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明日へ向かって出来ること

 取り敢えず目標は決まった。

 やっぱり目的や目標ってのはあった方がいいね。何するにしてもこれがなければ腰が重くなりやすい。


 決めたはいいが何をすればいいのだろう。と言うか何が必要なのだろう。

 必要な物をあげ始めるとキリがない気がする。でもやっぱり基本的には優秀じゃないとダメだよな。


 頭が良かったり、強かったり。

 自分が出来なかったから人に助けを求めるんであって、自分で出来るんなら助けを求めたりしない。

 なら人を助けるにはその人より優れてなければ助けられないよな。


 勉強と鍛錬か。

 勉強に関しては余裕があるな。なんせマキナの中身は成人男性の俺なのだ。ちゃんと大学も出てるし基礎学力は十分だと言える。

 言葉の方も問題ない。人の住む大陸で使われている共通語も話せるし書ける。すでに覚えてある。共通語以外の言葉を学ぶにはここでは無理何じゃないか? 誰も知らない気がする。


 それなら鍛錬だ。体を鍛えよう。それに武術とかも覚える必要があるな。日本と違いこの世界は危険がとても身近なものだ。

 街から街へ移動するだけでも盗賊に襲われ命を奪われることも珍しくない。

 それに魔物だって人間を襲う。モンスターの蔓延るこの世界には人の危険は多い。

 襲われている人を助けるためにも強くなることは決して損になるはずがない。


 そうと決まれば毎日走って、筋肉付けて、体を鍛えよう。この5歳の体を。……うーん、そうか俺今五歳か。

 これも今すぐ始めるにはまだ早いな。この体で剣とか握れんのか?

 でも武術を習うってのはいいのではないか? 遅くに習うよりは早いほうがいいだろうし。

 誰に習おう。弓ならサリー母さんでいいだろうな。剣とかはどうしようか。村長に聞けば何かアドバイスでも貰えないだろうか。


 本格的に鍛えるには早すぎる気もするがそれは教えてもらう人と要相談でいいか。急いでる訳ではないんだから、無理ならもう少し成長してからでもいいんだし。


 せっかく目標を決めたのに今すぐできることが少し乏しいな。他に何かないかな?

 5歳の体でも出来る強くなる方法。何か無いだろうか。

 あ! あった。魔法がある。


 そうだよ、あるじゃん。この世界には魔法があった。もちろん魔力を消費するんだから体に掛かる負担はゼロでは無いだろうが、座学的な意味でも勉強は必要だろう。

 呪文の詠唱とか、魔法についての理解とか。


 どうやって魔法を学ぼうか。確か村長さんの奥さんが薬師だったな。薬だけでなく怪我人も回復魔法で治してる所を見た記憶がある。

 奥さんに魔法について聞きに行こうか。どのみち村長の所へ行かなければならないのだしちょうどいいな。


 考えが纏まり始めたし時間的にもそろそろ向かわなければならない。

 これ以上考える事をやめてきりきりと準備を始める。

 まあ、あまり準備するものも無いのだが。せいぜい動きやすい服装ぐらいなものだろうか。人によっては弁当や農作業の道具なども持って行くが今日の俺は必要ないので準備もすぐに終わった。


 戸締まりをきちんと確認して村へ向かう。


 俺の家は村から少し離れているので少し時間が掛かるがそれでも子供の足で三十分以内ほどで村長の家へ着く。


 この村、ファスター村で1番大きな家を持っているのは村長であるヨニーさんだ。彼の生活が裕福であるかと言われるとそうでもない。余所より多少は余裕があるのであろうが、村一番と言うほど裕福ではない。理由は簡単である。自分が持っている田畑や家畜の世話などを集めた子供たちに手ほどきしながら管理をしているためだ。


 さきほど行ったがここに集められる子供は親が昼間に面倒を見切れない子が何人かいる。そういった子たちは仕事を覚えるのにとても苦労しやすい。いづれ親の仕事を覚えることになるのだろうが逆に言えばそれ以外覚えれないだろう。そこで村長は希望する子を田畑も家畜も揃っている自分の家で預かり仕事と勉強を教える事にしたのだそうだ。


 今日は家畜の世話を手伝うことになっている。ヨニーさんと子供たち、そしてここで働いている大人たちみんなで馬や羊の世話をする。それが終わればお待ちかねの勉強タイムだ。


 教室が開かれる時間になると子供たちはさらに増える。親に連れてこられる子たちもいる。やはりというかなんというか、この世界でも勉強を嫌う子供は多い。どこの世界も変わらないようだ。


 ここで教えるのは基本的な勉強である読み書き算数(そろばん)。当然俺は全部できるのでいつもならみんなを教え回っているのだが今日は違う。魔法を教わらなければならない。


 勉強部屋を抜け出してある人物に会いに行く。名前はグアーラ。ヨニーさんの奥さんで村唯一の薬師である。彼女は薬師でありながら回復魔法も使えるので医者とほぼ変わらない働きをしている。ヨニーさんの家が村で一番大きいのは村長というだけでなく、彼女の働きも大きい。


 彼女の部屋に訪れドアをノックする。しかし待てども返事はこない。あれ? 留守?


