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従者召喚  作者: 六手
三章
39/46

1/20 公開


次話 1/22公開予定

この世界が東西南北の国に分かれて居る様に、ファルディール湖の東西南北にも、それぞれの国が領地を主張する港町が存在していた。ファルディール湖の北に位置するのはフロスト王国領のディアグロス。そして俺達が向かうファルディール湖の南には、ラクシャサという港町が在るそうだ。そしてそこを領土とする国の名前は『ルガン』というらしい。水面を走る小舟の上での待ち時間にミラからそんな話を聞いた俺は、その『ルガン』という言葉に引っ掛かりを感じてこう聞き返すのだった。


「ルガン……。水龍の娘を誘拐したのは……確か、カラグール・ルガンって奴だったよな? じゃあ……」


「国の名前を名乗っているのだから。そりゃあ勿論、この国の関係者でしょうね」


「平民がそんな名前を名乗る訳ないよな……じゃあ王族か貴族か……そこら辺だろうな」


「正解。カラグール・ルガン、ルガン王国の次期国王。まあ、第一王子って奴ね」


「なんだ、知ってるのか?」


「そりゃあ、商人ですから」


ミラが自信満々にそう言うと、横で本に視線を向けて居るエレナがこう口を挟む。


「商人なら、自分の運んできた商品を酒場の前に置き忘れたりしないと思うのだけれど?」


「うっさい!!」


ミラはエレナの言葉を一蹴し、俺に向かってこう続ける。


「その王子が水龍の娘……フィオナだっけ? そのフィオナを捕まえてるってことは、ルガン城の牢獄にでも捕まっている可能性が高いわね」


「城か……まあ、適当に兵士に変装すれば潜り込めそうだな」


俺がそんなことを言うとメアリーが俺に続く様に口を開く。


「それでは、私はメイドとして潜り込むことに致します」


「そうか。じゃあ、俺とメアリーは城に潜入して水龍の娘の救出。ミラとエレナはどうするんだ?」


そんな俺の質問に真っ先に答えたのはエレナだった。


「そうね……私は街で面白そうな本を探すことにするわ……」


「あれ……こういうのってさ……手伝ってくれるもんじゃないの? 普通……」


「何故、私がアナタの面倒事を手伝わなければいけないのかしら? 私の言葉を無視して、自ら面倒事に巻き込まれに行ったのだから、自分でどうにかしなさい」


耳の痛いお言葉にぐぅの音も出ない俺はエレナの言葉に反論できず、逃げる様に視線をミラに向けて尋ねる。


「じゃあ、ミラはどうするんだ?」


「別に私は手伝ってあげてもいいわよ……でも私に手伝えることなんて、そう無いわよ?」


「そうだな……移動手段の確保。王都から水龍の娘を救出したら、逃げる為の足が必要になる。その準備をしておいてくれないか?」


「ええ、その位ならお安い御用よ」


こうして俺達は水面を走る船の上で各々の役割を簡単に決めた。

俺とメアリーは城へ潜り込み、水龍の娘の捜索と救出。ミラは俺達が水龍の娘を救出した後の逃走手段の確保。そしてエレナは自分の好みの本探し。うん、完璧だ。うん? 完璧なのだろうか……。

そんな疑問を持ちながらも俺達は南の国、ルガン王国へと向かうことにした。



















ファルディール湖の南の港町ラクシャサに到着した俺達は、ミラが用意した荷馬車を使って更に南へ南下した。ラクシャサからルガン王都までは約半日、ルガンの街に到着した時には太陽は沈みかけていた。

