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生きる力は願いから

 グアーラさんから本を貸して貰った後勉強部屋に戻る。今は日が暮れる少し前ぐらいだろうか。


 少し早いが家に帰る時間がもうすぐなのでヨニーさん達に挨拶をしてそのまま帰ることにする。


 日本の学校と違いここは帰る時間は結構てきとうなのだ。日が暮れる頃に帰る子供も多いが暮れる前に帰る子も多い。それぞれの家庭の事情があるのだからある意味当然と言えば当然か。


 家に着くがサリー母さんはまだいなかった。今から勉強をするのだし都合がいい。

 この家には夜でも明かりをつけることが出来るランプのような魔導具があるが、普通この世界では、日本ほど手軽に明かりは用意出来ない。だから本を読むのは昼間の方が都合がいい。



 リビングに座り預かった本を出し読み始める。


『魔法とは魔力を消費してあらゆる現象は発生させる。何かを燃やしたり、水を発生させたり。魔法で出来ることは実に様々だ。

 魔法とは便利かつ強力なものだが、どのような魔法も使用する際には魔力が必要である。必要な魔力は自分の内にあるものだけでなく、外部のものを使用する方法もある。代表的なモノは魔石を使った魔力補助だろう。

 多くの魔法は呪文を述べることで発動させる。その方法は様々で詠唱であったり魔法陣等系統によって多岐に渡るため。本書では一般的な詠唱を取り上げる。

 魔法。一口に言ってもその種類は実に様々な系統に分けることが……。』


 今日の残りの時間は本を呼んでいるだけで時間が過ぎていった。


 ---


 勉強を初めた3日目の夜。サリー母さんが話しかけてきた。

「勉強してるみたいだし、邪魔にならないよう今まで何も言わなかったんだけど、マキナそれ何読んでるの? そんな本家にあったっけ?」


「グアーラさんに魔法を教わりに行ったら、これで勉強なさいって貸して貰った本だよ。やっぱり簡単じゃないね。理解するのに結構時間掛かっちゃって大変だよ。」

 文字自体はあまり苦も無く読めるのだが、如何せん内容の理解がなかなか時間が掛かる。数ⅢBの教科書を読んでるような気分だ。線形代数とか三角関数とかのあれね。全体の内容はそれとなく理解できるが実践するとなるとほいほい簡単には出来ない。


「へえー、読めるんだ……。いつもまに……凄いね。いやいや、そうじゃなくて。魔法を教わる? 私聞いてないんだけど。」


 言ってないからな。え、言わなきゃだめだった?


「そういうことは相談して欲しかったなー。危ないこととかあんまりして欲しくないんだけど。まあ魔法は日常生活にも役立つし悪くはないんだけどね。」


 なるほど、確かに親心としてはそうだろう。これは俺が配慮に欠ける行動だったな。反省。


「それに、マキナ知らなかったっけ? 魔法なら私も使えるよ。」


「本当に? 知らなかった。何が使えるの?」


「細かいのを含めると色々あるけど、元素魔法を一通りと精霊魔法よ。

 私たちは薄いけどエルフの血が流れているから魔力量は悪くないし、あなたを産む前は冒険者やってたから実力だって自信あるわよ。」

 今明かされる衝撃の事実。狩りがやたらと上手だと思っていたがそういう理由か。

 そういえばサリー母さんの過去って全然知らないな。そっちも気になるが今は精霊魔法が気になる。

 元素魔法は少し知っている。本に書いてあったからだ。だが、精霊魔法は初耳だ。


「精霊魔法って何? 元素魔法は本に書いてあったけど、そっちは知らない。」


「早い話が精霊の力を借りる魔法よ。使えるようになるには精霊の祝福を受ける必要があるわね。どんな精霊から祝福を受けられるかは人それぞれね。わかりやすい例だと火の精霊とか水の精霊ね。変わり種だと月の精霊とか音の精霊かしら。時の精霊がいるって噂もあるわね。他にもいっぱいいろんな精霊がいるわよ。」


 色々とそそられる話だな。おもしろそうだし是時とも覚えたい。魔法のレパートリーが増えて悪いことなんか無いしな。


「おもしろそうだね。どうしたら覚えられるの?」


「覚え方事態は簡単よ。精霊の祝福を受けるだけ。あとは何が出来てどう使うかは精霊が教えてくれる。祝福を受けるには基本的に精地へ行くのが普通ね。」


「精地? どういった場所なの?」


「精霊にとって魔力は自分たちのご飯でもあるんだけど、命そのものでもあるの。だから魔力のある場所ならどこにでも存在してるんだけど、やっぱり魔力が濃い場所を好む傾向にはるわね。そういう精霊が居やすい場所なんかを精地って言うの。まあ、精霊から祝福を受けることが出来る場所のことを指す場合もあるけど。」


