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【追記】
この章は未完成で在り、全く別の話となっております。
詳細は活動報告をご覧ください。
11/2 掲載
11/6 午後五時掲載予定
この世界に来てから、俺はどれだけの死体を見て来たのだろう。
エレナが人を殺し、メアリーが人を殺し、俺はそれを止めることが出来なかった。
人を殺してはいけない、そんな事は間違っている。そんな綺麗事を唱えた所でタダの理想論に過ぎない事は理解している。俺がこんな事を考えている最中でも、世界の何処かで誰かが人を殺し、殺されている。
止める事の出来無い、止まる事の無い、死の連鎖。その中で俺達は生きて行かなくてはならない。
ならどうするか、俺が導き出した答えはただ一つだった。
自分を守る為に、他人を守る為に、生きる為に強くなる。ただそれだけだ。
――だから俺は強くなりたい。
長い白髪を後ろで結び、白と黒の布地で出来た露出の少ないロングスカートのメイド服を着た少女。
背は俺よりもほんの少し低く、綺麗な顔立ちの彼女は無表情で愛用の鉈を手にして立っている。
対して俺はいつもの様に腕を捲った白のワイシャツと黒のズボン、手には鉄で出来た剣を手に持って彼女と対峙していた。
「それじゃ……準備はいいか?」
「はい、何処からでもどうぞ……」
「なら……行くぞ!!」
俺は手に持った剣を力一杯握り前へと走り出す。数メートル離れたメイドとの距離を詰め、彼女に向かって全身全霊の力で剣を振りぬく。だが、俺の全力はメイドの鉈によって易々と弾かれるのだった。
俺はメイドに弾かれた剣で再度彼女を斬りつけようとする。だが、弾かれる。
純粋な力で俺は彼女を超えることは出来ない。なら手数で攻めることにした俺は、幾度も弾かれる剣を乱暴に、無造作に、様々な角度から彼女に向かって不格好な連撃を放った。だがそれも全て弾かれる。
剣を振り、乱れた息を整える為、俺は後ろへ飛びメイドと距離を取ってからこう言った。
「なあ、メアリー……どうすれば俺はお前に勝てるんだ?」
「そうですね、シンジ様が私に「負けろ」と命令されれば勝てるのではないでしょうか?」
「いや、それじゃ意味ないだろ……」
俺はメアリーの冗談に呆れながら、次の手を考えた。
目の前のメイドは俺の全身全霊の一撃を軽々と防ぎ、怒涛の連撃ですら全て完璧に防ぎきる化け物だ。
それに加え彼女はその場から一歩も動かず、表情一つ変えず鉈を持って立ち尽くしている。
力の差は歴然。だがそれでも彼女に一泡吹かせてやりたい俺は、再度彼女に向かって攻撃を再開する。
「もう一回だ!! こんどはお前をそこから動かして見せる!!」
そう息巻いて俺は剣を振るう。だがそれでも彼女はその場を微動だにせず。俺の剣撃を全て鉈で弾く。
だから俺は正面からの攻撃を中止して、背面に回り込みメイドに向かって剣を振るう。だがそれも振り向いたメイドの鉈によって易々と防がれる。そんな事は判っていた。だが、微動だにしなかった彼女を動かす事には成功した。だから俺はメアリーに向かって得意気にこう言った。
「ほらな、動いただろ?」
「そうですね……」
そう呟いたメアリーは俺の剣を弾き、一歩前へと踏み出す。そして彼女は鉈を大きく振り上げる。
そして目の前のメイドは何の躊躇も無くその鉈を振り下ろすのだ。勿論、俺に向かって。
「待て! 待て! 待て!」
そんな慌て声を上げながら、俺は彼女が振り下ろす鉈に反応してギリギリ剣で防ぐ。
その一撃を防いで終わりだと思いきや、メアリーは次々と大振りの連撃を俺に向かって打ち込んでくるのだった。
「ちょ!? 待って!! メアリーさん!?」
だが彼女はそんな俺の言葉を無視しながら、俺に向かって鉈で何度も攻撃し続けてくる。
「お前!! 俺を殺す気か!? なに!? 今のでちょっと怒っちゃったの!? それなら、謝るからさ!? いや、マジで!! ちょ!? 洒落にならな……」
ギリギリで彼女の攻撃を防いでいた俺の握力はもう限界に来ていた。手は痺れ、剣を握る事が困難だった。だから俺が両手で持った剣は、易々とメアリーに弾かれ宙を舞う。そして、無防備になった俺の首元に彼女は鉈を突きつけてこう言うのだ。
「別に怒ってなどおりません……ですが、油断をするとこのように取り返しのつかないことになると、身を持って体験して頂きたかったのです……」
「ああ、なるほど……もう十分理解したから鉈を下ろして頂けますせんかね?」
「申し訳ありません。つい……」
「いま「つい」って言ったよね。絶対怒ってたよね?」
「いえ、怒ってなどいません」
そう言いながらメアリーは俺の首元に突き付けた鉈を退かす。それと同時に家のドアが開く音が聞こえ、俺とメアリーは音のする方へと振り向いた。
「アナタ達……うるさくて本に読むことに集中出来ないのだけれど……」
家から出て来た長い黒髪で黒ドレスの少女は、不機嫌そうな口調でそんな言葉を口にするのだった。
「ああ、悪かった……」
