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従者召喚  作者: 六手
sub
29/46

sub 三人のメイド

10/19 掲載


次話 10/22 午後五時掲載予定

沢山の白いベッドが並ぶ彼女達の寝室。そこで眠っていた彼女が目を覚ました。

長い金髪に青い瞳、奇抜で肌を見せる様に露出する服を着たメイド。

そんな彼女は朦朧とする意識の中、すぐ横で動く何かに気付きそちらに視線を向ける。


「アンタは……」


リリアナは軽く驚いた表情を浮かべながらそう呟くのだった。


「よかった……目が覚めたんですね……リリアナさん」


そう言いながら近くに座っていたのは、リリアナと同じメイド服を着ている黒髪の少女だった。彼女は心配した様子でこちらに視線を向け、優しい微笑みを浮かべて居た。だがそれを不思議に思いながらリリアナは彼女にこう問いかける。


「アンタ……死んだと思ってたけれど……。もしかしてあのメイドを倒したのかしら……?」


リリアナが気絶する前、彼女達は恐ろしく強い白髪のメイドと対峙していた。その戦闘の最中、戦う彼女達に急遽撤退指示が出される。その時リリアナは、ただその場から背を向けて逃げるだけでは白髪のメイドの餌食になると考えて、目の前に居る黒髪のメイドに対して足止めしろと命令し、彼女を捨て駒として扱ったのだった。


「そうですね……倒したと言っていいんでしょうか? あれは……」


リリアナにそんな曖昧な言葉で返答する黒髪のメイドは困った表情を浮かべるのだった。


「よくわからないけど、無事だったのなら良かったわ。その……ごめんなさいね……アンネ……」


そう言ってリリアナは身体を起こし、アンネと呼んだ黒髪のメイドに視線を向けて謝る。


「別に気にしてません。大丈夫ですよ。リリアナさん」


「そう、そう言ってくれると助かるわ……ありがとう……」


そう言いながらリリアナは部屋を見回した。

沢山の空いたベッドが並ぶ閑散とした部屋。ここが彼女達の寝室で、彼女達が暮らしていた部屋。もう自分とアンネ以外は死んだのだろうと思いながら、彼女はアンネの方へと視線を戻そうとした。だが、その途中で正面のベッドに眠っている見覚えの在る姿が目に入り、安堵と呆れが混ざった表情を浮かべてこう呟く。


「アレも生きてたのね……」


そう言いながらリリアナはベッドから立ち上がり、向かいのベッドの横へと移動した。

ベッドにはすやすやと幼い寝顔をみせる長い茶髪で背の小さなメイドが眠っていた。

それを見てリリアナは優しく笑みを浮かべてからこう言った。


「起きなさい、チビ!」


その言葉に反応した背の小さいメイドは目を開き、リリアナに向かって元気良く蹴りを放つのだった。


「チビじゃないって言ってんだろうがぁぁぁ!!」


そんな叫び声を上げる背の低いメイドの蹴りは易々と防がれる。そして背の低いメイドは距離を取る様にして一つ離れたベッドの方へと着地した。背の低いメイドは無理に身体を動かしたせいなのか、針を刺す様な痛みが彼女の身体を襲い、苦い表情を浮かべるのだった。


「チグちゃんも、リリアナさんも余り無理しちゃ駄目だよ」


慌てた声を上げながらアンネは二人の戦闘を止めようとする。

そしてチグと呼ばれた背の低いメイドは何かに気が付いた様にこんな言葉を口にするのだった。


「そういえば……私達って……」


チグは頭を抑えて今までの出来事を思い出す。

幼い頃二人の少女がヘイオスに売られ、メイドとして魔法によって服従させられ、今まで偽りの愛という形で一人の男に尽くしていたことを……そしてチグはこう呟く。


「そうだ……お姉ちゃん……お姉ちゃんは……?」


チグは辺りを見回した。だがそこに居るのはリリアナとアンネの二人だけだった。

そして気絶する手前の記憶を呼び起こしてからチグはアンネにこう聞いた。


「ねぇ、アンネ……私のお姉ちゃんは何処……?」


チグの姉はここで一緒にメイドとしてヘイオスに仕えていた。そして白髪のメイドと戦う時に、その姿をチグは見ていなかった。ならチグの姉は何処にいるのか。だからチグはアンネにこう聞くのだ。

