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裏野ハイツ幻想  作者: 松宮星
第2話 幻想と現実の間
7/14

ぼくはいいこ【103号室】

 ぼくはいいこ。

 とってもいいこ。


 きょうも、ほめられた。




「そうか、裕翔。今日も長谷川さん()にお邪魔してたのか」

 うん、パパ。201のおばあちゃんにあそんでもらった!


「さすがに悪くないか? こう毎日じゃ」

「……大丈夫よ。長谷川さん、お年寄りの一人暮らしだもの。お時間だけはおありの方だから」

「あ〜 うん、でも」

「……しょうがないでしょ。保育園に空きがなかったんだもの。私のパートの間だけよ」

「お礼はきちんとしとけよ」

「……してるわよ」

「裕翔、いい子にしろよ。201のおばあちゃんの言うことをよく聞くんだぞ」

 うん、パパ。

「よしよし、いい子だ」

 なでられた!


「お外へ行く時は帽子を被るんだぞ」

 うん、パパ。

「お水をいっぱい飲むんだぞ」

 うん、パパ。

「おい。熱中症には気をつけてやれよ」

「……わかってるわよ」


 ぼくは、うなずく。


 なんでもうなずく。


 うなずいてニコニコわらう。




 201のおばあちゃんとあそんだのは、きのうのきのう。


 プリンおいしい。

 ごはんおいしい。


 ずっと201にいたい。


 でも、あんまりあそべない。


 おばあちゃんはいそがしい。

 ならいごといっぱい。

 めったにおうちにいない。



* * * * * *



「裕翔。いい子にしてるのよ」


 ぼくはいいこ。

 どうでもいいこ。


 きょうもママはパートに行く。



 ひとりではおそとにいってはいけません。

 ひとりではまどをあけてはいけません。

 ひとりではエアコンいれてはいけません。

 ひとりではれいぞうこあけてはいけません。

 ひとりではじゃぐちをひねってはいけません。


 ママとのおやくそくを、やぶっちゃいけません。


 おうちのなかで、なんどもなんどもママとのおやくそくをアンショーする。


 やらないと、ママがおこる。


 もうおふとんにはいってなさいって。


 ゆうごはんがもらえない。


 パパがいるときしか、ごはんもらえないのに。



 あついあついあつい……


 ママはやくかえってきて。


 ぼくはアンショーをがんばる。



 あつくて、おへやにいられない。

 あつくて、リビングにいられない。


 あいてるとびらはとおってもいい。


 きょうもおふろばにいく。


 じゃぐちをひねってはいけません。


 でも、おふろにはおみずがいっぱい。


 のんでものんでも、まだまだいっぱい。


 おかおをばしゃばしゃしても、まだまだいっぱい。




 くらくなって、ママがかえってくる。


 おふろばのでんきをつけて、ママががっかりする。


 びしゃびしゃのぼくは、バスタオルでフキフキされる。


 ふきながら、ママはしゃべる。

 ぼくじゃなくて。

 だれかとはなしてる。


 ヨコーレンシュウなんだって。



「……急に子供を預かってもらえなくなって……パートに行く間だけ、ほんの数時間だからと目を離した私が悪かったんです。まさか残り湯で溺れるなんて……」


 ぼくのおかおをみてママがわらう。

 ママ、じょうずにできたみたい。


 ぼくもわらった。

 ニコニコわらった。


「……明日こそ、ね」

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