「申し訳ありませんでした……エレナ様……」
不満そうな顔をするエレナに対して俺達二人は謝罪するのだった。
早朝のメアリーとの戦闘訓練を終えた俺は、いつもの様に雷斧亭で働いていた。
不定期にやって来る客を接客し、注文を聞いて、料理を運ぶ。マスターは料理を作り、ローラさんは片づけをしながら、店内を掃除している。そして、メアリーはカウンター席でサンドイッチをチマチマと食べ続けている。これがいつもの雷斧亭の様子だった。
そんな中、何処かで見たことの在る女商人が雷斧亭を訪れた。
茶色の短髪に、緑の瞳、厚手の一枚布で出来たスカート服を着て、肩から下げた大きなポーチが特徴的な少女。彼女の名前はミラ・ランデルセン。ランデルセン食料品店の商人だ。
そんな彼女が仕事中の俺に真っ直ぐ近寄って来て、こう言うのだった。
「シンジ、護衛仕事よ!!」
「えっ?」
「えっ? じゃないわよ。仕事よ、仕事!! 丁度メアリーも居るみたいだし、アンタ達二人、一緒に来なさい。目的地は南よ」
そう言ってミラは一方的に話を進めるのだった。だが俺はそんな話を初めて聞いたし、護衛仕事を引き受けるとも言ってない。だから俺はミラにこう返答するのだった。
「待ってくれ……勝手に話を進めている所悪いんだが、俺はお前の仕事を引き受けるなんて一言も言っていないぞ」
「何言ってるの? アンタ、ここより稼ぎの良い仕事を探してたんでしょ? だからこうしてアンタに護衛を頼みに来たんだけど……」
「ああ……それはあの時、急に金が要りようだったんだよ。それじゃなきゃ、あんな危ない仕事、誰が引き受けるかよ」
「……」
俺がそんな素直な言葉を口にすると、ミラは呆れた様な視線を俺に向けるのだった。
「じゃあ、何? アンタはその時に必要なお金を稼ぐ為だけに、私の護衛をやりたかったってことかしら?」
「ああ、そうなるな……」
「なら、私の護衛としてこれから働くつもりは一切ないということ?」
「嫌々……そこは……急にお金が必要な時だけお願いします……」
そう言って俺はミラに向かって丁寧なお辞儀でお願いするのだった。
「アンタ、最低ね……」
「やめろ、そんな目で俺を見るな……」
急に金が要りようだったから、俺は護衛仕事なんて危険な仕事に飛びつき、その結果酷い目に遭った。
まあ、最終的にはミラを守れたから良かったモノの、あんな酷い目に遭うのは二度とごめんだ。
だからこそ、俺は彼女の仕事を受ける事はしたくなかった。
「でもこの前、俺を雇って判っただろ? 俺が如何に使えない護衛かって事を?」
「アンタ、それを自分で言っちゃうのね……」
そう言うとミラは呆れた溜息を一つ吐いて彼女は小さく呟く。
「それでも、アンタは……」
だがミラはその言葉の先を口にはしなかった。途中で途切れた言葉の先はなんだったのだろうかと疑問に思いながらも、彼女の言葉を俺は聞く。
「いいえ、なんでもないわ。とにかく、今すぐ人手が欲しいのよ。だから手伝いなさい」
そう言って彼女はどうしても人手が欲しい様子で俺にそう言うのだった。
だが、俺も黙って死地に赴くほど馬鹿では無い。だから俺は適当で適切な理由を彼女に述べた。
「それは無理だな……なんせここの仕事が在る」
それを聞くとミラはすぐさまマスターにこう尋ねるのだ。
「ゴードンさん、シンジを少し借りて行くけど、問題無いかしら?」
「ああ、好きにしろ」
ミラの言葉にマスターは即答した。それを聞いたミラはすぐさま俺にこう言うのだ。
「そういう訳だから、二人ともすぐに準備しなさい。準備が出来たら南門に集合よ」
「待て待て!! 俺は行くなんて一言も……」
俺の了承を聞かぬまま、その場を去ろうとしていたミラを俺はそう言って呼び止める。
するとミラは振り向いて、俺に近づきこう言うのだ。
「この前、何処かの使えない護衛のせいで私はとっても酷い目に遭ったのだけれど? 誰のせいだったかしら?」
「なら、それこそちゃんとした護衛を……」
俺がそう言いかけると近づいて来た彼女は人差し指で俺の身体をつつきながらこう言う。
「だ・か・ら、今度は私の事をちゃんと守って……いい? それに、南の方は北と違って平和みたいよ?」
「……」
その言葉を聞いて、俺は少し考えてから彼女にこう返答した。
「わかった……でも、金は要らない。だから、守り切れなくても文句は言うなよ?」
「う~ん。まあ、いいわ。タダで人が雇えるならそっちの方がお得だしね。まあ、昼飯位はちゃんと奢ってあげるから、その分、ちゃんと頑張りなさい」
そう言ってミラは俺に笑顔を見せるのだった。
以前の護衛仕事で俺は彼女に迷惑を掛けたのは事実だ。だから俺は彼女への償いの様に、無償で仕事を引き受けることにした。金を貰っていないからといって、この前みたいに護衛をメアリー任せにするつもりはない。俺が彼女を守り、何事もなく無事に旅路を終わらせてみせる。
次は失敗しない。次は誰も傷付けない。次は絶対に守り抜く。そう心の中で決意しながら、俺は彼女の依頼を引き受けるのだった。




