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従者召喚  作者: 六手
三章
40/46

1/22 掲載


1/25 掲載予定

ルガン城一階の廊下の角で、俺は通路の先で世間話をしている二人組の兵士に気が付き、彼らの会話を盗み聞きしていた。もしかしたら水龍の娘の話題が出るのではないかなどと考えたが、そんなことはなかった。今日も平和だとか、昨日の晩飯のことだとか、自分の子供の話だとか、そんなことを話していた。こうやって聞き耳を立てて居ても仕方がないと思った俺は、思い切ってそんな世間話をしている二人の兵士の前に姿を現してこう尋ねるのだった。


「すいません。牢獄の場所って何処ですかね?」


ヘラヘラと苦笑いをしながら頭を掻き、困った素振りを見せてそう尋ねる。

そして俺の質問を聞いた二人の兵士は一度顔を見合わせてからこう答える。


「牢獄って……その位、ここの兵士なら知ってることだろ?」


「いえいえ、新米な者で……」


「ああ、そうか……なら……」


そう片方の兵士が牢獄の場所を口にしようとした時、もう片方の兵士が口を挟んでこう言うのだ。


「でも、見習いならなんで城内に居るんだ? 見習いは街の見回りだろ? それに相方はどうした?」


そうやってもう片方の兵士は俺に対して言及する。だから俺は少し考えてからこう返した。


「そうですね……牢獄に見張りが居ますよね? 名前は……えっと……」


「コルジか? それとも、オットーか?」


「そうそう、そのコルジさんに頼まれたんですよ。牢獄の見張りを少しの間だけ変わってくれないかって」


「見習いにか?」


「そりゃ見習いなんですから、先輩には逆らえませんからね。それに少しばかりお金も貰っちゃいましたし……」


「ふむ、なるほどな……で、相方を一人にしてこっちの用事を済ませに来たと?」


「そうなんですよ!!」


――上手い具合に話が運んだな……。


そして俺は再度、牢獄の場所を問いかける。すると二人の兵士は即座にこう答えてくれるのだった。


「城の外、ほら、そこから見えるのが地下牢への入り口だよ」


そう言って兵士は廊下の窓から外を見つめて指を指す。城の北東に当たる場所には兵士が一人見張りに立っている姿が見え、その後ろには地下へと続く洞穴の様なモノが見て取れるのだった。

俺は牢獄の場所を教えてくれた兵士にお礼を言う。そして去り際にこんなことを聞いた。


「そういえば、水龍について何か聞いてませんかね?」


「水龍? ああファルディール湖で暴れまわってるって水龍のことだろ? それがどうかしたのか?」


「じゃあ、フィオナって名前は知ってます?」


「さあ? 誰なんだ?」


「あ~……知り合いのメイドの名前で、ここで働いてるらしいんですけれど。そんなに有名じゃないらしいですね」


そう言って俺はその場を逃げる様に去って行く。

フィオナという名前に兵士達は聞き覚えが無いらしい。つまり、国の兵士を使って水龍の娘を捕えた訳では無いのだろう。カラグール・ルガンが王子という立場ならば、兵士に命令を下して水龍の娘を捕えたと思ったが、どうやら違うらしい。国ではなく、カラグール・ルガン個人での行動。それならば牢獄を探した後、その王子について聞きまわった方が水龍の娘を探し出す手段としては一番手っ取り早いかもしれないな。




















ルガン城の北東、そこには地下牢獄への入り口が在った。

夕日が沈み切り、牢獄の入り口の左右には松明の明かりが灯されている。その出入り口を守る様にして一人の兵士が退屈そうな顔をして立ち尽くして居るのだった。そんな兵士の顔を見ながら、俺は近づいてこう尋ねる。


「コルジさん……」


「ん? コルジに用か?」


――つまり、こっちはコルジじゃなくてもう一人の方か……名前何だっけか?


「えっと……オットットさんでしたっけ?」


「オットーだ」


「ああ……そうでした、そうでした」


――ったく、ジョンとか覚えやすい名前にしろよな……


俺は苦笑いを浮かべながら続けてこう言う。


「中に入っても? コルジさんに用件がありまして……」


「ん? ああ、いいぞ……」


そう言ってやる気の無さそうな兵士はすんなりと中へと通してくれるのだった。


――警備がザルだな……


そんな事を思いながらも、俺は何食わぬ顔で牢獄への扉を開き中へと入って行く。

真っ暗闇の狭い通路、人が一人程通れるほどの幅で、下へと階段が続き、その先に明かりが見える。

階段を下り、明かりが照らすそこに向かうと洞穴に鉄格子が設置された牢獄が一直線に並んでいるのだった。


「へぇ……ここが牢獄か……」


「何の用だ?」


俺の視線は、目先の牢獄から横に座る老いた兵士に視線を移す。


「コルジさん……ですよね?」


「ああ、俺に用か?」


「牢屋の罪人を調べて来いと密命が在ったので……」


「誰から?」


「それは……わかるでしょ?」


そう言って意味深長な言葉を返すと兵士は好きにしろと言った様に俺から視線を外すのだった。

俺は牢獄の中を見て周った。だが、そこには誰一人として牢屋の中に人の姿は無かった。


「牢獄に今、罪人は居ない。なのにお前は……なんでこんなところに来たんだ?」


後ろを振り向くと老いた兵士が剣を引き抜き、剣先を俺に向ける。


「……」


――さて、どうしたものか……。


そんな言葉を心の中で呟きながらも俺は辺りを見回した。

目の前には剣を構える老兵の姿、後ろは壁、左右は牢獄。逃げ場は無く、正面の老兵を倒さなければ逃げ切る事は困難だ。一か八かでこちらも剣を抜いたとしても、勝てる保証もなければ、相手を生かして制圧出来るほどの実力も俺には無い。だから、俺は俺に出来る最大限の事をする。それは即ち――虚言だ。


「なんだ……バレるのが早かったな……」


そう言って俺は余裕の笑みを見せながら、剣の柄に手を掛ける。そんな俺の姿を見た兵士は、俺が剣の実力に自信が在ると錯覚したのだろうか少しばかり後ろへ引き、距離を取る。


「なあ、俺の正体に気が付いたなら理解できるはずだよな? 兵士が一人で城内をうろつくのは不自然だ、なんせ基本的には二人一組で行動する。それがルガン兵士の決まり事みたいなものだからな……じゃあ、俺の相方はいま何処に居ると思う?」


そう言って俺は兵士の後ろに視線を向け、ニヤリと不敵な笑みを浮かべてこう言うのだ。


「やれ……」


俺の声に反応した兵士は、俺の発した言葉の意味を理解した様に後ろを振り向く。

だが、勿論そこには誰も居ない。そして俺は不用意に後ろを見せる兵士の頭に、すかさず鞘の付いた剣を思いっきり振り切る。鈍い音が鳴り、兵士は地面に倒れ込む。


「ふぅ……。危うく、死ぬかと思った……」


そんな言葉を呟いて、俺は兵士を一番奥の牢屋へとぶち込みその場を後にした。

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