女のもう一つの顔
俺の名前は、浜崎裕太。都内にある雑誌の出版社で働いている。別に収入が良いわけではないが働きがいを感じる。
俺は、彼女、中尾麗奈との交際も順調でそろそろ結婚しようかと考えていた。だけど、それはただの思い込みにすぎなかった。
ある日、彼女とカフェでゆっくりしていると
「ねぇ、5万貸してくれない?」
と聞かれた。俺は、びっくりしてしまった。なぜなら、今までそんなこと聞くような子ではなかったからだ。
「5万を何に使うんだよ?」
と聞くと
「ちょっとお小遣いが欲しいの!だめ?」
と言った。5万は、さすがに厳しい思い
「いやー。そこまでないよ。ごめん。」
と言うと彼女は、いきなり泣き始めた。
「あたし、お金ないの。住む場所もないし。お願い…貸して!」
と言ったが俺は信用できなかった。なぜなら、彼女がアパートに帰ってることも知ってるし、彼女の服は、すべてブランド物だ。俺は、ため息をつき、
「じゃあそのブランド物の服とかアクセとか売れば良いじゃん。」
と言ってしまった。その後彼女は、俺に水をかけ、
「たった5万くらい貸せないの?!」
と激怒した。彼女は、多分お金に執着していたのだ。水をかけられて冷静に考えてしまった俺は、
「別れよう」
と言い放った。
「5万は、俺の生活費でも使わない額だ。俺だってそれくらいのお金で買い物とかしてみたいよ。だけど、家の家賃とか食費とかでやりくりしなきゃいけないのに、他人にそんな貸せないよ。俺にとって『たったの5万円』じゃないんだよ。ブランド物買えるくらいなら貯金する事を学べよ。だから、俺はもうお前とは付き合えない。そんな大金を嘘っぽい理由で貸すなんてできない。」
と言った。そして俺は、コーヒー代として1000円置き、彼女を置いて立ち去った。車に乗り込み、家に帰ることにした。そのとき、俺は思った。彼女に家の住所教えなくて良かったとか結婚指輪買ってなくて良かったとかなど…。だが、俺は知らなかった。彼女の本当の恐ろしさを…。
俺は家の玄関を開け、鍵を閉めた。そして靴を脱ぎ、リビングに向かい、テレビをつけた。俺の好きな歌番組がやっていたのでチャンネルをそのままにし、冷蔵庫に向かい、今日の夕飯を考えていた。すると、携帯の電話の着信音が鳴った。
「もしもし」
と出ると
「どうして別れるの?どうして!?」
という声が聞こえた。麗奈だ。
「だから、理由はもう言ったろ?」
と言って切ろうとしたとき、彼女は電話越しで笑っていた。
「なにがおかしいんだよ!」
と言うと
「あたし、良いこと考えちゃった。他の男とつきあうわ」
と言った。俺は呆れて電話を切った。だが、俺は一瞬恐ろしいことを考えてしまった。もしかしたら俺の居場所が分かってしまったのかもしれない。この前ニュースで電話番号から居場所を突き止めたストーカーがいたって言うことを聞いた。だが、それは考えすぎかもしれない。彼女はそこまでしないだろうと思った。そして電話を置き、夕飯を何にするか決めた瞬間、インターホンが鳴った。俺は、宅配かと思い、カメラを見ると彼女が映っていた。しかも微笑みながら包丁を持っている。俺は録画機能をONにし、彼女に話しかけた。
「何の用?」
と聞くとカメラに包丁を向け、
「あなたを殺しにきたの。ほら、そうすれば私は悲しい顔してあなたの親に会えばお金もらえるでしょ~。」
と言った。きっと俺の親も殺される。そう思い、俺は
「変なまねはよせ。俺はそこのドア開けないよ。」
と言うと彼女は笑いながら
「安心して。じわじわあんたの心を苦しめてあげる。殺さないわよ。だって殺したらお金入らないじゃない。」
と言った。そして彼女は、去った。居場所がバレてしまった限り俺はもう、身動きできない。きっと彼女も探偵1人か2人くらい雇える。俺は、すぐに実家や親戚に電話した。全員に
「鍵は絶対閉めるのを忘れんなよ。後、インターホンカメラ付きで録画機能もつけてあるやつ、持ってるか?」
と聞いた。実家には、ついていたが親戚たちにはついていなかった。俺はすぐにそれくらいのものを買うお金を送ることにしたが親戚たちは、自分たちで買うと言った。俺は心配だった。大袈裟だと思われたくなかった。俺は必死に説得した。すると、親戚たちみんな、
「守ってくれようとしてくれてありがとう。ゆうちゃんの話はいつも信じとるよ。だから、私たちもまったりしないよ。」