ここに居ないという事がどういう意味なのか。それを心の何処かでわかっていながらも。


「チノちゃんは……死んだよ……」


その瞬間、チグは一瞬目を見開きその場に座り込んで下を向く。

心配そうな顔を浮かべるアンネはチグに寄り添う様に隣に座り、リリアナはチグと対面する様にしてベッドに座る。


「そっか……お姉ちゃんは死んじゃったんだね……でも、おかしいな。涙が出てこないや、怒りも悲しみも、何にも感じない……どうしてだろう?」


そう言いながらチグは苦笑いを浮かべていた。

確かに彼女には唯一の肉親である姉が居た。そしてヘイオスに魔法で服従されている時も確かにそこには姉の姿が在った。だが彼女はそれなのに姉の死に対してコレといった感情が湧いてこなかった。なら、何故彼女は悲しみや怒りといった感情を見いだせないのだろうか。その答えをリリアナが口にする。


「それは、私達が普通の人間じゃなくなったからよ……」


「どういうこと?」


「よく考えて見なさいよ。私達は糞野郎のご主人様の為になんでもしてきた、そうでしょ? 人殺しに誘拐、罵倒に耐え、暴力に耐え、どんな理不尽な命令にも行動にも耐えてきた。感情を殺して、心を殺して、好きでもない男の為に尽くしてきた。本当に虫唾の走る話よね。そんな中で生きてきた私達なのよ? 今更、姉妹や友人が死んだ所で涙なんて出てくる訳ないじゃない」


「そう……なのかな……」


「さあね? 私はそう思うだけ。アンタがどう思っているかなんて知る訳ないじゃない」


そう言うとチグは不満そうな顔を浮かべ唸るりながらにリリアナに言う。


「リリアナってやっぱり口、悪いよね……」


「あっそ」


そう軽く返答してからリリアナはアンネとチグに向かってこう言った。


「それでどうするの?」


「どうするって何が?」


「解放されて自由になった私達がどうするかって事じゃないかな?」


アンネがリリアナの言葉を補足する様にそう言った。そしてリリアナは早速立ち上がって二人にこう言う。


「とにかく私はこんな所からさっさと出て行くわよ。アンタ達は?」


その言葉にチグは困った表情を浮かべながら唸り声を上げて悩み、その横でアンネはリリアナにこう言った。


「でも、ここを出て行ったとしても。何処か行く宛ては在るの? リリアナさん?」


その言葉を聞いたリリアナは不満気な表情をアンネに向けながらこう返答する。


「ねえ、アンネ。リリアナさんって、やめてくれる? リリアナって呼びなさい。いいわね?」


「う、うん。わかった……リ、リリアナ?」


「そう、それでいいわ。で、行く宛てなんだけど。そんなもの在るわけないでしょ?」


リリアナがそう言うと、チグと同じ様にアンネは困った表情を浮かべるのだった。


「でも、ここに居るよりはマシでしょ? 変態エロ爺とその付き人の殺人メイドが居るこんな場所に、アンタ達はまだ居たいの?」


「それは……そうだけど……」


そう言うと悩んでいたチグは考える事を放棄してリリアナにこう言った。


「もうなんでもいいや……私はリリアナについて行くから、アンネも一緒に行こ?」


「う、うん……そうだね」


「じゃ、早速ここから逃げるわよ!! 行くわよアンタ達!!」


リリアナは自身に満ち溢れた掛け声を上げ、チグはまだ眠そうに背伸びをしながら、アンネは不安な表情で、彼女達は部屋から出て行くのだった。

















ヘイオスから解放された三人のメイドは王都にやって来ていた。

とにかく何か仕事を探さなくてはならないという話になり、彼女達は道を歩きながら話をする。


「とにかくお金よ、お金。お金が無ければ生きていけないわ」


「まあ、そうだね……でも仕事なんて何処に行けばいいのかわからないよ?」


「仕事? それなら簡単じゃん!」


そう言ってチグは近くを通りかかった冒険者の風の通行人にこう聞いた。


「すみません!! 何か仕事はありませんか!?」


だが、冒険者風の男は困った表所を浮かべて「知るかよ」とそっけなく返答してその場を去ろうとした。

それを見たリリアナはすかさずその場を去ろうとした男の前に立って作り笑顔を向けてこう聞いた。


「ねえ、糞野郎? 私の質問に答えなさい?」


そう言いながら彼女は空の手からレイピアを生成し、その先端を首元に突き付ける。

男は慌てながらに両手を高く上げて降伏して、仕方ないといった口調で彼女の質問に答えるのだった。















そして行きついた先は王都の北に在るマルムと呼ばれる小さな酒場だった。

風化した看板に、お世辞でも立派とは言えない小さな建物。明らかに繁盛してなさそうな酒場のドアを開けて三人は中に入って行く。すると、ボロボロの見た目とは裏腹に繁盛している様子が見て取れた。目つきの悪いゴロツキ達の溜まり場といった印象の酒場の中を三人のメイドは横切り、カウンターの方へと向う。

