ラルとの出会い
夏休み。だだ暑かった。
そして、三十分の時が流れた。
皿洗いと、キッチンの掃除を終えたルーイは、ちゃんとキッチンでお茶を淹れ、サーシャをもてなした。
「いやー君が空から落ちてきて、受け止めようとしたらずぶ濡れになり、着替えようとして裸になっただけでワーキャー騒がれるし、せっかくお茶でおもてなししようとしたら淹れ方でブチ切れられるし、
いや〜まいったまいった」
私への当て付けなのか、ルーイは、
はっはっはと、空笑いしながら喧嘩を売ってきた。
私は返事をするのが面倒くさかったのと、昨日まで何も食べてなかったのが
合わさり、お茶と一緒に貰ったサンドウィッチを頬張るのに必死で、話が全く入ってこなかった。
ルーイは、話を無視されて少々不貞腐れた表情を見せた。
「それ食い終わったら、出かけるぞ」
ルーイは、玄関の床にあるアタッシュケースを手に取り、中身を確認し、椅子の側に置いた。
私は残り一口のサンドウィッチを口に放り込み、それを確認したルーイは立ち上がり、外へと向かった。
「あの、」
「ん?」
「靴だけ貸してもらえませんか?」
私はルーイに細やかな願いを伝えた。
ルーイははっと気づいたような顔で、しかし、まず靴がルーイの履いてる一足しかなかった。
私の靴は落ちるとき彼処に置いてきたままだった。
ルーイは軽いため息を吐き、サーシャをまたおんぶして、山を下った。
十分程、山を下ったら町が見えてきた。
広いメイン道路の脇にひっそりと商店が疎らに立ち並んでおり、人の出入りは時々婦人が買い物をする程度と、
男達は商業を営んでいるか、建築中と書かれた建物に張り付くように作業を行っている姿が、少し印象的だった。
ルーイは私をおんぶしたまま目の前にあった靴屋に入り、私に合った革の靴を買い、自分で歩いてくれと言いながら手渡した。
そこから10分ほど歩き、周りの建物より大きい、事務所のような場所に入った。
「ラルはいるか?」
ルーイはここへよく来てるのか、ベルで呼んだフロントの女性にその名を告げると、事務室にいますと言われたので、そこに入っていった。
そこは人の行き来が激しく、女性も男性も狭い事務室内で移動の時間も惜しいかのように皆小走りしていた。
その事務室の中心にラルと呼ばれる人物はいた。
「よ」
「よじゃねえよ! 何でこのクソ忙しい時に押しかけてくるんだ!?」
「まーまーまー、こいつ引き取って」
ルーイは軽々しくサーシャを指差しながらラルに伝えた。
鳩に豆鉄砲打たれたかのような二人の心境は、一瞬時が止まったかのような感覚に陥った。
「待て待て待て待て待て!?
クソ忙しいと言ってんだろ!?」
「だったら、暇になるまで獄中に入れりゃいい」
「そんなことしたらこの子の尊厳が傷ついてしまう!!」
「家に置いといたら?」
「だったらお前がやればいいじゃないか!?」
「えー、落し物をしたら交番に届けなさいっておっ母に言われててー」
「すまんな坊主、生憎、ここは交番でもなければ警察でもない。自警団だ。面倒なことはしない!」
正義もへったくれもないこと言いだしたぞこの人。何で自警団なんかやってんのさ……
「あのー私、お邪魔?」
「「ああ」」
私は何も言わず、その場を立ち去ろうとした。
「待って!! 分かった!!」
少々半泣きになりながら、ここから立ち去ろうとするサーシャをラルが引き止め、大きなため息をつきながら真面目な話を切り出した。
「一つ、頼みたいことがある」
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