土曜日。
リョウタの二週間だけの工事現場のバイトは、終わった。夜の居酒屋のバイトと掛け持ちして、なんとか、やり遂げた。
日曜日の休みに、ソファーを買いにリョウタとIKEAに行った。
今のソファーは、二人座るには、少し窮屈なので、もう少し、ゆったり座れるソファーが欲しくなった。
「これ、いいじゃん」
白いソファーを指差して、リョウタが言った。
「形はいいけど、白は、汚れが目立つから」
「黒だって、なんか重い感じするよ」
それも、そーだが。なかなか決まらない。
「じゃあ、京子考えてて。オレ、トイレ行ってくる」
リョウタがトイレ行って、一人で、悩んでると
「京子さーん」
声をかけてきたのは、営業の新人の田中くんだった。
「京子さん、何を買いに来たんですか」
「ソファーを、変えようと思って。田中くんは?」
「オレは、本棚にできるようなのないかなーと思って」
いつもスーツ姿の田中くんしか見たことなかったから、私服の田中くんは、いつもより若く見えた。
「京子さんの私服、素敵です。」
「そう?ありがとう」
ゾクッと痛い視線を感じた。
「なんなんだオマエ?オレの彼女に気安く声かけんなよ」
リョウタがトイレから帰ってきた。
「リョウタ、違うのよ。会社の後輩なのよ」
「ふん。こいつ、デレデレしてたぞ」
「田中くん、ごめんなさい」
私はリョウタの無礼さを田中くんに謝った。
「京子さん、大丈夫ですよ。じゃあ明日会社で」
そういって、田中くんは、行った。
「なんでリョウタ、あんな言い方するのよ。会社の人なのよ」
「でも、アイツ、京子見て、デレデレしてた」
「してないよ。田中くんって、私より一回りも下なのよ。」
「はっ。オレより年下じゃん。ちょっと京子、年下だと思って、優しくし過ぎなんじゃないの。だから、その気になるんじゃねーの」
「別に、普通に接してるわよ。」
リョウタが、ちょっと不機嫌に、なった。
「もう機嫌直して、ソファー決めようよ」
田中くんに、リョウタのこと知られて、会社で言われるのかな。なんか嫌だった。
月曜日。
「板谷さん。聞いて下さいよ。京子さんの彼氏、年下ですよ。年下。昨日、偶然IKEAで会ったんです」
新人の田中は、早速、営業のエースの板谷に言っていた。
「彼氏いたのに、田中、嬉しそうだな」
「彼氏が、年下ということは、京子さん、年下オッケーと言うことですよ。オレも、脈ありですよー」
田中は、テンションが高かった。
「だって、彼氏いるんだから、ダメだろ」
「あんなチャラそうな彼氏、すぐ別れますよ。それに嫉妬深いんですよ。オレに、番が回ってくるのも時間の問題ですよ」
「だって年下といっても、笹原の彼氏、何歳くらいなんだよ」
「オレくらいじゃないですかね」
「そんな年下なのかよ。笹原がねー」
「あれは、サラリーマンって感じじゃないから、ダメですよ。すぐ別れますー」
田中のテンションは、高くなるばかりだった。
「笹原、悪いんだけど、明日までの仕事手伝ってくれないかな」
営業のエースの板谷が言った。
「いいですよ」
「ちょっと残業になるかもしれない量だけど、頼むよ」
「はい。大丈夫です」
そうして、今日も残業になった。リョウタは、バイトで、遅いし、早く帰る理由もないから、別にいいか。
「笹原、助かったよ。ありがとう」
8時になっていたが、板谷に頼まれた仕事は、終わった。
「お礼に奢るから、飯付き合ってよ」
断れるに断れない感じだったので、板谷さんと食事に行くことにした。
「あー疲れた。ほんと笹原に手伝ってもらって助かったよ。田中じゃ急ぎの仕事だから、アテにならないし」
そう言って、板谷は、ビールを飲んだ。
営業の板谷は、板谷の営業成績で、会社が成り立ってると言っても過言ではないほど、仕事のできる男だ。
私と同じ35歳だが、私は中途入社なので、板谷は、先輩になる。28歳のとき結婚したらしいが、三年で別れたらしいバツイチだ。
見た目もいいし、仕事もできるし、モテないわけではないが、結婚は、もういいと言ってるらしい。
「今の若い奴って、何考えてるか、ほんと解らないよ」
板谷のアシスタントの田中くんのことを言ってるのだろうか。
「世代が違いますからね」
「田中なんか、同じことを何回も説明しても、覚えないし、取引先の約束に平気で遅れるし、ほんと解んないね」
「でも、田中くん、新人なのに、残って仕事を終らせようとして、頑張ってますよ」
定時で帰ることだけを考えてる南美とは、違う。
「それは、当たり前だろ。言われたことも終らせないのは、ダメだろ」
南美は、言われたことも終らせないで、帰る。そのシワよせは、私だ。南美よりは、田中くんのほうが、やる気あるように見える。
「これから覚えていくんじゃないですかね」
「笹原って、寛大だな。あんな若者と、毎日いると、いくらオレでも疲れてくる。ああオレって年だなって、ヒシヒシと感じるよ」
