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35歳の憂鬱。  作者: 武 画美
本編。
14/21

引き抜き。


「リョウタ、梨むいたよ」

「置いてて」

リョウタは、パソコンで新曲のアレンジをしてた。次のライブまで、間に合わせたいらしい。

「先に寝るね」

邪魔しないように、私は寝室に行った。

最近、ヤケになったように、曲を作っている。

何があったんだろう。




「リョウタ、今のバンドじゃ、絶対メジャーには、なれない。あのメンバーで上京したって、無理な話。そんな甘いもんじゃないよ。」

ケイジさんは、オレらのバンドを全否定した。




「オレ、腕に、タトゥーいれようかな」

リョウタが突然言い出した。

「えー、やめなよ」

お金もないのに、タトゥーなんて無謀だ。

「京子の名前をいれたい」

「彼女の名前を入れると、たいてい別れるよ」

「えっ、そうなの?」

「外人の有名人、そうじゃん」

「そうなんだ。」

「リョウタの次の彼女のために、私の名前を入れるのは、やめたほうがいいよ」

リョウタの顔色が変わった。

「なんだよ。次の彼女って。なんで、京子って、いつもそうなんだよ。悟ったふりしてさ。またオレが浮気すると思ってんだろ」

リョウタは、一気に不機嫌になった。

「リョウタ、ごめん。そんなに怒んないでよ」




「ケイジさん、帰ってきてたんですか」

街で、偶然、裕太とケイジが会った。

「おー裕太。メジャー決まってな。その前に帰ってきた。明日、東京帰る。」

「メジャー決まったんですか。すごい」

「リョウタをオレらのバンドに引き抜こうとしたら、即答でフラレたよ」

「えっ、リョウタを引き抜き?」

「なんでも夢があるとかで、断られた。リョウタの夢って、メジャーになることじゃなかったのかよ」

「夢?」


「裕太。キレイなメンバー愛もいいけど、人の可能性を潰すことは、本当のメンバー愛じゃない」

そう言って、ケイジは、裕太と別れた。




貸しスタジオ。

「リョウタ、どういうことだよっ」

スタジオ入ってくるなり、裕太は、リョウタに、突っかかっていった。

「ケイジさんに聞いた。メジャー決まってるケイジさんのバンドに引き抜かれたそうじゃないか。それを、なんで断るんだよ」

「別に、気が進まないから」

「オレ達のことなら気にしないで、メジャーになればいいじゃん。リョウタ、東京に行きたがってだろーが。」

「別に、もう断ったんだから、いいだろ」

「カッコつけんなよ。メジャーなれんのに、バカじゃねーの」

裕太は、リョウタを攻め立てた。


「オレの夢と、ケイジさんの夢が違ってただけのことだよ」


「やっぱリョウタは、バカだよ。そんなバカと、一緒にやれね」


「あーわかったよ。」

そう言って、裕太と険悪になったまま、リョウタは、スタジオを出た。




リョウタがマンションに帰ってきた。

「あれ?バンド練習じゃなかったの?早かったね」

「裕太とやり合った」

「裕太くんと?いつも、あんなに仲いいのに。どうしたの」


「京子、ずっと一緒にいてくれ」

そう言ってリョウタは、私を抱きしめた。


それは、口約束にすぎない。

子供を産めない体の私は、リョウタと、ずっといることは、できない。

いつかくる別れのために、今の時間を大切にしたい。リョウタと沢山、想い出をつくり、その想い出を胸に、一人で生きていこう。


でも、いつか、リョウタの子供を見てみたい。

私との子供じゃなくてもいい。違う人との子供でも、リョウタの子供を見たい。



「リョウタ、裕太くんは、リョウタのことを思って言ったんだと思うよ」


「わかってる」


今のオレに、大切なものを二つも、失うことは出来ない。

今のメンバーと、そして、京子。

京子は、もし東京にオレが行くことになっても、ついてこないだろう。

そんな気がする。



夜中1時に、リョウタのスマホにLINEがきた。


「リョウタ、ごめん」

裕太くんから、だった。




リョウタと裕太くんは、無事に仲直りした。

今度のライブのために、バンドの練習を増やしている。

リョウタが作ったという新曲を披露するそうだ。




「京子さん、来週、京子さんのご両親に会いたい」

リョウタの父親からだった。


私は、まだ両親に言ってなかった。







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