そしてカウンターには細身で顔色の悪い男が一人、向かって来る三人のメイドの事を不思議そうな顔で睨み付ける。酒場に居るゴロツキ達も、奇抜な格好をする三人のメイドに視線を奪われていた。

リリアナは視線を向ける男達に嫌悪感を抱きながら、チグはいつもの様に平然と鼻歌を歌いながら、アンネは短いスカートを抑え男達の視線に恐怖しながら、カウンターの方へとたどり着く。

そしてリリアナがここの店主であるだろう顔色の悪い細身の男にこう聞くのだった。


「ねえ、仕事を探しているのだけれど? 何かないかしら?」


リリアナが単刀直入にそういうと、顔色の悪い細身の男は馬鹿にした態度でこう返答する。


「仕事? それならアンタの所のご主人様にケツ振っておねだりすればいいだろ?」


その言葉にリリアナはイラついた表所を見せ、それに気が付いたアンネは彼女を落ち着かせようとした。


「お、落ち着いて、リリアナ」


だが、リリアナはアンネの言葉を無視してこう続ける。


「いいから、さっさと仕事を紹介しろって言ってるのよ。糞野郎」


それを聞いて男は驚いた顔をした後に笑いながらこう言った。


「ったく。身の程を知らないって奴はこうだから困るんだ……おい、お前ら好きにしていいぞ」


そう言うと酒場に座っていた男達は数人立ち上がって彼女達を囲み、不敵な笑みを浮かべながら言うのだ。


「さて、生意気なお嬢ちゃんにはたっぷりお世話をして貰わなきゃな」


「俺はそっちの黒髪を貰うぜ」


「おい、順番はどうするんだよ」


「お前はそこの小さいので遊んでろよ」


そう楽しそうな会話をする男達を見たリリアナはニヤリと笑みを浮かべてこう呟いた。


「いいわね……気持ちの良い位、下卑た糞虫共じゃない……いいわ、ぶち殺してあげる……」


「やっちまえ!!」


リリアナが魔法で鉈を生成すると同時に男達は大声を上げて襲い掛かってくるのだった。それを見たアンネは慌ててリリアナに向かってこう叫ぶ。


「こ、殺しちゃ駄目だよ! リリアナ」


「は? なんでよ? こんな奴ら死んで当然でしょ?」


男達の攻撃を回避しながら、リリアナは余裕の表所を浮かべてアンネに返答する。


「人を殺して王国に目を付けられたら、逃げ回る羽目になるんだよ!」


「ああ、そっか。それもそうね……」


そう呟いてリリアナはアンネの言葉の意図を理解すると同時に生成した鉈を変形させて、刃先を無くした。


「じゃあ、蹂躙を始めましょうか!! 糞虫共!!」


リリアナは大きな高笑いを上げながら刃先を亡くした鉈で文字通り蹂躙していく。

その凄まじい戦闘能力に怯んだ男達は狙いを変え、大人しそうな黒髪のメイドに数人の男が近寄って行く。


「こ、コイツを人質にすれば、あの化け物も止まるはずだろ……」


そう言いながら男の一人がアンネの腕を掴もうとする。だがアンネはそれを軽く避ける。


「おい! 大人しくしやがれ!!」


「い、嫌ですよ!!」


「ちっ、なら!!」


「いゃぁぁぁぁぁ!!」


男は両手を広げ、抱きしめる様にしてアンネの事を掴まようとした。だがアンネは即座に盾を魔法で生成し、生成した盾で近寄って来る男の顔面を叫び声を上げながら殴りつけるのだった。殴りつけられた男は部屋の反対側まで吹き飛び、それを見た男達はもう一人のメイドを人質にとることにするのだった。


