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従者召喚  作者: 六手
三章
36/46

11/13 掲載


11/17 午後五時掲載予定

「行くぞ!! 野郎共ぉぉぉぉぉ!!」


一人の男が船の先端付近で立ち、武器を持った腕を高らかと振り上げながら冒険者達の士気を高めていた。

その男の掛け声に応じるように冒険者達も武器を持った手を振り上げて大声を上げる。

そんな集団の中心で、俺は何も出来ずに呆然と立ち尽くすだけだった。


「……」


俺をこの船に無理矢理乗せた男は何処かへ消え、俺は体躯の良い男達の集団に周囲を囲まれて身動き一つ取れずに居た。床が揺れる感覚と、左右に見える別の船のマストが一緒になって湖の方向に動いている光景が目に入り、この船は陸から離れて出港したのだと確信した。


「ああ……なんてことに……」


そんな言葉を呟くと同時に周囲の人だかりは消え、彼らは各自の持ち場に動き始める。

とにかく、ここから逃げる方法か安全な場所を探す為に行動しようと後ろを振り向くと、そこには見慣れたメイドがじっとこちらを見て立っているのだった。


「お前……なんでここに……」


「シンジ様がこの船に無理矢理連行されたのを見たエレナ様が呆れながらに「助けてきなさい」と命令を下されましたので参りました。それではこれからどうなさいますか?」


いつも様にメアリーは無表情でそう淡々と俺に説明するのだった。


「水龍とまともに戦って勝てる訳がないからな……まずは陸へ戻る……」


そう言いながら俺は船の端へ行き、この船が港からどのくらいまで進んだのか確かめた。

港から結構な距離が離れている。だが泳いで戻れない事もない距離だと俺は感じた。今すぐここから飛び降りて港へ泳いで帰る。それでも良かったが、もしも飛び込んだと同時に水龍の餌食になったら洒落にならなかった為、俺はその場に立ち止まって別の方法を考え始めるのだった。


「さて、どうするか……」


俺はどうやってここから安全に逃げ出すかその方法を考え始めようとしたが、神様はそんな暇を与えてくれはしなかった。


「水龍が来たぞぉぉぉぉぉ!!」


何処からかそんな叫び声が聞こえて来る。

それと同時に激しい衝撃音が遠くの方から聞こえ、俺は音のする方へ視線を向けた。すると左の討伐船二隻が視線を向けた時には半壊して沈みかけ、別の方向から聞こえる激しい衝撃音に振り向くと、右側の二隻が半壊して沈んで行く姿が目に移った。ほんの数秒で討伐船四隻が沈み、残った討伐船は一隻。俺が乗るこの船だけとなり、残された俺達が水龍の次の標的だという事は火を見るよりも明らかだった。


「お前ら来るぞぉぉぉぉ!! 大砲準備ぃぃぃぃ!!」


その掛け声と共に船に乗る冒険者達は圧倒的な力を持つ水龍に屈することなく動き始める。

大砲を船の周りと中央に配置し、砲弾を込め、松明を手に持ち標的が姿を現すのを静かに待った。

辺りには半壊して沈んでいく討伐船が見え、沈みゆく彼らの二の舞いになるまいと、彼らは周囲の警戒に全神経を注いで水龍を待つ。そして、静寂の中でゆっくりと水の音が聞こえてくる。

船の正面に、ゆっくりと水面から正体を現したのは二本の珊瑚の様な角を生やした蒼い龍。

アレが水龍ファルディールだろう。龍という威厳を持ち、圧倒的な存在感を示して俺達の前に立ちはだかるのだった。


「正面だぁぁぁぁ!! 撃てぇぇぇぇ!!」


その掛け声に応じた冒険者達は大砲を船の正面に現れた水龍に向け、一斉に放つ。

無数の爆音と砲弾が水龍を襲う。だが、水龍は微動だにしなかった。

それに怖気づいた冒険者達は、水龍の圧倒的力の前に唖然とした表情をしていた。


「まだだぁぁぁぁ!! 次弾装填!! 即時発射ぁぁぁ!!」


だがそんな男の掛け声を聞いた冒険者達は我を取り戻し、水龍に向かって攻撃を再開しようとした。

だが、水龍もただ黙っているはずも無かった。水龍の口元に青い光が集まり始め、それを見た俺は何か魔法の様なモノが来ると察知してその場から一目散に離れる。

そして次の瞬間。水龍の口から細く青白い光の様なモノが放たれ、船の先端から後方までが一直線になぞられる。その後、大きな水飛沫と共に船は縦に真っ二つに割れるのだった。


