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魔法の便利方向への使い方

 後日、流石にあのままでは悔しすぎるので1人で剣と弓の練習をしたのだが半日でやめた。


 もうね、無理、絶対無理。ホント何なんだよこれ。

 練習をすればするほど見苦しくなっていく。


 木剣を下ろせば振られて転け、薙げば向こうの彼方へホームラン、挙句の果てに振ったはずの木剣が頭へ向かって落ちてくる。

 意味分からん。


 弓矢はもっと酷かった。矢がまともに射れなかったり、明後日の方向へ飛んで行くのは可愛い方で、酷かったのは矢が木に反射して顔を掠めてきたことだ。流石にこの辺りで練習を諦めた。危なすぎる。


 俺の訓練は有耶無耶になってしまったがエイリの狩人訓練はちゃんと行っている。だから俺も毎日ではないが参加している。もちろん狩人としてのではなく、基礎体力的な意味の方向で。


 なので俺の今の生活習慣は朝に訓練(時々)、昼に村長の家へ行き魔法の練習、夜に勉強となっている。


 こんな生活が数日続いたのだが今日は違う。今日は合宿だ。


 昨日サリー母さんがこんな事を言ったのだ。



 ---



「マキナ、明日から森に入って訓練をするわ。早くて2日、長くて5日以上森に籠もるから、あなたもそのつもりで」


「森に籠もる? 3人みんなで?」


「そうよ、みんなで。エイリちゃんの修行が目的だけどあなたもついてきて。さっき村長さんの所へ挨拶に行ったとき、グアーラさんに頼まれたのよ、なにかやってきて欲しい実験があるんですって」


 実は最近グアーラさんの研究を少しだけ手伝わせられているのだ。

 グアーラさんは植物の研究をしている。植物学なんか今まで知らなかったので俺としても悪くない話しだからちょいちょい引き受けている。


 手伝っていると言ってもそれほど大それた物でもない。実験用の田畑の面倒を少し手伝ったり、実験の助手をしているだけの雑用係だ。もちろんその過程で色々教わっているから文句も無いが、人使いが荒い気がするのだあの人は。