 精霊魔法を覚えるには精地へ赴き祝福を受ける必要がある。なるほど。ここじゃ覚えられないのか。

 残念だが仕方ない。


「へぇー。じゃあ、サリー母さんはどんな精霊から祝福して貰ったの?」

 サリー母さんが聞かれた瞬間動きを止め固まった。ん? どうしたいきなり。


「教えない。」

 顔を背けどこかそっぽを向きながらサリー母さんが言う。


「え、なんで。そっちが言い出したんだし教えてよ。」


「教えない、教えない。絶対教えない。」

 子供の駄々の様にいやいやしている。いい大人がなにしてんだよ。


「なんでそんなに嫌がってんの? そんなに嫌がられると余計知りたくなるんだけど。」


「知らない知らない。この話はもうおしまい。」


 この後も他愛ない会話をしながら夕ご飯を一緒に食べた。

 この世界の魔法がいろいろと奥が深そうだ。


 ---


 勉強を初めて一週間が経った。

 本は最後まで読み終わり、復習も十分。さあ、気合いを入れてグアーラさんも元へ。


「来たわね坊や。私の所へ来たってことはテストを受けに来たってことでいいのよね? まさか諦めるなんて言わないわよね。別に私はそれでも構わないわよ。」


 グアーラさんの部屋へ訪れ、開口一番ものすごく挑発されてしまった。 前は期待してないとか言ってたくせに。


「もちろんテストを受けに来たんですよ。本の内容ならばっちりです。何でも問題にしてください。」


「相変わらず自信家ね。じゃあ始めるわね。初めは簡単な所からにしましょうか。有名な魔法系統を答えなさい。」


「元素魔法、神聖魔法。この2つがいくつもある魔法系統でも特に有名です。」


「よろしい。では、それぞれの特性を説明して貰いましょうか。まずは元素魔法から。」


「はい、元素魔法は世界を構成する要素、地水火風の4つからなると言う思想の元に生まれた魔法です。火の玉を生み出すファイアボールや水を生み出すスプラッシュの様に4つの思想に基づく魔法を行使する事が出来ます。」


「正解よ。追加するなら、基礎の4つだけでなく組み合わせた複合によってこの世の現象の大概はこれで再現する事が出来るわ。雷や木とかね。

 次は神聖を説明して。」


「はい、神聖魔法は神の力を借りる、あるいはその再現をする魔法です。代表的なのが傷や病治す回復魔法です。次にアンデット等のゴースト系モンスターに有効な浄化魔法です。」


「正解よ。本には書いていなかったと思うけど別に神を信仰していなくても神聖魔法は使えるわ。なぜなら神聖魔法の多くは聖母マリアンヌが使った能力の再現だから。聖母マリアンヌは当時誰にも出来なかった、怪我や病を癒すことが出来る力を持っていたわ。彼女はこれを神が授けてくれた奇跡だと言っていたようよ。後に弟子たちと共にこの力を残そうとした結果が神聖魔法よ。オリジナルに比べればかなり劣化しているらしいけどね。最上級等の一部の魔法は本当に神の力を借りないと使えないって話だけど詳しくは私も知らないは。

 ちゃんと勉強してきたみたいね。悪くない受け答えよ。次は呪文を聞きましょうか。元素魔法の初級の呪文を詠唱なさい。種類は何でもいいわ。」


「熱き炎の一欠片よ、我が敵を撃ち穿て。ファイアボール。」


「正解よ。慣れてくれば詠唱を略すことも出来るわ。

 次で最後よ。こっちへ来なさい。」

 そう言って俺を部屋の奥へ誘う。グアーラさんは棚から透明な石を取り出していた。


「持ちなさい。」


「なんですかこれ?」

 渡された石を手のひらに乗せる。すると石は次第に光り始めた。


「魔力量を計る道具に使われる石よ。何の加工もしていないから魔力の細かい量までは分からないわ。せいぜい魔力の有無ぐらいね。安心しなさい。あなたは悪くない量の魔力をもってるわ。」


 どうやら最後の試験にも問題ないようだ。ん? 最後?


