新たな仲間? いえいえ家族です
「マキナおかえりー。調度良かった、すぐ晩ごはんだからほら座って座って」
サリー母さんがおかずの入った皿を持ち部屋に入ってきた。
「ほら、あなたも」
そう言って少女を食卓に促し自分も座る。
何が何だかよく分からないが俺も取り敢えず椅子に座る。
「みんな座ったわね。ハイ、注目。今日は良いお知らせが2つあります。拍手、パチパチパチ」
俺も少女もサリー母さんにつられて手を叩く。随分とテンション高いな。
「1つ目のお知らせです。なんと、今日は、マキナの、誕生日です。おめでとーマキナ」
「おめでとう」
サリー母さんが大げさに、嬉しそうに手を叩く。少女も一緒にお祝いしてくれた。
「え? 今日だっけ? 僕の誕生日」
「そうよマキナ。まさか忘れたの? 暦はヨニーさんの所で習ったわよね?」
「ちゃんと覚えてるよサリー母さん。風の季節、火の季節、土の季節、水の季節の4つの季節が1順して1年。1季節が100日だよね」
風火土水の季節はそのまま春夏秋冬に当てはまる。100日で次の季節に変わり400日で1年。余談だが1日は24時間の1時間60分だ。ここは地球と同じだ。なんでだろう? 偶然かな?
「そうよ。今日は火の季節の16日。マキナの誕生日。去年もそうだったけどあんまり喜ばないわよね」
そりゃ中身は30歳あたりのほぼおっさんなのだ。申し訳ないがいくら童心に帰ろうと限界がある。子供のハイパワーと激高テンションはどこから出てきているのだろう。子供に生まれ変わってもこれだけはわからない。
「でもね今日は違うわよ。すっごいプレゼント用意したんだから。ジャジャーン、はい誕生日プレゼント。開けてみて」
椅子の下に隠してあった袋を持って俺の手に渡してくれた。
なんだろう。袋は長細くリボンで止められている。そのリボンを解き中から取り出す。
最初に見えたのは石だ。子供の手に収まるくらいの深い青色の石が見えた。その石は次に見えた木の棒に埋め込まれている。これってもしかして・・・
「魔法の杖?」
「そうよ。マキナは毎日魔法の練習頑張ってるもんね。とっても偉いわ、だからそのご褒美よ」
ウソ、マジで、やったやったやった。メチャクチャ嬉しい。
「ありがとうサリー母さん。大好き」
椅子から降りてサリー母さんに抱きつく。よっしゃ魔法の杖ゲットだぜ。これで何が出来るんだろう。やっぱり魔法が強力になったりするのかな?
「どういたしましてマキナ。こんなに喜んでくれて私も嬉しいわ。その杖を使うといつもより魔法が出しやすくなるはずだから初めての魔法でも感覚を覚えやすくなるはずよ。魔術師見習いがよく使う杖なのよそれ」
なるほど。変異魔法はイメージが難しいものが多く難儀していた所なのだ。実にありがたい。
「ありがとうサリー母さん。じゃあちょっと試してくるね」
杖を持って玄関へ走り出す。この前失敗したあの魔法もこれを使えばいけるかもしれない。
「待って待って、マキナ。ちょっと待って。ご飯冷めちゃうし、まだもう1つお知らせも残ってるからそれは明日にしましょう」
腕を捕まれ止められてしまった。残念だ今すぐにでも使ってみたかったがしかたない。サリー母さんが席に戻ったので俺も自分の椅子に座る。
「それじゃあ2つ目のお知らせです。なんと、今日から家族が1人増えます。拍手、パチパチパチ。それじゃあ自己紹介して貰っていい?」
「はい、サリーさん。マキナ、初めまして。ブルボの娘のエイリです。マキナは今日で6才よね。私は11才だからお姉ちゃんになるわ。私、姉弟欲しかったの。これからよろしくね、マキナ」
オレンジの髪をポニーテイルにした見るからに元気いっぱいの女の子だ。
はぁ、20歳近く年下のお姉ちゃんですか、そうですか。こちらこそよろしく。