「なら、こっちのガキだ!!」


その言葉にチグは微かなイラつきを覚える。


「でも、大丈夫か? このガキも他の奴らと一緒で強いんじゃ……」


「んな訳あるかよ、見て見ろ手が震えてるぜこのガキ」


チグは拳を握り怒りを堪える。だが次の一言で彼女はその怒りを解放するのだった。


「おい、動くんじゃねぇぞ。チビ」


「チビっていうなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


チグは怒りのジャンピングアッパーカットを炸裂させ、男を一撃でノックダウンした。

それを見た男達は戸惑いながらもこう口にする。


「こっちのチビも強い……」


「うがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「おい、大丈夫か!! このチ……」


「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


そう叫び声を上げながらチグは男達を素手で倒していくのだった。

リリアナは鉈で男達を蹂躙し、チグは素手で男達を気絶させていく、アンネは困った様子でそれを陰ながら見守るのだった。そして凄まじい乱闘の末、その場に生き残っていたのは四人だけだった。

リリアナ、アンネ、チグのメイド三人組。そして酒場の店主である顔色の悪い細身の男だけだった。


「さて、もう一度聞くはよ。仕事を紹介しなさいこの糞虫」


そう言ってリリアナは刃先の無い鉈を酒場の店主に突き付けるのだった。


















彼女達は酒場で襲ってきた男達から金を巻き上げ、装備一式と荷馬車を購入して王都の南門に集合していた。


「ねえ、これ、子供っぽくない?」


そう言ってチグは自分の着る服を指先で摘んで、少し嫌そうな顔をするのだった。

薄い布地で出来たフリル付きの赤く長いスカート服。それはまるで西洋人形が赤いドレスを着ている奇抜な格好だが、肌の露出が少ない動きやすそうな服装だった。


「子供っぽいって……そりゃ、子供服だもの」


「……」


チグは呆然とし、その場で服を脱ごうとし始めるが近くに居たアンネがそれを止める。


「チ、チグちゃん! とっても似合ってるよ! まるでお人形さんみたいだから! とっても可愛いからら!!」


「う~……私、これ嫌なんだけど……リリアナみたいなカッコイイのが良いんだけどな~」


そう言ってチグはリリアナに羨ましそうな視線を向ける。

リリアナは薄く軽量化された鎧を全身に身に纏い、その上に白のコートを羽織っていた。腰にはレイピアを差し、さながら女騎士といった風貌だった。


「仕方ないでしょ? アンタのその身体に合う鎧なんて売ってないんだから」


そしてチグはアンネに視線を向けてこう尋ねる。


「アンネはどうして鎧着ないの? カッコイイのに……」


アンネは黒のズボンに白のワイシャツを着て、その上に黒のコートを羽織った軽装で、腰には剣を差していた。鎧の類を纏わない軽装の剣士の格好だった。


「私は普段着で十分かなって思って、鎧って着るの大変そうでしょ?」


「そんなこと無いわよ。服と一緒で着るだけよ」


「でも私はこっちの方がいいかな、動きやすいし」


「まあ、好みはそれぞれだからね。一番不憫なのは、着たいのにサイズが無い事よね? ね、チグ」


リリアナはそう言ってチグに笑みを浮かべると、チグは不満そうな顔をしてこう返すのだ。


「うっさい、リリアナのば~か!」


「ホント、見た目通りのガキね……」


「ば~か、ば~か、ば~か、ば~か、ば~か、ば~か、ば~か、ば~か……」


チグは子供の様にリリアナを馬鹿にし、それに怒りを覚えたリリアナは拳をチグの頭目掛けて振り下ろす。

だが、彼女はそれを難なく回避してこう続ける。


「ぷぷぷっ、外してやんの~!!」


「良い度胸ね……チビ……」


「ちょっと!! 二人共!! 喧嘩してる場合じゃないでしょ!?」


アンネのそんな言葉を無視して、リリアナとチグは街中で戦闘を始めるのだった。

それを見たアンネは溜息を一つ吐いて馬車に乗って手綱を取る。そして彼女は一人で先へと進むのだった。

それに気が付いたリリアナとチグは慌てて馬車の荷台に飛び乗って声を上げる。


「ちょっと、アンネ!! どういうつもりよ!!」


「置いてくなんて酷いよ!!」


「だって、二人が私の言うこと聞かずに戦い始めるんだもん……」


そう言ってアンネは困った表情を浮かべ、荷台に飛び乗ったリリアナとチグはそれでもまだ罵り合うのだった。


彼女達の旅はこうして始まった。宛ての無い、終わりの見えない旅路。

その果てに在るのは何なのか、待ち受けるモノは何なのか、そんな事はわからない。

だがこれだけは言えるだろう。彼女達は誰にも束縛されることの無い自由を手に入れたのだ。

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