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従者召喚  作者: 六手
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44/46

南の貴公子 2

2/2 掲載


2/3 掲載予定

水龍ファルディールに湖を行き交う船を全て沈める様に命令したカラグールは、早馬に乗ってルガン城まで戻って来ていた。馬を降り、近くの兵士に馬の手綱を預けて城内へ向かって歩き始める。その後を追う様にロイドとアルスも早馬を降り、カラグールの後ろを慌てた様子でついて行く。そしてカラグールが城へ向う最中、ロイドは先程の出来事についてカラグールに尋ねるのだった。


「何故、水龍にあんな命令を出したんですか?」


「気になるかい?」


「ええ……」


「そうか、じゃあ教えてあげよう」


そう言いながらカラグールはロイドの疑問を紐解く為、一つずつ今回の出来事の整理を始めた。


「ではまず、私が水龍に出した命令は何かな?」


「ファルディール湖を行き交う船の破壊……ですよね?」


「その通り。ではその結果、何が起こる?」


「ファルディール湖で船が使えなくなります……でもそれに何の意味が……」


「船が壊れ、船が使えなくなる。まずその点で我々は他国に対して有利な状況が生まれるんだよ」


「有利な状況?」


ロイドはそんな言葉を呟き、カラグールは彼に気付かせるようにこんな言葉を述べる。


「北には有能な兵士達、東には魔法使い、西には化け物の力を得た兵士が居る。では、南には何が在る?」


そんな謎々に近い言葉をカラグールはロイドに投げかける。だが、ロイドはその言葉の意味を理解していない様子だった。だから、代わりにアルスがその問いかけに答えた。


「技術……ですか?」


「そうだ。我々、ルガン王国が他国と対等に渡り合っていたのはその技術が在ったからだ。品質の高い武具や大砲の鋳造技術。他には無い技術力が存在していたからこそ、我々の国は他国と対等に渡り合っていた」


そんな言葉を口にするカラグールの真意を読み取れないロイドとアルスは、悩ましい表情を浮かべながらも彼の言葉を静かに聞く。


「だからこそ……その技術を武器に他国と戦うんだよ」


だが、その言葉を聞いても二人はカラグールの言葉を理解できずにいた。技術を武器に他国と戦う。カラグールの言葉をそのまま捕えれるとすれば、品質の良い武器を持って他国を攻める。二人は一瞬、そんな解釈してしまっていた。それを察したのかは知らないが、カラグールは二人の誤解を見抜く様にこう続ける。


「勿論、こちら側から武器を持って攻め入るなんて馬鹿な真似はしない。そんなことをすれば他の三国が結託し、我々に対して攻撃を仕掛ける口実を与えてしまうからね。武器を振り回し、一人でも多くの敵を殺した者が英雄と称えられる時代は終わった。今、人を殺せば罪人として処罰される。今、武器を振り回し他国に攻め入れば制裁が待って居る。武力がモノを言う時代は終わった。じゃあ、この時代で一番モノを言うモノは何だと思う?」


そんなカラグールの問いかけに対する答えを二人は持ち合わせては居なかった。考えてもすぐに答えは出てこないだろうと思ったのか、カラグールはその問いの答えを口にする。


「答えは金貨だよ」


カラグールのその答えを聞いた二人は、彼が何を言いたいのか理解できずに困惑することしか出来なかった。そしてカラグールはこう続ける。


「我々が生きる上で一番必要なモノはそれだ。東西南北の国は違えど、金貨さえ支払えば何でも手に入る。我々の技術も、東の魔法も、北の兵士達も、西の化け物さえも、相手が納得する額の金貨さえ支払えば買えてしまう。ならばその金貨をより多く集めた国こそ、この世界を支配出来るとは思わないか?」


カラグールの言う通り、この世界では金貨さえ支払えば大体のモノが手に入る。その言葉は確かだった。

兵士、魔法、技術、衣服、食事、住処、その全てにお金という概念が必ず付き添う。そんなことは誰でも知っていることだ。だが、そんな当たり前の出来事で世界を支配できる、ということに気が付いている者はそう多くは無いだろう。