「くそっ!! 殺す気かよ!!」


俺はそんな声を上げながら、当たりを見回しメアリーの姿を見つける。

彼女は船体の割れた部分の近くに立ち、それを一瞥すると腰に差した鉈に手を掛ける。

その一瞬で彼女がこれから起こす行動に察しがついた俺は、彼女を呼び止める為に叫び声を上げる。


「やめろ!! メアリー!!」


俺の叫び声が聞こえたか聞こえないかはわからない。それでも彼女は戦う覚悟を決めて前へ走り出す。

縦半分に分かれた足場の悪い船体、そんなことを彼女は気にせず猛スピードで水面から顔を出す水龍との距離を詰めて飛び掛かる。水龍はそのスピードに対応する事が出来ない様子で、彼女の姿をじっと見つめるだけだった。メアリーは全身全霊の力を込め、水龍の頭に向かって鉈を勢い良く振り下ろす。

激しい衝撃音を鳴らしながら、メアリーの攻撃は確実に水龍の頭に直撃した。だが無数の砲弾を受けて無傷の水龍の硬さはメアリーの攻撃を持ってしても、破れはしなかったらしい。

それでもメアリーは諦めることなく水龍の角を掴みながら水龍の頭に乗り、諦めることなく鉈で斬りつける素振りを見せる。だがその前に水龍は頭を大きく揺らし、頭上に乗るメアリーを振りほどき、宙へ投げ出した。宙に投げ出されたメアリーは身体を捻らせながら、沈みゆく船の残骸に着地し、再度水龍に向かって攻撃を仕掛けるのだった。

俺は水龍と互角に戦うメイドの姿に魅了され、その戦いをじっと傍観していた。だが足場に近づいて来た水に気が付き我に返った俺は、近場に備え付けられていた脱出用の小舟を繋ぐ縄を力任せに剣で斬りつけ、小舟を船体から切り離して飛び乗った。その様子を見て居た数人の船員達も俺の乗る小舟に飛び乗り、彼らも水龍と戦うメイドに驚いた表情を浮かべながらその戦いを傍観するのだった。

メアリーは水龍の頭目掛けて飛び掛かり、振り落とされては船の残骸を足場にしてまた攻撃を繰り返す。

水龍はそれに対応するように水の柱を数本出現させ、飛び掛かるメアリーを足止めしようとする。だが、メアリーは水の柱を切り裂き、水龍に飛び掛かって再度水龍の頭を鉈で斬りつける。


「ヴォォォォォォォォォォ!!」


それは水龍が痛みを訴える叫び声なのか、怒りの叫び声なのかは知らない。だが、水龍はその攻撃から逃げる様に水面へと潜り始めて行く。メアリーは大きく跳躍し、俺達が乗る船の先端へと華麗に着地する。

討伐船五隻がまともに太刀打ちできなかった水龍は、一人のメイドによって水中へ退散させた。その姿を見て居た小舟に乗る冒険者達や、水中で彼女と水龍の戦闘を見て居た冒険者達は、その光景を見て大きな歓声を上げた。メイドの事を彼らは褒めちぎり、称賛した。


「メアリー……お前は凄いな……」


俺も彼女にそんな称賛染みた言葉を小声で呟くが、彼女は構えた鉈を腰に戻そうとはしなかった。

そして、メアリーはこう呟くのだ。


「来ます……シンジ様はお逃げください……」


その言葉と同時に水面は大きく揺れ、少し離れた正面の方から巨大な水龍が宙を舞う姿が目に映った。

蒼い鱗に珊瑚の様な二本の角、体長は測り切れないほど大きく、蛇の様な細長い身体。そんな怪物が俺達の乗る小舟に向かって飛んでくるのだ。どうやっても逃げきれはしない。俺はそう思うが、メアリーはあの怪物に立ち向かう様子で鉈を構えて居た。流石の彼女でもあの巨大な水龍に真っ向から立ち向かえばタダでは済まない筈だ。だから俺は彼女の腕を無理矢理掴み、力任せに彼女と共に海へと身投げした。

驚いた顔をしたメアリーと一緒に、俺は海の中へと沈む。それと同時に水龍が水面に着水し、激しい衝撃が俺達を襲う。俺とメアリーはお互いの手をしっかりと握る。この行動が正しい事かなんて俺には判らなかった。でも、片方が犠牲になって生き残り後悔するよりも、二人が生き残る可能性に俺は賭けたかった。

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