「じゃあ、テストは……。」


「おめでとう。合格よ。」


 よし。思わずガッツポーズをしてしまう。それだけうれしいのだから仕方ない。一歩目はとりあえず踏み出せた。ここで躓くなんて幸先が悪すぎるからな。


「なにをしているのマキナ。早くいらっしゃい。」


 うれしさのあまり回りが見えていない間にグアーラさんはドアに手をかけ俺を呼んでいた。


「どこへ行くんです?」


「決まってるでしょ、魔法を覚えによ。家の裏へ行くわ、ついてらっしゃい。」


 誘われるままついて行きヨニーさんの家の裏に着くと呪文を詠唱する。「あなたに形を与えましょう。トゥリバオウ。」


 するとグアーラさんのそばで木で出来た案山子が生えてくる。おぉー、さっきちょろっと言っていた木の魔法か。まさしく魔法だ、意味分からん。


「マキナ、今からこの案山子をファイアボールで攻撃してもらうんだけど、あなたはさっきファイアボールの詠唱をしたけど魔法を使えなかったわね。」


 そうだ。もちろんさっきだけでない。家で勉強をしている間なんども詠唱自体はしている。ファイアボールだけじゃない、水を生み出すスプラッシュも風の刃を作るエアカッターも全てが使えなかった。


「はい、本を読んでいるときもずっと疑問でした。」


「理由は簡単よ。魔力を使っていないから。」


「魔力を使っていない?」

 そりゃ、魔法が使えないんだから魔力も使わないよな。ん? どういうことだ?


「そう。あなたは魔力を持っているけれど、使えていない。古今東西、世界には様々な魔法がある。どの魔法でも必ず、1つだけ共通するところがある。それが魔力。どんな魔法でも必ず魔力が使われる。じゃあ、魔法の起源が何か分かる?」


 起源? 魔法の起源なんか今まで考えたこともなかった。さっぱりわからない。生前の世界ならどうだろう。俺の知ってる歴史で一番古くて魔法が出てくるのはなんだ?

 たしかある羊飼いがエジプトで魔法勝負をしていた気がする。だけどあれは羊飼いの魔法と言うより……。


「神の奇跡?」


「悪くない着眼点よ、実際そういう説もある。多少乱暴ではあるけど神聖魔法もそれにあたると言えなくもないわ。

 でも私はそうは思わない。私の答えは『願い』よ。」


「願い?」


「そう、願い。私はそう教えられたしそう信じている。

 あなたに足りないのは知恵でもなく努力でもない。心の底から欲しいと思う願いが足りない。

 あなたの体はあなたの願いで動いているでしょ。あなたの手が物を掴むのはあなたがそれを必要だと思ったから。あなたの足が前へ進むのはあなたがそれを望んだから。魔法には魔力が必要と言ったわね。その必要な魔力はあなたの内に眠るもの。ならあなたが強く願えば使えない道理はないわ。」


「強い願い……。」


「そう、強く強く願いなさい。あなたはすでに持っているわ、魔法の知恵(呪文)(魔力)も。

 聖母マリアンヌが傷つく人々を救うために神に祈りを捧げたように。大魔法使いマクスウェルが大いなる自然と闘うと決意し元素魔法を作り上げたように。強く心の底からから願いなさい。」


 強い願い。俺が魔法を使いたいのは人を救いたいからだ。俺が人を救いたいのは俺が救われたいからだ。

 人は生きていくだけでも辛く疲れる。日本で生きるだけでもあれほど大変だったのだ。ならこの世界ではどうだ。文明レベルが日本と比べ大きく劣り、モンスターが|跋扈<ばっこ>この世界では生きること自体が難しいはずだ。

 生きる為には力がいる。そう力だ、力が必要なんだ。人を助けるなら尚更だ。これがだめなら別の方法を探す。そんな気持ちでは駄目だったんだ。これだ、これがいるんだ。人が化物と戦うには魔法の力が必要不可欠だ。


「強く願い唱えなさい。あなたの体は必ず応えてくれる。」


 燃やす燃やす燃やす。あの案山子を今ここで。力が必要なんだ、魔法の力がどうしても。


「熱き炎の一欠片よ」

 手を突きだし呪文を唱え始めると自分の中の何かが消えていくのが分かる。今までには無かった感覚だ。


「我が敵を撃ち穿て」

 消えた分だけ力が体の外に、手の先に溜まるのが分かる。


「ファイアボール」

 名前を唱えると溜まっていた力が火の玉に変わり案山子へ向かって飛んでいく。

 飛んだ火の玉は案山子へ当たり形を玉から炎へ変え案山子を燃やす。


「おめでとうマキナ。あなたは今から魔法使いよ。」


 俺は今日、魔法使いになった。


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