 ドアに手をかけると鍵が開いていた。開いてるし中で待っててもいいよね。魔術教本とか何かないかなー。


 本棚に結構な数の本があるな。それ以上に植物の根や葉、怪しげな液体が入ったガラス瓶もあるが。


 魔法関係の本はどれかなー。本のタイトルを眺めながら選んでいく。


 『世界の植物大全』違うな。

 『ポメラとラパパ』なんの本だよこれ。

 『魔力の変異 万物の操作』お! これは魔法関係っぽいな。中を見るため手を伸ばす。


 「そこで何をしているの!」


 後ろを振り返ると美しい黒髪がよく似合うクール系、グラーアさんの姿がそこにある。いつのまに。タイミングが悪すぎる。


「子供がこんな時間にどうしてここにいる。この家にいるってことは、今は勉強をしているはずよ」


 結構怒ってらっしゃる。やっぱり勝手に入るのはまずかったか。


「それにどうやってここに入ったの。いたずらしに来たんなら素直に言ってやめなさい。ここには危ない物もあるのよ。たとえ子供でも許されないわ」


 どんどんヘイトが勝手に溜まっていく。早く謝って言い訳せねば。


「勝手に入ってごめんなさい。グアーラさんに用があったので来ました。ドアは開いていたので中で待たせてもらおうと」


「ドアが開いていた? そんなわけ無いでしょ。ここは私以外立ち入り禁止なのよ。ちゃんとここを出るときは鍵を掛けて出てい……る…………。あ!」


 どうやら掛け忘れの心当たりがあるようだ。よく見ると目に隈がある。相当お疲れのようだ。


「鍵の事はまあいいわ。いたずらで入ったわけでは無いのね。で、用って何? それは勉強をサボって良い理由なんでしょうね」


 澄ました顔で露骨に話題を変えてきた。きっと内心恥ずかしいのだろう。


「勉強は全部覚えてます。ですからいつも暇なんです。それでグアーラさんに魔法を教えて欲しくてそのお願いに」


「全部覚えた? ずいぶん自信家のおぼっちゃんだこと。まだ小さいのに立派なことね。……五十七足す八十九は?」

「百四十六」


「百二十一掛ける二十一は?」

「二千五百四十一」


「あんたが手に取ろうとしていた本のタイトルは?」

「魔力の変異 万物の操作。魔力って魔法を使うときに必要な力のことですよね。なんでこれの変異が物を操れることになるんですか?」


「教えてる勉強はちゃんと出来るみたいね。ヨニーがよく言っている賢い子ってあんたのことね。確かサリーさん家の子供の。で、用って何? 聞くだけ聞いたげる」


 なんとか勢いで誤魔化せそうだ。三桁のかけ算とか急に持ってくんなよ。計算自体はちょろいが暗算だとめんどうなんだよな。覚えてなきゃいけない数字が多くて。


「さっきも言ったんですけど、グラーアさんって魔法使えましたよね。僕に教えて下さいませんか。覚えたいんです。魔法」


「ちょっと勉強が出来るからって調子に乗ってないかしら? 子供が出来るほど簡単なものでも無いのよ」


「でも、村に魔法を使える人が増えるのはうれしいことですよね。もし知性が足りないから子供に教えられないならテストしてくださいよ。その上でダメだったらグアーラさんがいいって言うまで待ちますから」

 本当はテストとか苦手だが仕方ない。子供だからというレッテルで否定されているのだから見返す必要があるだろう。

 それに、本当に適正がないならすっぱり諦められる。自分で言っといてなんだが悪くない考えかもしれん。最悪ダメだと言われても一端保留にして別の方法を考えればいいだけの話だ。


「ふーん。本当に自信家ねあんた。でもそういう実力を示す態度は嫌いじゃないわ。いいわ、テストしてあげる」


 そういってグアーラさんは本棚へ向かい、ある一冊の本を持ってきた。


「これには魔法の基礎知識が書かれているは。これを読んで覚えてきなさい。そしたら私がいくつか質問するから全て答えなさい。魔法に必要なのは魔力と知性。魔力は最悪無くても研究は出来る。だけど知性無くして魔法の理解はありえない。そしてなによりバカに教える気なんて私は無いわ。バカに便利な道具を渡すと何に使うか分かったもんじゃないもの」


 本を手に取りパラパラとめくってみる。"魔法について"から始まり所々図解まである親切設計の教本のようだ。なかなか読み応えのありそうな本である。


「期限はいつですか?」


「いつでもいいわよ。そもそも当てにしてないし。諦めるなら本は返しなさい」


 期限なし! マジで? これはありがたい。


「ありがとうございます。精一杯期待に応えられるようがんばります」


 こうして勉強漬けの毎日が始まった。非常にやる気のなくす字面だが今回は違う。なんせ魔法だ。

 やっぱり魔法は浪漫だよな。嫌でもテンションは上がるってもんだ。

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