、今の時間を大切にしたい。リョウタと沢山、想い出をつくり、その想い出を胸に、一人で生きていこう。
でも、いつか、リョウタの子供を見てみたい。
私との子供じゃなくてもいい。違う人との子供でも、リョウタの子供を見たい。
「リョウタ、裕太くんは、リョウタのことを思って言ったんだと思うよ」
「わかってる」
今のオレに、大切なものを二つも、失うことは出来ない。
今のメンバーと、そして、京子。
京子は、もし東京にオレが行くことになっても、ついてこないだろう。
そんな気がする。
夜中1時に、リョウタのスマホにLINEがきた。
「リョウタ、ごめん」
裕太くんから、だった。
リョウタと裕太くんは、無事に仲直りした。
今度のライブのために、バンドの練習を増やしている。
リョウタが作ったという新曲を披露するそうだ。
「京子さん、来週、京子さんのご両親に会いたい」
リョウタの父親からだった。
私は、まだ両親に言ってなかった。




