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従者召喚  作者: 六手
三章
37/46

11/17 掲載


11/20 午後五時掲載予定

背中の冷やりとした感覚が身体に伝わり、俺はゆっくりと目を覚ました。

何が起きたのか判らないが、俺は何処か薄暗い場所で横たわって居るらしい。

視線の先には岩の天井が見え、身体を起こすと近くにはメアリーが横たわって居た。


「そうか……」


俺は彼女の姿を見て、気絶する前の出来事を思い出しながらメアリーに近寄り彼女の息を確かめた。

彼女の口元に手を近づけると小さな寝息が感じられる。どうやら彼女も無事生き延びたらしい。

その後、俺は視線を辺りへ向けて出口を探し始めるのだった。

天井、壁、床、全てが岩で出来た洞穴。少し広い空間が広がり、出入り口は見つからない。

だが一か所だけ大きな水溜りが在り、俺はその水溜りの方へと近づいた。

水溜りに視線を向けると奥の方で光が差し込む光景が映る。たぶんここが唯一の出入り口なのだろう。

記憶には無いが俺とメアリーが水中に沈んでいく中で、水龍から逃げる為に偶然ここを見つけて逃げ込んだのかもしれない。俺にそんな芸当は出来ないが、メアリーならばできる。そんな事を考えながら俺はメアリーの方へと戻ろうとした。その時、後ろから水が動く音が聞こえ、音のする方へと俺は振り向いた。


「……」


俺の顔は多分、相当青ざめた顔をしている事だろう。何故なら、目の前の水溜りから水音を立てながら姿を現したのは俺達を襲った水龍なのだから。俺は咄嗟の判断でその場からメアリーを連れて逃げ出そうと考えるが、水龍が占領する水溜り以外に逃げ道がない事に気が付いた俺はその考えを即座に捨てた。

逃げる事は出来ない、隠れてやり過ごす事も出来ない。ならばと、俺は腰に差した剣を抜き目の前の水龍に向かって最後の悪足掻きに出るのだった。


「さあ、掛かって来いよ!!」


そんな叫び声を上げながら俺は床に剣を叩きつけて水龍の注意を引き、メアリーから離れる様に左の方へと動き始める。そして俺はメアリーから離れた場所に陣取り、剣を構えて水龍が攻撃する瞬間を待った。

これが今の俺に出来る最大の戦法だ。奴の攻撃、口に魔力を溜めて発射するあの攻撃さえ来れば、奴が魔力を溜めている隙に、奴との距離を詰めて攻撃を当てられる。勿論、メアリーの攻撃を容易に防ぐのだから普通に攻撃するのではなく、奴の目を狙って攻撃してやろう。そんなことを考えていた。