私は、エースの板谷でも、そんな風に感じるのかと思って、可笑しくなった。
「笹原、笑ってるけど、マジで、最近、オレは疲れてんだよ。あのテンション高いと思えば、ちょっと注意すると、ひどく落ちたり。かと思えば、立ち直り早いし。もう、やりきれん」
私は、それが、プライベートでは、毎日だ。
「でも、私の23歳も、最初から完璧だったわけじゃないし、自分で感じないだけで、私も、そんな感じだったかもしれないし。田中くんは、これから成長しますよ」
「アイツが、成長する姿が、オレには、想像できない」
エースの板谷にも、新人時代があったはずだ。最初から、仕事が完璧に、できる人なんていない。でも、中堅になると、後輩の指導も仕事になるから、自分の仕事もこなして、指導との両立は大変かもしれない。新人は、まだミスも多い。それをカバーしなければならない。年を重ねた中堅には、体力的にもキツいのかもしれない。
まあ、私も新人の南美に、イラつくこともあるから、人のことは、言えないが。
まずい。こんな時間だ。早くしないとリョウタが帰ってくる。板谷さんは、タバコ吸ったから、染み付いてるかも。タバコの匂いをするとリョウタが怪しむから、リョウタ帰ってくるまえに、シャワー浴びないと。
そうして、私は、板谷と別れて、急いで帰った。
「今度の土曜日さ」
バイトから帰ってきたリョウタが言った。
「あっ今度の土曜日、クラス会だから、夜いないよ」
私は高校のクラス会に行くことにした。
「はあ?今度の土曜日は、オレ休みとれたんだよ」
「もうクラス会行くって、返事しちゃったよ」
「オレが、土曜日休みとれるって、滅多にないんだよ。それでも行くのかよ」
「慶子も行くっていうし」
「もういい。クラス会行けばいいさ」
そういって、リョウタは、拗ねて、寝室に行った。
はあー。私はため息をついた。確かに、リョウタが、稼ぎとぎの土曜日は、休みとりにくいから、土曜日休むって、珍しいことだけど、リョウタとは、毎日会ってるんだし、久しぶりに会う高校の同級生もいるのに、三時間くらいのクラス会で、なんで拗ねるんだろ。
「リョウタ、店、予約したのか?」
バイト先で、裕太が言った。
「してない」
「オレの彼女言ってたけど、あの店、人気あるから、土曜日は、予約しないと入れないかもしれないってよ」
「土曜日、京子、クラス会行くって」
「えー。せっかく休みとったのに。京子さんに、京子さんの行きたがってたイタリアン連れて行くっていったのかよ」
「言ってない。京子、クラス会に行きたそうだったし」
「言わなきゃだめだよ。じゃあ、アレいつ渡すんだよ」
「もう渡すのやめようかと思って」
「なんでだよ。せっかく買ったのに」
リョウタは、工事現場のバイト代が、思ってたより入ったので、京子が行きたがってたイタリアンに行こうとしてた。
その時に、京子に渡そうと指輪を買っていた。一万円の安い指輪だったが、裕太に付き合ってもらって、京子に似合う指輪を探した。
「京子、クラス会に行って、ちゃんと社員で働いてる大人の男と会うんだろうし、オレなんか、いくらサプライズでしようとしたって、大人の男の足元にも及ばないよ」
「リョウタ、京子さんは、そんなこと思わないよ。きっと、リョウタのサプライズ喜ぶよ」
裕太は、リョウタが落ち込んでるのを悟ったのか、励ました。
土曜日。
「リョウタ、じゃあ、行ってくるね」
リョウタは、ふて寝してた。
クラス会には、まだ早いけど、気まづいので、早く家を出た。
街で、時間潰しをしてると、裕太くんがいた。
「裕太くん、バイトこれから?」
「はい。京子さんは、クラス会ですか」
「うん。まだ早いから時間潰しをしてたの」
「リョウタは?」
「なんか、ふてくされて寝てる」
「サプライズだから、言っちゃダメなの分かってるけど、リョウタが可哀想だから言う」
「どうしたの?」
「リョウタ、ほんとは、今日、京子さんを、京子さんが行きたがってたイタリアンに連れて行こうとしてたんだ。工事現場のバイト代入ったから、京子さんにご馳走するって言ってて。だから、大学生のバイトに休み変わってもらって、休みとったんだ」
もう、なんで、言わないのよ。最初から言ってくれれば、クラス会なんて、欠席で返事したのに。
私は急いで、マンションに帰った。
「リョウタ」
寝室で、ふて寝してたリョウタを起こした。
「京子、クラス会に行ったんじゃないのか」
「電話で断った。キャンセル分の会費は、慶子が立て替えてくれるって言うし」
「いいのかよ」
「早く、イタリアン行こう」
「えっ、予約してないし」
「大丈夫だよ。さっき電話したら、席とれるって言ってた。リョウタも早く着替えて行こう」
そうして、リョウタの奢りで、イタリアンを堪能した。
月曜日。
新人の南美が、私の右手の薬指を見て言った。
「京子さんのしてる指輪、可愛いー」




