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タイムウェザー  作者: 秋十
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ルーイとの出会い


夜が明けた。

辺り一面、藍色だった空が、見るのも眩しい朱色に変わっていった。


次第に輝かしい宝石の様な太陽が昇り、一日の始まりを告げていた。


ルーイはこの瞬間の空が好きだった。


森を少し抜けた場所に、丘の様な沿岸があり、彼はそこに座り、ただじっとそれを見ていた。


やがて日が昇りきり、ルーイが立ち上がろうとした時、少女が太陽と重なりながら、ゆっくりと海に向かって落ちてきた。


ルーイは目をひん剥き、反射的に浜辺まで走り、少女が落ちてくる沿岸

の岩場を跳びながら渡り、落ちてくる場所の近くで待った。


少女は差し出したルーイの腕に吸い込まれる様に、ルーイは頭と膝の関節をしっかりと抱きしめた。


血が滲んだ両手、擦り傷だらけの足、

ルーイはこの少女の身に何が起こったのだろうと、素朴な疑問を抱えた。


そう考えている時、急に腕に重さが伝わり、足場が不安定な岩場と、棒立ちでただ腕を差し出しただけの体勢ゆえ、ボッチャーンと心地よい音を立てながら、海に頭から落ちた。




小鳥のさえずりで私は目覚めた。


最初に目に飛び込んできたのは、周りは木々で生い茂っているのにここだけ草しか生えてない場所の中心に高床式の森小屋と、

上半身裸の殿方が黒い布生地のフードのある羽織りを、パンパンとシワ伸ばしをしていた。


私は、最初に目に飛び込んできた映像がそれだったので、甲高い短い悲鳴を上げてしまい、咄嗟に目を手で塞ごうとしたが、木の幹にグルグル巻きにされてるのを、今気づいた。


腕は指先しか動かないほどキツく縛られており、必死にもがいたが、縄が食い込むばかりで全く解くことができなかった。


どうしようもなかったので、とにかく目の前の光景を見まいとして、目をきつく閉じた。


「あの! せめて上は着てくれないですか!?」


私は目を閉じながら、今、下まで脱ごうとしてた男性に向かってほとんど叫ぶ様に言った。


「何故だ? 何故着る必要がある? 人は生まれてきた時から裸だ。裸こそが自然体であり、生き物と腹を割って話すには真っ裸の方が良い。

第一そんなーー」

「いいから服を着ろ!!」


理解できない。そもそも堂々と人のいる前で肌を露出することが理解出来ない。


私は少し薄目で前を見つめた。


彼は手に持っていた羽織を木と木で結んだロープに吊るし、いちようインナーは来てくれる様だ。


「服を着たなら縄を解いて下さい」


「何故だ? 何故解く必要がある?

わたしに危害を加えないとーー」

「あー、もう何もしないので早く解いて下さい。第一箱入り娘が、貴方みたいな野生的な人に危害なんて加えられると思ってるんですか?」


(箱入り娘だったのか)

彼は心の中で密かに思った。


「分かった。少し待ってろ」

そう言うと、彼は箱入り娘の背後に回り、縛っていたロープを緩めた。


箱入り娘は辺りを見渡し、両手、両足に強く何かが巻き付けてある様な感覚がした。


何となく両手を顔の前まで持ってくると、包帯でグルグル巻きされている掌があった。


両足も似た様に包帯でグルグル巻きにされてた。


「まあ、例え敵だとしても、傷ついた奴を放っておけるほど俺は腐ってない」


彼はそう言いながら、ついて来いと言わんばかりの背中で小屋の中に入っていった。


私もそれに続こうとしたが、傷だらけの手足のせいで、痛くて立つことが出来なかった。


見かねた彼は、私の前で背中を向けながらしゃがみ、おぶってやる様な仕草を取り、私もそれに委ねる様におぶってもらった。


背中は大きいとは言えなかったが、

男らしい、固い背中に、私は少し安心感が持てた。


彼はそのまま小屋の階段を少し重そうにのっしのっしと登り、落ちない様に腰を直角に曲げ、ドアノブに手を掛けた。


室内は、檜の香りがほのやかにし、表面はニスを塗ってスベスベしているが、縁は疎らな波の様になっており、まさに一本の樹木から作りましたと思える様なテーブルが目立ち、奥には石を積み重ねて固めたような暖炉が堂々と設置されていた。

壁や床も、全て樹木から出来ており、私はあの街では見たことがない、また風変わりな家だった。


「いい家ですね」

「まあな」


私たちは素っ気ない会話を交わし、ゆっくりとテーブルの横にある木製の椅子に座らせてもらい、彼も座った。


「じゃあまず自己紹介をしよう。俺はルーイ。 あんたは?」

「私は、サーシャ」


名乗ってきたのでと挨拶を返したが、何故かさっきみたいな威勢の良さが出なくなった。

久々に人と話したので、緊張してしまった。


ルーイはそんな姿を察したのか、席を立ち上がり、玄関から右手側の方を指差した。


「トイレならあっち」


全然察せてなかった。


「いや、少し喉が渇いたな〜、て」

「洗面台ならあっち」


水道水で飲めと言ってるのだろうか?

しかも、又トイレを指差した。


「いや、そうじゃなくてお茶をもらえないですか?」

「ああ、そうならそうと早く言えよ」


いや、普通気づくでしょ。

ルーイは、急須に茶葉を入れ、

お手洗いの方を目指して行った。


「チョット待ってください! 何故トイレなんですか!?」

「え、だって台所は洗ってない皿が散乱して、コバエが飛び回ってるんですよ?」

「だからってトイレはないんじゃないですか!?」

「何言ってんだい? キッチンよりトイレのほうが20倍綺麗なんだよ。 そこでお茶を淹れるほうが20倍も、綺麗なんだよ?」


私は何かがプッツンと切れた。


「……今すぐ洗え」

「へ?」

「今すぐ皿全部洗いやがれ!!」


屏風から虎が飛び出たような驚きで、ルーイは逃げるかのようにキッチンへと走って行った。




















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