「……」


だが水龍は剣を構える俺の事を見つめるだけで、俺に対して攻撃を仕掛けてくる様子は見て取れなかった。

何故、水龍は俺に向かって攻撃をしてこないのか? そんな事を考えながら不思議な顔をしていると、年老いた男の低い声が突然聞こえてきた。


「我が名はファルディール……人間よ生きてこの場から帰りたいか?」


その年老いた低い男の声の主は目の前の水龍だった。そして、水龍のそんな言葉を聞いた俺は剣を構える事をやめ、水龍の言葉に疑問を感じながらもこう答えるのだった。


「そんなの生きて帰りたいに決まってるだろ?」


「ならば貴様らの命を助ける代わり、貴様らには私の命令に従って貰おう」


そう言って水龍はこう続けて俺に命令する。


「貴様は南のルガン王国へ行き、我が娘を無事に救い出す。それがこの場から生きて帰る為の条件だ」


「まったく訳がわからないな……アンタの娘を救う? そんな事なら自分で出来るだろ?」


「それが出来るなら既に行動に移している。私にはそれが出来ないのだから、こうして貴様に命令しているのだ」


「命令ね……殺すと脅して強制するのか……」


俺がそう呟くと水龍は怒りの籠った声でこう返すのだった。


「貴様ら人間が先にしたことだ……私は、貴様らが要求してきた手段と同じ手段を使ったまでのこと……」


「つまり、アンタも脅されているって事なのか……」


「……」


水龍は俺の言葉に無言で返答する。だが、俺の質問に無言で返答したということは水龍が脅されているという事は確かなのだろう。そしてここからは俺の簡単な推測だ。このファルディール湖で水龍が突然暴れ出したのは、この水龍が何者かによって脅されていることが原因なのだろう。何処の誰が水龍を脅したのか、その意味は判らない。だが、その問題さえ片付ける事が出来れば俺達が抱える問題が全て解決すると理解した。

魚の供給量、ファルディール商業組合の再開、俺達の命。そして水龍は自分の娘を無事救い出し、皆が幸せになる。それに巨大な水龍殺しよりも、水龍の娘を救った方が簡単そうだ。だから俺は水龍にこう尋ねた。


「なあ、アンタの娘を助けたら……もうここで暴れる事はないのか?」


「私はここでゆっくりと暮らして行きたいだけだ。娘さえ無事ならば、他はどうでもよい」


ならばこの水龍の提案を断る理由は見当たらなかった。だから俺は水龍にこう返す。


「わかったよ、俺がアンタの娘を助ける。でもそう期待はしないでくれ……助けられるか助けられないかは判らない。けど、アンタと俺の利害関係は一致してる。だからアンタの娘を助けるよ」


「ならば早速、その言葉を実行に移して貰おう……来い……南まで送ろう……」


俺は剣を鞘に仕舞い、横たわるメアリーの腕を肩に回して水龍の方へと近づいて行った。

だが、それを見た水龍はこう俺に言うのだ。


「その娘はここに置いて行け……」


「なんでだよ? 助けてくれるんじゃなかったのか?」


「貴様がその娘を助ける為に一緒に海へ飛び込んだ姿は見えていた。その娘は貴様にとって大切な娘なのだろう? ならばその娘は人質としてここに残す。貴様が嘘を吐き、間違っても約束を違えぬ様にな……」


「人質か……でもコイツの戦いっぷりをアンタはその目で見て、実際に戦ったんだからわかるだろ? このメイドは戦力として必要だ」


「ならば、貴様がここに残るという方法も在るぞ?」


「そんなに人質が欲しいのかよ……」


「貴様ら人間は人を平気で裏切り、利用し、搾取する。そんな生き物の言葉を信じられる方がおかしいとは思わないか?」


「確かに……その通りだな……」


水龍は人間という生き物を信用してはいなかった。だから片方を人質に取り、片方に命令する。

そのやり方は皮肉にも実に人間らしい手法だった。

だから俺も人間らしいやり方で対抗する。相手の心理を読み、そして弱みに付け込む。たったそれだけだ。


「いいか水龍、アンタは俺に娘を助けさせたいんだろ? それなら俺とこのメイドを一緒に脱出させるんだな。そうじゃなきゃアンタの娘は助からないし、それが嫌なら他の宛てを探せ」


俺は水龍に対してそう強気に攻め込んだ。ここで弱気を見せれば逆に弱みに付け込まれる。

だが、その言葉に対して水龍はこう返答するのだ。


「ならば、ここでゆっくりと死んでいくがいい……」


そう言って水龍は水面に沈んで行こうとした。だが俺はそれを呼び止めてこう続ける。


「アンタには他に助けてくれそうな宛てはないんだろ?」


「……」


「アンタが暴れてたのはつい最近。その間に沈没した船は何隻も在る筈だ。それなら、俺達みたいに片方を人質にして、もう片方に言う事を聞かせる人間を何人か見つけていてもおかしくない。だが、それはすべて失敗した。たぶんそうだろう?」