「実験? 全然聞いてないや。どんな内容?」


「詳しくは私も知らないわ。メモと鞄を預かってるわよ。メモを見れば分かるって言ってたわ」


 そう言って鞄とメモを俺に渡す。えーと、なになに。……はいはい、あの件ね。これなら俺でも出来るな。


「えー、なになに。何の話ししてんの2人で」


 エイリが話しに混ざってきた。もう寝るだけなので髪をほどいてかなりラフな格好だ。


「明日から始まる山籠もりにグアーラさんから実験を押しつけられたから僕も参加するって話しだよ、エイリ姉さん」


「うそ! マキナってグアーラさんの実験手伝ってるの? 凄い」


「誰でも出来る内容だし別に凄く無いよ。たんに自分でするのがめんどくさかったから僕に押し付けただけだよこれ」


「そんなことないよ。だってあの気難しいグアーラさんだよ。ヨニーさんはいつもあんなに優しいのになんでグアーラさんはツンケンしてるんだろうね?」


 確かにツンケンしている。ヨニーさんは起こったところを見たことが無いくらい優しい人だがその奥さんはバランスでも取るかのように性格が悪そうに見える。

 蓋を開けるとそうでもないんだけどね。教えたがりだし、村で薬師してけが人、病人の面倒だって看てるし。


「それでそれで、どんな実験なの? 教えて教えて」


「ほんとにたいしたこと無いよ。この前作ってた魔物除けの薬が出来たから使ってレポート出せと、どこどこの木が今経過観察中だからこれの様子見てこいだってさ」


「ふーん。何か手伝うことある? なんでも言ってねお姉ちゃんに」


「うーん、別にないな。そっちこそ明日の準備大丈夫なの? 忘れ物とか無い?」


「何よ、失礼しちゃうなーもう。私はお姉ちゃんなのよ、大丈夫に決まってるじゃない」


 いやいや、だいじょばねえよ。お前この前ナイフの手入れ下後ほったらかしにしてたっだろ。ナイフもむき身だし道具も散らばってたぞ。

 あれ? 片付いてる。きっと妖精さんのおかげね。とかなんとか頭お花畑みたいなことほざいてたけど、あれ片づけたの俺だからな。


「はいはい、2人とも仲が良いのはいいことだけど明日は忙しいんだからここまでね。ほらマキナ、あなたの分の荷物積めるから手伝って」


 ここで夜会はお開きとなった。



 ---



 と、こんな事があって今現在、俺が今まで来たことがないくらい森の深くまで来ています。


 今は大体お昼が過ぎた辺りで野営する場所はすでに決めている。ここらの魔物退治が粗方終わっているので比較的に安全なはず、らしい。

 俺が1人になるがまあ安全だろうと判断され、今日はそれぞれの仕事に取り掛かる事になった。

 サリー母さんとエイリは2人で更に深くまで入り修行兼狩り(夕飯調達)。

 そして俺はグアーラさんの指示通り実験中の木の経過観察に来ている。魔物除けの薬は野営場所で使うので後だ。


 メモによればここらへんに青い糸、赤い糸、黄色い糸をそれぞれ括りつけた3本の木があるはず。それらの経過観察を行わなかればならない。


 とかなんとか言っているうちに青い糸の木を発見。まずは状態を見る。


 根を見るが問題なくしっかりと張っている。次に幹を見るが樹の皮が不自然に剥げていたりせずしっかりしているのでOK。葉を手に取り全体を見ていくが斑点模様などなく綺麗な緑色でよろしい。


 外見に問題はないので次は採取を行う。葉を何枚かいただき丁寧に紙に包む。次に小さな枝を折らせていただく。最後に木の周りの土を別々の場所から数か所土を貰い道具の中にしまう。


 後はこれを2本行う。木を探すのもそれほどかからず簡単に俺の用事は終わってしまった。


 1人野営場所に戻って来たがやはり俺しかいない。

 ……暇だ。まだ日が暮れるまでそれなりに時間がある。多分2人は修行も兼ねてるから日が暮れる前じゃないと帰って来ないだろう。


 暇ならいつも通り魔法の練習をすればいいのだがそこはほら、やっぱりいつもと違うことをしているんだから何か特別な事をしたいと思うのが人の人情であって。なんとなーく、やる気が起きない。

 とは言えやっぱり暇なもんでどうしましょうか。サバイバル中なんだから当然暇をつぶす道具なんてありはしない。


 ……そう言えば俺、こんな本格的なキャンプ初めてだ。バーベキューや山小屋に泊まる事は無いわけではないがテントさえ無い野営は経験が無い。


 日本育ちのシティーボーイの俺にとって正直つらいところがあるんだよな。これはこれで楽しいんだろうけどやっぱり意味不明な抵抗があるよな。雪でも降ってればかまくら作って少しはマシになったんだろうけど。いや、ならないか。


 ……ん? かまくら?


 かまくらは雪で作った家の事だよな。雪の代わりに土で同じ事したらかまくら作れるくね?

 いや、普通なら無理だけどそこはほら、魔法を使えば。


 ……うん、いける。いけるきがする。便利な力があるんだから使わなきゃ損だよな。

 うん、やろう。やってみよう。ダメならダメでいい経験になるし。魔法のこういう便利方向の使い方はこれからも増えてくだろうしな。


 魔法を使った「キャンプで使える家造り」はサリー母さん達が帰って来るまでの十分な時間を潰せることが出来た。



 ---



「マキナ、ただいまー。1人で大丈夫だった?」


「ただいま。お姉ちゃんがいなくて寂しかったでしょ」


 外からサリー母さん達の声が聞こえてくる。窓から覗いた景色は赤みがかっていた。もうそんな時間か。


「見てよマキナこれ、今日はご馳走になっちゃうわ……ね……なにこれ?」


 お! いい感じに驚いてくれてるな。いいリアクションしてくれると作ったかいがあるよ。エイリなんか目をパチパチさせて黙っちゃったし。


 俺は作業の手を止め、窓から顔を出して2人に話しかける。


「お帰り、サリー母さん、エイリ姉さん。疲れたでしょ。さあ、中に入って入って」


 俺は2人を家へは入るように促す。そう、家へだ。


 家と言っても一軒家みたいな大それたもんじゃない。せいぜいがプレハブとかコンテナハウスぐらいの大きさだ。


 作り方はとってもシンプル。魔法で大きめの岩の板のようなものを作り、それを4枚縦にして四角を作りる。さらに上にもう1枚作り屋根にする。後は窓とドア用の穴を開ければほぼ完成。

