ぼくはいいこ【103号室】
ぼくはいいこ。
とってもいいこ。
きょうも、ほめられた。
「そうか、裕翔。今日も長谷川さん家にお邪魔してたのか」
うん、パパ。201のおばあちゃんにあそんでもらった!
「さすがに悪くないか? こう毎日じゃ」
「……大丈夫よ。長谷川さん、お年寄りの一人暮らしだもの。お時間だけはおありの方だから」
「あ〜 うん、でも」
「……しょうがないでしょ。保育園に空きがなかったんだもの。私のパートの間だけよ」
「お礼はきちんとしとけよ」
「……してるわよ」
「裕翔、いい子にしろよ。201のおばあちゃんの言うことをよく聞くんだぞ」
うん、パパ。
「よしよし、いい子だ」
なでられた!
「お外へ行く時は帽子を被るんだぞ」
うん、パパ。
「お水をいっぱい飲むんだぞ」
うん、パパ。
「おい。熱中症には気をつけてやれよ」
「……わかってるわよ」
ぼくは、うなずく。
なんでもうなずく。
うなずいてニコニコわらう。
201のおばあちゃんとあそんだのは、きのうのきのう。
プリンおいしい。
ごはんおいしい。
ずっと201にいたい。
でも、あんまりあそべない。
おばあちゃんはいそがしい。
ならいごといっぱい。
めったにおうちにいない。
* * * * * *
「裕翔。いい子にしてるのよ」
ぼくはいいこ。
どうでもいいこ。
きょうもママはパートに行く。
ひとりではおそとにいってはいけません。
ひとりではまどをあけてはいけません。
ひとりではエアコンいれてはいけません。
ひとりではれいぞうこあけてはいけません。
ひとりではじゃぐちをひねってはいけません。
ママとのおやくそくを、やぶっちゃいけません。
おうちのなかで、なんどもなんどもママとのおやくそくをアンショーする。
やらないと、ママがおこる。
もうおふとんにはいってなさいって。
ゆうごはんがもらえない。
パパがいるときしか、ごはんもらえないのに。
あついあついあつい……
ママはやくかえってきて。
ぼくはアンショーをがんばる。
あつくて、おへやにいられない。
あつくて、リビングにいられない。
あいてるとびらはとおってもいい。
きょうもおふろばにいく。
じゃぐちをひねってはいけません。
でも、おふろにはおみずがいっぱい。
のんでものんでも、まだまだいっぱい。
おかおをばしゃばしゃしても、まだまだいっぱい。
くらくなって、ママがかえってくる。
おふろばのでんきをつけて、ママががっかりする。
びしゃびしゃのぼくは、バスタオルでフキフキされる。
ふきながら、ママはしゃべる。
ぼくじゃなくて。
だれかとはなしてる。
ヨコーレンシュウなんだって。
「……急に子供を預かってもらえなくなって……パートに行く間だけ、ほんの数時間だからと目を離した私が悪かったんです。まさか残り湯で溺れるなんて……」
ぼくのおかおをみてママがわらう。
ママ、じょうずにできたみたい。
ぼくもわらった。
ニコニコわらった。
「……明日こそ、ね」