水龍が湖で暴れ出し始めたのは俺達がここに来る前からだ。それならば、俺達以前にも水龍を倒す為に何隻もの討伐船が出ていたに違いない。そして今もまだ水龍を倒せずに居る。つまり、今までの討伐船は全てこの水龍によって沈没したということだ。それならばこうして俺とメアリーの様に人質を取って、無理矢理言う事を聞かせる機会も何回か在っただろう。それでもまだ自分の娘を救えずに居るのは、その捕まえた人間が頼れなかったからに違いない。そう推測して俺はこう続ける。


「今までの奴がどうだったか知らないが、俺はアンタにこの湖で暴れられては困ってる。だから、アンタの娘を助ける代わりに湖で暴れまわるのをやめてくれ」


「それを信じろと?」


「信用しろとは言ってない、利害関係の一致だ。俺は金稼ぎの為にこの湖に来た。水龍のアンタが知ってるかは判らないが、アンタが暴れているお蔭で水路が使えない。その影響でファルディール商業組合でいつも通り商品が売れなかったり、魚が仕入れられないわでこっちもアンタのお蔭で迷惑が掛かってるんだよ」


そう、だから俺は水龍にこう提案するのだ。


「アンタを殺すより、アンタの娘を助ける方が随分と簡単で平和に解決できる。だから俺はアンタの娘を助けてやるから、このメイドと一緒に外へ出せ」


「何とも身勝手な言い分だな」


「それはお互い様だろ?」


「……」


水龍は少し間を置いてからこう返答するのだ。


「そう、確かに私の言葉も随分と身勝手なモノだった……だが貴様らを信じて地上へ戻し、裏切らない保証はなかろう……私にとって娘は大切な家族なのだ……裏切られれば私は更に人間という生き物を憎まなければならない……貴様らが裏切った後、私は貴様ら人間を生涯許す事無く暴れ続けることだろう……」


「なら暴れ続ければいい……暴れて、暴れて、暴れまわれよ。人間を憎んで殺しまくれ、そして一生娘を救えずに嘆くんだ。誰にも助けを求めず、ただひたすらに暴れまわれ。でもな、それが嫌なら何処かで誰かに助けを求めろ。今のアンタにとっての助けが俺だ。アンタを助ける理由なんて利害関係の一致の一言で片付く。信用しないなら黙って暴れてろ。娘を助けたいなら地上へ出せ。それ以外の条件で俺はアンタを助けない。だからもう一度聞く……アンタはどうしたいんだ?」


俺のそんな言葉を聞いた水龍は落ち着いた口調でこう返す。


「娘を本当に助けてくれるのか?」


「アンタの娘を助ければ俺の利益になる。それだけのことだ」


水龍は俺の言葉の真意を確かめる様に見つめ、何を思うのだろうか。

人を嫌い、娘の為に暴れる水龍。彼は娘の為ならば、家族の為ならばどんなことでもするのだろう。

そんな水龍に助けの手が差し伸べられた。俺の言葉は彼にとって欺瞞に満ちた言葉に思えることだろう。

だがそれでも水龍はその手につかまった。少しでも娘が助かる可能性が在るならばと、彼は俺の言葉を了承する。


「わかった。だが、貴様が私を裏切ったその時、人間の戯言には二度と耳を貸さぬ」


「それじゃあ、さっさと陸へ戻してくれ……」


「では、南へ連れて行くとしよう」


「いや、まずは北だ。ディアグロスへ戻ってくれ」


「何故だ?」


「そりゃ、この格好を見てくれよ。服が濡れてたら気が散って何もできない。それに風邪も引くだろ? まずは着替え、それからアンタの娘を救いにいこう」


水龍は少し間を置いて俺の言葉を了承する。


「いいだろう」


「それじゃ……」


「では、行くぞ」


そう言って水龍は大きな口開きながらこちらへゆっくりと近寄って来る。


「えっ?」


そんな呆気に取られた言葉を発した俺はメアリーと共に、水龍に食べられるのだった。

2016/1/15書き込み


更新準備中です。二・三日程お待ちください。


「喜怒哀楽のカルテット」掲載中。暇つぶし程度にお読みください。

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