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裏野ハイツ幻想  作者: 松宮星
第1話 203号室の謎
3/14

階段は昇らなくてもいい

「更に言えば、階段が気持ち悪い」

 オヤジが間取り図を指さす。


「直進階段を昇ってすぐ右手が玄関……階段の床板いっぱいに開く玄関扉……2F共用通路の表記は無い。つまり、この階段は203号室専用の階段となるわけだが……」

 オヤジがフレームをもって、メガネをかけ直す。


「201と202の階段はどうなってると思う?」


 それぞれ専用階段を持ってる……?


 けど、アパートで、2F全室に専用階段有り? すげぇ無駄くさい造り。建築基準法的にどうなんだ?


 そんな建物って見たことないような……



 あ!


 あったな!


 1Fの玄関あけるとすぐ階段で、2Fの居住部まで一直線って物件あったあった。1Fに全戸の玄関がずらりって造りだったな。


……その造りなら、階段の横に隣室を配置できる。

 203 202 201 って廊下から見た並びじゃなくても、

 201 202 203 でもいけるってことじゃん?


 なぁんだ、そういうことか……


「違う。1Fに玄関があるのなら、間取り図にも表記されるはずだ」

 よく見ろと、オヤジが間取り図を指さす。

「第一、これは外階段だ。LDKに面した玄関にタタキがあるだろ? ここで靴を脱ぐんだ」

 たしかに。

「それに、LDKと風呂場の窓が階段に面してるんだ。階段が屋内だったら、わざわざそこに湿気を逃す窓をもうけると思うか?」

 思いません。


 この階段は、外階段で間違いなさそう。



 つーと、2Fの全室に専用外階段付き?

 謎なつくりだ。

 共用通路をもうけられないほど、敷地が狭いのか? 裏野ハイツの周囲は、すぐ隣家の壁? 道路?



「階段、8段なのね〜 えっと……2階までの高さって……だいたい……」

 首をかしげた母さんに、「2・5mから3mぐらいだな」とオヤジがアシスト。

「3mね。3m ÷ 8だと、一段の高さは……」

 チラシの裏をつかって、母さんが筆算をする。

「あらやだ。37・5センチだわ」

 1段あたりの高さは、ほぼ40センチ?

「急すぎて、危ないわねえ。まどちゃんが怪我しちゃうわ」

 いや、それ、お年寄りだと昇れねーし。引っ越し業者が死ぬから。

 仮に2階まで2・5mだとしても、8段じゃ……1段あたりの高さは30センチ以上。

 建築基準法違反だろ、ぜったい。


 表記されてないだけで、8段以上あるに決まってる。


 階段ってふつう……


 何段だっけ?


 十三階段の怪談があるから、そんぐらいか?



「段数省略のマークがない。おれは、この階段は8段だと思う」

 フフンと笑みをつくり、オヤジがフロントを手で覆ってメガネを持ち上げる。

 ぉい、こら。

 なに中二病ポーズとってんだ。

 きめーよ。

 ほらな。まどかにもガン無視されてっぞ。

 とっとと、そのズレやすいメガネ直せよ……。


「正樹、まどか。常識にとらわれすぎては駄目だ。真実が見えなくなる。若者らしく、もっと柔軟な発想をしてみろ」


 ドヤ顔のおっさんが、俺の目を見つめる。勿論、まどかには無視されているからだ。


「2Fへの階段は、昇りとは限らない」


 は?


「階段は昇らなくてもいいんだ」



 オヤジが、母さんからチラシを奪う。

「図に描くと、こうだ」


 チラシの裏に描かれたのは、裏野ハイツ203号室の間取り。

 その左側、つーか西面だな、階段と風呂場の横に斜線を引き、オヤジは漢字でデカデカと『高台』と書き加えた。


「つまり! 裏野ハイツとは、特殊な場所に建てられたアパート! 崖に面したアパートなのだ!」



 部屋の中がシーンとする。


 反応待ちのオヤジ(ドヤ顔)。

 ニコニコ笑ってる母さん。

『だからなに?』を貫くまどか。



……かわいそうなんで、俺が反応してやった。


 ようするに、だ。

 裏野ハイツの西側には高台があって、2F部屋にはそこから下り階段で行く……そう言いたいんだよな、オヤジ?


 そうだ、とおっさんが頷く。


 オヤジよ……

 推理小説マニアなのは、知ってっけど。

『常識を(くつがえ)す建物』を想像するのが楽しいんだろうけど。


 曇った目で、世の中を見ないでくれ……

 いや、濁った目と言うべきか……?


 崖の手前に、わざわざアパートつくるかぁ? 土砂崩れこぇぇぇだろーが!

 つーか、風呂場の外が崖? 窓あけたら、崖とご対面ってか? 嫌すぎるぞ、その景観!


 そんなアパートあるわけねーだろ、バーカ!



「現地に行けばわかることだ……」

 オヤジがキメ顔になって、まどかに微笑みかける。

「まどか、お父さんに任せとけ。このおれの目で、一番いい物件を選んでやる。向こうに行ってみなければわからないが、裏野ハイツはおそらく無し……」


「あら〜 それは無理よ、お父さん」

 母さんが、おっとりと言う。

「あさって、内覧だもの」


 そう……内覧は、木曜の昼間。


 平日の日中なのだ。



 この世の終わりが来たかのような顔だな、オヤジ……



 ま、可愛いまどかの為だし。

 おにーちゃんはついてくよ。

 オヤジの名推理が合ってるかも、ついでに見て来てやらぁ。

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