二度目の人生貰えたら喜ぶ人ってどれくらいいるのかな?
俺は転生している。
そして、ここは地球ではない。
そう自覚できるようになったのはわりかし最近な気がする。
なぜ疑問形なのかと言うと、あまり覚えていないから。
俺は今五歳で、名前はマキナ・レグナ。今は
村の人達とみんなで朝の水汲みの仕事を手伝っている。
つまり、今より昔の記憶となると物心が付くか付かないかあたりになる。
そんな小さな頃の記憶は生前でも無かった。今現役で小学生している子供だって、幼稚園の頃の記憶はあっても、それより昔の記憶なんかあるかどうかも怪しいだろ。いや、俺も現役小学生みたいなもんだけど。
もちろん、朧げではあるがちゃんと記憶はある。今の記憶と昔の記憶をしっかり区別して扱えるようになったのは言葉をちゃんと使えるようになったあたりだと思う。
「マキナくんちゃんと汲めた? ならみんなもそろそろ汲み終わっているし、戻ろうか」
ご近所付き合いをしているフレナさんが声をかけてくれた。周りのみんなもボチボチ帰っていくようだ。
「毎日毎日ちゃんと家の仕事手伝って偉いね、マキナくんは。うちの子なんかいっつも遊んでばっかりよ。元気なことはいいことだけどもうちょっと手伝ってくれてもねー」
「いえいえ、そんなことないですよ。僕の所は仕方ないだけですから」
「まぁー。いつもそうだけど立派ねーマキナくんは」
そんなよくある会話をフレナおばさんや村のみんなと話しつつ家に帰る。
「じゃあ、サリーさんによろしくね言っといてね、マキナくん」
「はい、さようなら、サレナさん」
フレナさんと別れた後、汲んできた水を台所の水瓶に入れるため家に入る。
「只今、サリー母さん」
「お帰りなさい、マキナ。もうすぐ朝ごはん出来るから待っててね」
彼女がマキナ・レグナの母である、サリー・レグナだ。
俺は今、彼女と二人でこの家に住んでいる。
先ほど行った仕方ない理由とはつまり、レグナ家は母子家庭で人手、特に男手が足りないのだ。
まぁ、五歳の子供が力仕事など出来るはずもないのだが、それでも足りないものは足りない。だから、家の事はよく手伝っている。それに、マキナの中身は成人男性の俺だ。一人で俺を育てるためにあくせく働く姿を毎日見ている身としては、何もしないのは結構いたたまれない。
汲んできた水を台所の水瓶に入れる。五歳の子供が汲んできた量だから大した量ではないが使う人も少ないからそれでほど多くはいらないのだ。もちろん足りなければ後でサリー母さんが汲んで来るのだが。
水汲みに使った道具を片付けに行き、戻って来た時にはちょうど朝ごはんの用意が済んでいた。
「マキナ、ちょうど準備出来たよ。座って食べよ」
言われた通り、サリー母さんの向かい側に座る。今日の朝ごはんはブレッドにスクランブルエッグとサラダ、数切れのチーズだ。
「それじゃあ、手を合わせていただきます」
「いただきます」
俺とサリー母さんは朝食を食べ始める。向い合って食べているので目線がどうしてもサリー母さんの方へ向く。そうするとどうしても自然と目がある二箇所へ吸い寄せられていく。
一つが顔だ。美人なのだ。とてつもなく。芸術的なレベルで。ついつい見とれてしまう。
俺にも同じ血が流れていかと思うとどうしても期待してしまうがどうなのだろう。
「ん? どうしたのマキナ? 私の顔になにかついてる?」
サリー母さんが自分の顔を触りながら言う。しまった、ジロジロ見過ぎた。
「いや、あのさ。確かサリー母さんってエルフのクウォーターなんだっけ?」
「そうよ。私のお祖母ちゃんがエルフね。あったことないからわかんないけど」
そうなの! そういえば俺も、俺のお祖母ちゃんとあったことないな。それどころかサリー母さん以外の家族とあったことすらないな。俺の兄弟や従兄弟はいないのだろうか?
「エルフってわりには耳とか全然長くないよね。普通にヒト見たい」
サリー母さんの見た目は美人であることを除けばエルフの身体的特徴はほぼ無いと言っていい。耳も全く長くなく普通だし、体の線も細身ってわけでもない。むしろある部分は真逆と言うか……。エルフって言うかエロフって言うか……。まぁ、エルフが細身の設定は作品によって異なることが多いからこれは俺の偏見かもしれんが。村で聞いた時も耳の特徴はあっても体の特徴は何も聞いてないし、やっぱり偏見かな?