そんな夕暮れ時のルガン王都を巡回する二人組のルガン兵を、俺とメアリーは物陰からこっそりと尾行していた。


「さて、逃走手段はミラに任せて……俺達は潜入するための衣装を手に入れなきゃならん。任せたぞ、メアリー」


そう言って俺は親指を立てて任せたと合図を送るが、メアリーは少しばかり首を傾けこう返す。


「どういうことでしょうか? 私はこのままの格好で十分に城内へと潜入出来ると思うのですが?」


「このままじゃ俺が潜入できんだろうが……」


そう言って俺は白のワイシャツ、黒のズボン、腰に差した剣といういつもの格好をメアリーに見せて言う。そしてメアリーは俺の言葉に察したようにこう言葉を返すのだ。


「つまり、あそこで見回っている兵士を殺して装備を奪い……」


「待て、殺すな。絶対に殺すな、いいな?」


「ですが……生かしておけばいずれシンジ様が変装していること、城に何者かが侵入していること、その事が露見します」


「その前に蹴りを付ける、とにかく人殺しは無し。いいな」


「……はい、かしこまりました」


俺の言葉にそう返答してから、メアリーは物陰からルガンの街を見回る兵士達に視線を向けて再度俺に問いかける。


「ですが、どうやって兵士の装備を奪い取るのですか? どうやら街を見回っている様ですので、人目に付かない場所に移動するとは思えません。もしや、人目を気にせず襲撃でもするのですか?」


「そんな馬鹿な真似はしない。そもそも、そんなことしたら周りの一般人が他の兵士達を呼びかねないだろ? ここは隠密に、穏便に解決する。その為のお前だ」


「私……ですか?」


「ああ、そうだ。という訳で、この路地裏にあの兵士達を呼び込め。その後、お前が誘い込んだ兵士二人をその鉈で気絶させる。そして俺が装備を奪って、兵士達をこのロープで縛りあげる」


「はい、理解しました。シンジ様は兵士を二人相手に出来る程の実力が無いので、力尽くの部分は全て私に任せているということですね?」


「そういう事だ」


「では、どうやって兵士達をここへ誘い込めばよろしいのでしょうか?」


「そうだな……助けて下さい。こっちに来てください。理由は適当に取り繕えば来てくれるだろ。大体、綺麗なメイドが近寄って助けてくれと言われたら、どんな男でもホイホイついて行くに決まっている」


「そういうモノなのでしょうか?」


「そういうものだ。んじゃ、作戦開始。俺はそこの陰に隠れてるから、後は任せたぞ」


その数十秒後、メアリーは二人の兵士を見事に誘導し、路地裏に誘い込んで即座に鉈を使って気絶させるのだった。やはり、こういう荒事に関してはメアリーは恐ろしい程に役立つ。そんなことを実感しながらも、俺は兵士達の身ぐるみを剥ぎ、縄で縛ってその場を後にした。

















 



もうすぐ日が沈む。オレンジ色の夕日が道を照らす視界の中で、俺はルガン城へと進んで行くメイドの姿を物陰から観察していた。メイドは衛兵に呼び止められ何かを聞かれている。おおよそ彼女が腰に差す鉈について言及しているのだろうが、きっと彼女はこう答えるのだろう。「園芸用の鉈です」などと……。

門番に少し呼び止められたメイドは兵士に一礼してから、城内へと入って行く姿が見て取れる。メアリーは悠々と城内に忍び込むことに成功した様だ。ならば俺もそれに続くことにしよう。


「すみませ~ん」


そんな声を上げながら俺は見張りの門番二人に駆け寄った。

情けない声で、駆け足で、着慣れない鎧が揺れる音を鳴らし、疲れた演技をしながらこう続ける。


「今、ここにメイドが来ませんでしたか?」


「メイド……それなら城内に……」


「そうですか!! いや、良かった。さっきのメイドさん。道で落とし物をしたみたいで、駆け足で追いかけて来たんですよ~」


そう言いながら俺は門番をやり過ごして城内へと向かうのだった。二人の門番は不思議そうな顔をして、俺を呼び止める事はしなかった。なんせ、メイドの落とし物を駆け足で届けに来た御人好しの兵士が侵入者などとは、誰も疑うことはないだろう。二人の門番を余裕の表情で抜けた俺は、城内へ続く扉まで駆け寄り中へと入る。すると、すぐ横にはメイドが正面を向いて立ち尽くして居てこう尋ねてくる。


「侵入は容易く成功致しましたね……で、これからどうなさいますか?」


「お前は上から探してくれ、俺は下から探す。水龍の娘が牢獄に囚われてるかもしれないから、そっちの方は俺が探す。見習い兵士って言えば色々と聞き出しやすいからな……。あとはもし水龍の娘を見つけても一人で行動はするな。必ず合流して、二人で救出する。最後に、危ない時は逃げろ。わかったな」


「かしこまりました」


「じゃあ、作戦開始だ……」


こうして俺達の水流の娘を救出作戦が始まった。

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