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従者召喚  作者: 六手
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45/46

南の貴公子 3

2/3 掲載


2/5 掲載予定

書類整理を終えたカラグールはとある部屋の前へとやって来て居た。

部屋の前に立つ二人の兵士は、カラグールの顔を見て握った拳を胸元に当てて敬礼する。そんな二人の兵士を視界に入れながら、彼は黙って部屋の中へと入って行く。

その部屋は最低限の家具が並べられる小狭な寝室だった。寝室のベッドの上には一人の老人の姿が在り、カラグールはそんな老人に近寄って丁寧な口調で話し掛けるのだった。


「失礼します、父上。少々お話が在り、参りました」


「構わん……好きにするがよい」


カラグールが父上と呼ぶ老人は、カラグールの言葉を全て聞かずにそう返答するのだった。

突然のその言葉にカラグールは驚いた表情を浮かべながらも、一応といった様子でここに来た理由を老人に告げようとする。


「国の資金を大規模に動かすので……」


「わかっておる……好きにするがよい」


そして再度、老人はカラグールの言葉を全て聞かずに同じ様な返答をするのだった。

父上は全ての事を承知の上での返答なのだろうか? そんな疑問を抱きながらこう尋ねる。


「全て……ご存じで?」


「カラグール……お前が何をしようとしているかは察しが付く。水龍の娘を部屋に閉じ込め、水龍を利用して何かを企んでいる。そうであろう?」


「何故、それを?」


「近衛隊長のエイゴフは知っておろう? 彼奴(あやつ)はこの城の全ての出来事を気に掛けておる優秀な兵士。その者が儂に報告しに来たのじゃよ。お前が水龍と名乗る少女を亡き妻の部屋に閉じ込めたこと、お前が側近を連れて何処かへと向かったこと、この城で起きた全ての事は私の耳に入って来る。それはいつものことであろう?」


近衛隊長のエイゴフは長年に渡ってこの城を守り続けた忠誠心の厚い兵士だった。それ故にカラグールの父親から贔屓にされ、一兵卒で在りながらも権力というモノを持っていた。ルガンの王族の次に、兵士達は彼に従い、使用人達も彼に従う。そして城の防衛の為という大義名分を持って、兵士達は城内で起きたあらゆることをエイゴフに報告する義務を設けているのだった。


「あの男は何処まで知って居るのですか?」


「さあ、それは私にも判らんよ。まあ、あの娘が水龍の娘かどうかの判断ははっきりはしていないらしい。儂に報告する時も、不思議そうな顔をしてたからの……」


「そうですか……じゃあ何故、あの娘が水龍の娘だと……」


「お前がここに来たのだから、そうなのであろう? 儂の元に来る時は決まって何か用事が在る時なのだからのう?」


「なるほど」


そう納得するとカラグールはこう続ける。


「では、本当によろしいのですか? 詳しい事は何も聞かずに、国の資金を動かしても?」


「そもそも、儂に許しを貰うことではないだろう……。もはや儂はお飾り、実権は全てお前が握っているではないか……。なのに……何故、王になろうとしない」


「私が王になる時は父上が死んだ時です……。それまでは王として玉座に座り続けて下さい……」


そう言い残してカラグールはその場を後にしようとした。だが、カラグールのそんな言葉を聞いた老人は去ろうとする彼にこんな質問を投げかける。


「この世界を支配して、お前は何を望む?」


カラグールは老人の質問を聞いて足を止める。


「世界は平和になった。戦争は無くなり、他国との争いは無くなった。それなのに何故お前は火種を作ろうとする?」


その問いにカラグールは振り返ってこう答える。


「確かに今の世界は平和そのモノですよ。でも、それはいつの日か崩れることになる。誰かが戦争を初め、誰かがこの平和を壊す時がやってくる。その時、私達の国は真っ先に滅びることになる」


カラグールは真剣な表情を浮かべ、力強い口調でこう続ける。


「我々の武器はいつだって技術力だけだ。それが戦争で通じたのは他国が技術という概念を馬鹿にしていた昔の話。だが今は違う……技術は人伝手に受け継がれ、それは世界中に散らばった。今や我々の技術は他国に模倣されている。そんな中で技術しか持たない我々は、武力がモノを言う戦争で勝てる確率はゼロに等しい……北には錬度の高い兵士が、東には魔導師たちの魔法が、西には化け物の力を得た兵士が居る。だが我々にはそんな武力は無い。だからこそ……私は新しい戦争が始まる前に全てを終わらせる」


「その為に世界を支配するのか……」


カラグールはルガン王国の弱点をしっかりと認識していた。武力という面においてルガン王国は他国より圧倒的に劣る事を。ルガン兵と他国の兵士が戦った時、確実にルガン兵が敗北することを。だから彼はそんな戦いが起きる前に、世界を手中に収めようとしていた。

世界の全てがルガン王国のモノになれば、争うことは無くなる。小さな争いは起きるかもしれないが、大きな争いは避けられる。そして国が滅びることはないだろう。

戦争が起きる前に、戦争を終わらせる。それがカラグールの考えで在り、カラグールの戦い方だった。


「私が世界を支配するその時まで、父上には玉座に座って居て貰わねば困ります。もしも私がそこに座ってしまったら、自由に身動きが取れませんからね……。だから世界が本当に平和になった時、私はのんびりとそこに座るとしましょう」


そう言ってカラグールはその場を去って行くのだった。

カラグール・ルガンは王の子として生まれ、王として生きることを宿命づけられた存在。

幼い頃から王となる為の教育を受け、王となる為に日々を歩んできた。

だから彼はルガン王国という国の為に、平和の為に策略を巡らせる。この時代の戦い方で、この世界を支配する。

その過程で誰かが傷つき、誰かを傷付けることがあろうとも、彼は前へと歩み続けることだろう。

それが唯一の手段だと信じ、それが最良の手段だと信じ、それが真の平和への道だと信じて……。

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