「そうね。いくらエルフの血が流れてると言っても、随分薄いと思うわよ。私のお父さんもそこまで耳は長くは無かったから。体質もあると思うけど」
「じゃあ、寿命とかもあんまり関係ない?」
「どうかしらね? お父さんはそこそこ長生きね。老けてる速さを考えれば、多分ヒトの二倍くらいはあるかも。もしかしたら老けるのが遅いだけ かも知れないわね。エルフの混血の話はあまり聞かないないから分からないわ。それに、エルフの寿命って種族で大分差があるから参考にするのも難しいわね」
「種族? どういうこと? エルフっていう種族じゃないの?」
「エルフの中にも色々あるって話よ。ヒトの中でも肌の白っぽい人とか、黒っぽい人とか色々いるでしょ。獣人までいれたらそれこそきり無いくらい。エルフにもね、ダークエルフとかハイエルフとか細かく分ければいくつかに別れるのよ」
そういう意味ね。確かに一口にエルフって言っても色々聞くよな。有名どころだとまだワイルドエルフが残ってる。マイナーなのだと海に住むシーエルフや森の奥底に住むウッドエルフだろうか。
「へぇー。じゃあ僕達は何エルフ?」
「それが知らないのよね。お父さんは小さい時からお祖母ちゃんと旅をしてたって言ってて、どこかのエルフの集落で生活したこと無いから分からないんだって。聞いても教えてくれなかったみたいだし」
なんじゃそりゃ。何か訳ありなのか? まぁ、ハーフエルフって忌避される設定が多いからそこら辺の話なのかもしれないな。今は深く聞かないでおこう。
「サリー母さんは今日も狩りに行くの?」
「そうね。遅くなる前に帰って来るわ。マキナは村長さんに迷惑かけないようにね」
サリー母さんの仕事は猟師だ。エルフの血なのか弓の扱いがとても上手で男顔負けの腕前を持っている。俺たちが住んでいるファスター村には近くに豊かな森がある。様々な植物や魔物が住んでおり当然その中には人に害を与える者もいる。だが、ファスター村にはそれらを狩る猟師やハンターが少ないのだ。だから腕のいいサリー母さんは結構重宝されているらしい。おかげで村の評判も結構なものだ。
「わかってるよ。そっちこそ気をつけてね」
「心配してくれてありがと。ごめんね、私今日はちょっと早いから先に食べちゃうね」
そして、パパっと食べ終えたサリー母さんは今日の狩りの準備をする。俺も後で村長さんの所へ行く準備をしなければならない。昼ごろは村長達が村の子供たちを預かっているのだ。
子共たちが村に集まるのは大きく分け二つの理由がある。一つが勉強だ。昼ごろは村長や手の開いている大人達が子供たちに勉強を教えるため村長の元へ集められる。
もう一つが俺みたいに、親が仕事の間子供の面倒を見られない。そんな人達のために預かるのだ。
俺が食べ終わったあたりにサリー母さんが準備を終え、家から出ていこうとする。弓を背負い矢筒をたすき掛けにしているからスラッシュが凄い事になっている。
体の部分部分に防具として革の服飾が付いており、服に厚みがあるにも関わらず隠しきれていない自己主張が半端ない。
「じゃあ、先に行くわね。食器は台所に置いておいてね。暗くなる前に帰ってくるわ。マキナも遅くならないようにね。ごめんなさいね、一人にさせちゃって」
「僕は大丈夫だよ。戸締まりもしておくから、気にせずに行ってきて。いってらっしゃい」
「ありがと。それじゃあ、いってきます」
そう言って、手を振り家を出て行く。俺もご飯を食べ終わっているので食器を台所に持って行く。この後、さっきも行ったように村長の所へ行くのだがまだ少しだけ時間がある。ついでだから洗い物も済ませてしまおうか。
こうして、一人の暇な時間が出来るとウダウダとつまらない事をよく考える。これは生前でもそうだったから転生しても直らないかも知れない。
二度目の人生をリスタートしたわけだが、正直さほど嬉しくない。素直な感想が「またやんのこれ」だ。
人間、生きてるだけでもしんどいのに二回目とか言われても正直困る。そもそも転生ってなに? どういうシステム?
天国とか地獄は? 普通そっちじゃないの? 輪廻転生の方が正しかったってこと? だったら地球に転生しろよ。なんで異世界なんだよ。別に異世界なのはいいけど。
しんどい人生を生き切るだけではまだまだ足りないと。そういうことですか神様。別にあんたのことなんか信じちゃいないけど。当然天国だって信じてたわけではない。あって欲しいとは思うが、本当に信じてたわけではないのだ。輪廻転生はちょっと否定しづらくなってしまったが。
ただ、楽になれるんじゃないかと思っていただけだ。人間誰しも救われたい。何が救いなのか検討も付かないが。
もしだよ、もしかしたらあったとしよう。天国とか極楽みたいな、そこに行ければ誰もが救われて、幸せいっぱいみたいな場所があるとしよう。
あったとしたら、どうしたら行けるのだろうか。
人生を最後まで精一杯生きる。これではダメだった。実体験なのだから間違いないだろう。
地球だとどうしたら天国や極楽に行けると言っていたっけ? 確か信仰に篤く教えを守り清く生きるだったか?
無理だな。清く生きるはともかく信仰心は無理だ。そもそも信者じゃないし神様もそれほど深く信じてない。そこを否定しちゃうと天国も否定しちゃうがそれはそれで。
他はなんだっけ。確か徳を積むだっけ?
これなら出来そうか? でも徳の定義ってそもそもなんだ? いや待て、厳密な意味だと宗派によって結構違いがあった気がする。
でも、良い事をするってのは間違いないよな。人を助けたり救ったり。この考えは多くの宗教でも是とされていたはずだ。
そういえば、前の人生では積極的に人のためになることはしなかったような気がする。ボランティアに参加したのいつだっけ?
思い返してみれば善行なんかあまりしてないな。なるほど、納得だ。
そりゃ人も神様も善人でもなんでもない奴好んで助けたりしないわな。普通のことしかしてない奴が自分の努力を誇らしげに語ってたら誰だってイラつくな。
じゃあ、人助け。今回の人生はここらへんを基軸にして生きてみようか。もっと行動的に首なんかも自分から突っ込んで行く感じで。どうせ二回目の人生なんだし前回とは別の事やってみたい。
どこまで出来るか分からないがやるだけやってみよう。もしこれでダメならその時考えよう。
たとえ考えられなくなってもかまやしないのだから。