もう1つ余談だが、この世界には髪の色が青とか赤と緑の人が普通にいる。サリー母さんにいたってはピンクだし。ちなみに俺は茶髪である。
「マキナ、私と同じ猟師仲間のブルボさんって覚えてる?」
「何回か会ったことあるよね。よく燻製肉くれる人だっけ」
確か我が家と同じで片親の家だったはず。母1人息子1人の我が家と比べ逆の父1人娘1人の家だ。
「そうそう。ブルボさんの燻製料理は美味しいのよね、本人の趣味らしいんだけど。それでね、そのブルボさんがちょっと怪我しちゃって今ヨニーさんの家に入院してるのよ」
なんと! やっぱり猟師って危険な仕事だよな。サリー母さんは大丈夫だろうか。
「そしたら、エイリちゃんが家で1人になっちゃうじゃない。流石に子供を1人にさせるのはまずいからウチで面倒見ることになったのよ。ついでにブルボさんから私の所に弟子入りさせてやってくれないかって頼まれちゃって。だからしばらくの間エイリちゃんはウチで住んでもらうわね」
なるほど、確かにまだ小学生くらいの子を1人にするのは危険だ。この村は治安はかなりいい方だがそれでも日本とは違うのだ。悪漢だけでなく外にはモンスターもいるしね。
大体の事情は分かった。だがそれでも疑問はある。
「なんでサリー母さんの所に弟子入り? ブルボさんも猟師だよね? 弟子に来る必要ないんじゃない?」
普通そうだよな。向こうだってプロの猟師なのだからわざわざ他所様の弟子にしなくても自分で教えればいい。まさか自分の技を教えられないわけないだろうし。
「そんなの決まってるよー。サリーさんの子供なのにそんなこともわからないの~?」
決まってるのかー、そうなのかー。そいつぁ、わるーござんしたね。
そういえばサリー母さんの仕事についてあまり詳しく知らないな。猟師って普段なにしてんだ? 魔物がいるこの世界だと地球の猟師と同じ事をしてるとは限らなさそうだが。
「わからないや、なんでなの? 教えてエイリ」
まあ、わからなかったら聞けばいい。子供に何か言われてぐらいで起こるほど子供ではない。
「仕方ないなー。お姉ちゃんが教えてあげましょう。それはね、サリーさんが村1番の猟師だからだよ」
「そうなのサリー母さん?」
「うん? まぁ、そうね。なんだか自慢みたいになっちゃって恥ずかしいわね。この村に来る前は冒険者をやっていたからそのときにね。それなりには強いから腕には自信あるわよ」
そう言って力こぶを作るように腕を曲げるがこぶが出来るほど太くはない。
狩りの腕がいいのは人から聞いていたが1番とは知らなかった。
「すごいでしょマキナ。だからお父さんがどうせ学ぶなら1番を学んでこいって言ってサリーさんに頼んでくれたの。サリーさんって本当に凄いの。強くって優しくってかっこよくって、私の憧れなんだから。
だから私サリーさんの弟子になれて本当にうれしいんです。私なんでもしますからこれからよろしくお願いします」
エイリが俺に向いてた頭をサリー母さんへ向けて深く下げる。どっちに向かって話してんだかこの子は。あまりのべた褒めにサリー母さんも恥ずかしそうにしている。
「もう、そんなに煽てないで。エイリちゃん、弟子にすると決めた以上ビシビシいくわよ。こういう事は中途半端が1番危ないのよ、だからしっかり着いてきてね」
「はい。よろしくお願いします」
「それじゃあ、紹介も終わった事だし冷めない内にご飯を食べましょうか。今日はお祝いだからがんばったのよ」
机には俺の好物を中心にいつもより多くのご飯が並んでいる。普段なら食べきれない量だがこれからはこの量が当たり前になるだろう。今の食卓のような日常が続くならきっと毎日は楽しくなる。これからに期待しよう。そしてエイリ、これだけは言っておく。その肉オムレツは俺のだ返せ。