 ガラスが無いので本当に穴を開けただけ窓だが。閉めるには同じ大きさの板で塞ぐしかない。ドアも同様。

 床は今作業していたのだがこれもすでにほとんど終わっている。


「これマキナが作ったの?」


「そうだよ。やっぱり寝る時ぐらい雨風しのげる場所が欲しいよね。だから作ってみたよ。初めてにしては悪く無いと思うんだけど、どう?」


 よく見れば所々雑な部分が少々目立つ。一部の壁は岩というより砂を固めたような物になっている。砂壁みたいな感じかな? 後で直そう。

 けどまあ、初めてにしてはそれなりのデキなのではなかろうか。


「あなたはいつも少し目を離したら驚くことばかりするわね。いやいや、それより気分が悪かったりしない? 目眩とか大丈夫?」


「大丈夫だよ。全く問題ない」

 魔法使ったぐらいで気分なんか悪くならんだろ。


「そうなの? 凄いわね。じゃあ、この規模の魔法になると中級以上の魔法が必要だと思うんだけどどうやってこれ作ったの?」


 よくぞ聞いてくれました。俺はつい最近中級の魔術も使えるようになったのだ。理由は簡単あれだよあれ。


「この前の誕生日に貰った杖があるでしょ。貰ってから魔法の習熟がすっごく捗って。この前使えるようになったよ」


 あれのお陰で使える魔法がグッと広がったのだ。曖昧な部分がある程度自動的に補正してくれるから未知の魔法でも感覚が習得しやすいのだ。

 それと実はもう1つ秘密がある。これのお陰で精密な魔力コントロールの練習が凄く捗っているのだがこれはまた今度。


「6才で中級魔法が使えて、家を1軒作ってもケロッとしている魔力量。マキナは特化型ね」


「特化型? 確かに武器がまともに持てないから魔法しか選択肢が無いんだけど」


「いえ、そうじゃないわ。何と言うか、家系の話しかな? 私のような万能型とお父さん、マキナのおじいちゃんみたいな何かに秀でるかのどっちかであることが多いのよ。ちなみにひぃおばあさまは私と同じ万能型らしいわ」


 へぇー。じゃあこの体は魔法の才能があるかもしれないってことか。それは助かるな。武器が持てないとわかった時は結構焦ったからな。


「おじいちゃんは何が得意だったの?」


「私と同じ弓よ。ただ、私よりかなり上手だけど。私も弓が得意で矢はほとんど外さないと自信を持って言えるわ。

 けどお父さんは絶対に外さないのよ。外したところなんて一度足りとも見たことないわね。絶対頭おかしいわ」


 サリー母さんが悔しそうに自分の父について語っている。絶対に外さないのか。それは凄いな。俺もそれぐらいのポテンシャルが秘めているのか。

 ……いや、どうだろう。中身はぬるま湯に肩までどっぷり浸かった普通の日本人だからな。流石にそこまで出来るとは思えんな。


「えっと、それでねマキナ。この家なんだけど」


 そうだそうだ。せっかく作ったんだし疲れてるだろうに。早く入って荷物置いて休んで貰おう。机とか椅子がまだなんだけどまあ別にいいよな。元々野営で地べただったろうし。囲炉裏みたいにして火が使える用にもなっているからこのまま料理だって出来るぞ。


「とってもありがたいんだけどこれちょっと困るわ。使えない」


 なんと! そんな馬鹿な。人がせっかく作ったのになんという。


「あれ、ダメ? 何か欠陥でもあった? 教えて教えて、すぐ直すよ」


 お客様のニーズには100%答えてやろう。ほれ、何でも言ってみ。


「いえ、そうじゃなくって、その今日は訓練で森に入ってきてるでしょ。野営もその訓練の1つだからこれ使うと意味なくなっちゃうのよ」


 あ! なるほど! そうだよな……そりゃそうだ。全然気づかなかった。これはやってしまいましたわ。バカだな俺……。


「気持ちはとっても嬉しいわ。ありがとうね。でも、その、今回はその……又の機会って事でお願い」


 申し訳無さそうに手を合わせるサリー母さん。いえいえ、こちらこそごめんなさいね。まさか俺がこの家から出て行く事になるとは思わなかった。新築なんだけどな……。


 エイリは先に中に入って見学している。時々「うわ、かったーい」とか「おっきーい」とか「きったなーい」とか言ってる。お前何処触ってんだよ。確かに多少砂っぽいところがあるけど外よりましだろ。


 俺もエイリも家から出て、サリー母さんの指示の元、夜の準備を始める。


 人の助けになるって難しいんだな。


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