「大量の金貨、それが在ればどんなモノでも買い取ることが出来る。それは、他の三国を金貨で買うことも可能だ」


「でも国を売ろうとする王なんて、この世に存在しませんよ……」


「その通り……金貨を積まれて国を売る王は居ない。だが、金貨を積まれてこちら側に寝返る家臣は存在する」


「買収……ですか?」


「そうだ。他国の家臣を買収し、こちらの思い通りに事を運ばせることは可能だろう。そして徐々に我々の優位な状況へと誘い込む。そして間接的にルガン王国が他国を操るという訳だ」


「でも、そう簡単に……」


「まあ、そこは色々と策を講じる。だが、王家に仕える家臣といえど所詮は人の子。欲に目が眩むモノだ。この私が他国を支配したいと思う様に、他の者にも欲が在る。そこに浸け込み、利用するということだ。ルガン王国の家臣達も……何人かは他国に買収されていることだろう……」


「そんな……」


「それが現実だ。そしてこれが今の戦争だ。金貨と策略を巡らせた政治という戦争なんだ」


そんな説明を続けながらカラグールは城の階段を上へと上がって行く。


「ならば、その金貨を集める為に何をするかを考える。そうすれば、私の言葉の意味が理解できるはずだよ……」


カラグールはファルディールにこう命令した「ファルディール湖を行き交う全ての船を沈めて欲しい」と。そこでロイドより早く、アルスがカラグールの意図に気が付くのだった。


「我々の技術を売る……そして大量の金貨を得る。そういうことですか?」


「そうだ」


アルスは納得したような口調で口を聞いたが、カラグールの意図をまだ理解していないロイドは慌てた様子でアルスに説明を求めるのだった。


「待ってくれよ、俺にも判るように説明してくれ」


「僕達、ルガン王国はかなり高い水準の製造技術を持っているだろ? 僕達の着ている服や剣、それはとても品質が良く、他国でも頭一つ飛びぬけている。だからこの国で作った商品を他国に売りつけて、大量の金貨を獲得すること……なんだと思う」


「売りつけるって、何を?」


「船だよ」


まさしく、カラグールの狙いはそれだった。

ファルディール湖を移動する船の破壊は新しい船を買う為の理由になる。破壊された船の分だけ、新しい船を要求される。ファルディールのお蔭でそんな造船の注文が各国を飛び回ることだろう。

各国に造船所は少なからず存在するがその数は極めて少ない。だからこの世界で大規模な造船所を持ち、高品質の造船技術を持っているルガン国が、その造船依頼の半分以上を請け負うことになることは明白だった。


「確かに、船が壊れれば新しい船が必要になる。だから新しい船を作って売れば金になる……。でもそれなら、ラクシャサから出発した船を壊す意味が在るのか? 他国から金貨を獲得したいのに、自国の船まで破壊するなんて意味が無いんじゃ……」


そう言ってロイドはアルスに尋ねる。だが、そのことについてはアルスも良くは理解していない為、視線をカラグールに向けることしか出来なかった。その視線の意味を理解したカラグールはその意図を二人に明かす。


「もしも南だけ水龍に襲われないなんて出来事が在ったら、真っ先に我々の関与が疑われる。ならば水龍の被害に遭い、疑惑の目を遠ざけることが先決だ。水龍に船が沈められた。それ以降、船を出すことを国で禁止すれば最小限の被害で、他国の目を掻い潜る事が出来るだろ?」


そんな話をしていると、いつの間にか三人はカラグールの仕事部屋の前までやって来ていた。カラグールは扉を開け、ついてくる二人にこう命令をする。


「書類を片付けてから、私は少し出掛けて来る。それまで二人はあの娘の警護を頼むよ」


「出掛けるなら、俺が護衛を……」


「いや、二人で彼女の護衛と身の回りの世話をしてくれ。他の兵士には任せられない重要な仕事だ……いいね?」


「……わかりました」


そしてカラグールは部屋の中へと入って行くのだった。

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