と言った。俺は心の中で親戚とうまくやっていて良かったと思った。そして説得しすぎてしまったので夕飯を作る気力もなくなった。なので棚にストックしてあるカップめんを食べることにした。俺はお湯を沸かしている間、どうしようかと考えていた。何か対策をしなきゃやられると思った。だが、そんなこと考えているうちにカップめんに注ぐお湯が冷えそうだった。なのでまた温め直してカップにお湯を注ぎ、3分待った。その3分間、俺は対策をひたすら考えたが何も出なかった。
「考えすぎか…?」
と思い、麺をすすった。やっぱり自分で作った方がおいしく感じるがもう体力は、ない。だから、明日に備えてお風呂に入り、すぐに寝ることにした。ちゃんと戸締まりをして…。
次の日の朝、俺が出勤しようとすると、インターホンが鳴った。
「まさか…?」
と思い、インターホンのカメラの画面を見ると宅配便の人だった。
「はーい」
と返事すると
『お届けもので~す』
とマイク越しから聞こえた。男性の声だった。俺は、印鑑を持って玄関の鍵を開け、ドアを開けると
「浜崎さんでよろしいでしょうか?えーと…中尾様からです。」
と言われた。何が入っているのかわからないが印鑑を押し、箱を受け取った。思いのほか軽かった。
「では、失礼します」
と挨拶され、
「ありがとうございます!」
と俺は返した。中に入り、鍵を閉め、カッターで箱の中身を開けると
「イテッ」
何かチクッと刺さった。よく見ると箱の全面に裁縫の針が刺さっていた。そして中身を見ると赤い液体がついた包丁とメモ書きがあった。メモには、
「包丁についた赤い液体、あれはただのペンキ。針には何も塗ってないから安心して。ただ今後、いきなり引っ越したり警察に言ったらここの赤い液体はあなたの血に変わるから」
と書かれていた。最後にはハートマークまで書かれていた。
「ふざけんなよ!」
と箱を蹴った。裁縫の針が箱から全部とれてしまった。仕方なく俺は片付けてすべて、倉庫にしまった。いつでも警察に言えるように。
そうしているうちに、出勤時間が迫ったので自転車で急いで会社に向かった。会社に着き、自転車から降りると、会社の入り口前にあの女がたっていた。彼女は、僕に不気味な笑い方をしながら睨んできた。俺は無視して中に入ろうとした瞬間、
「朝からのプレゼント、どうだった?」
と嬉しそうに言った。
「これ以上ふざけんな。」
と俺が言うと
「何言ってんの?もっとやるよ。あなたがこの私を振ったんだから」
と怒り気味で彼女は、言い立ち去った。俺は、少し怖かったがなんとか耐えた。そして、会社のドアを開け、挨拶を言おうとした瞬間、
「何なんだ!あの女は!?すぐに浜崎を呼べ!」
と社長の声がした。なので俺は急いで社長の元に行った。
「彼女、何かしでかしましたか?」
と聞くと
「お前をクビにしろって言われたよ。こんな、出版社にいるよりもっと良いとこで働かせますからと言ってたよ。あの女とは知り合いなのか?」
と言った。
「俺の元恋人です。現在、僕に嫌がらせをしています。もう迷惑かけないようにしますので…。」
と話を続けようとしたとき、
「そいつ、危ないよ。すぐにこちらで君を保護する。」
と社長が言った。社長は、何もできない俺のことを救ってくれた恩人だ。だから、
「大丈夫です。僕の問題ですから。」
と言った。恩人まで巻き込みたくない。その思いから決めたことだ。社長は、心配しながらも
「わかった。だが、すぐに何かあったら言いなさい。」
と言った。ここまで来ると本当に彼女を許せなかった。だからこそ、話をつけることにした。僕は、社長にお願いし、会社を休んだ。彼女とはなすために。
俺は、携帯の通信履歴から彼女の携帯番号を探し、電話した。
「もしもし。どうしたの?考え直すことにしたの?」
と明るい声で彼女は、電話に出た。俺は、
「話がある。いつもの喫茶店で待ってる。」
と言った。そこは、いつもデートの待ち合わせ場所として行っていた喫茶店だ。そこでコーヒーを飲みながら待った。
15分後、彼女がきた。彼女は、手を振っていたが俺は、何もしなかった。
「おまたせ。急に呼んだんだから準備に時間かかるのは、わかるでしょ?だからそんなに怒んないの。んで話って?」
と嬉しそうに言った。マスターにもう一つコーヒーを頼んだ。そして彼女に
「これ以上、ふざけたマネはやめてくれないか?朝から変な郵便物受けて会社にいたと思ったら社長に迷惑かけて。正直、どうしてそこまですんだよ。そんなことして俺はお前とやり直すと思ったか?」
と俺は言った。すると、彼女は、頬杖しながら
「だって5万円ごときで別れる彼氏がいたなんていやだよ。だからユウキと寄りを戻したいの。」
といった。俺は、ふと気づいてしまった。
「お前、今なんて言った?」
と言うと
「だから!ユウキと寄りを戻したいって言ってんの!」
と机を叩きながら言った。俺は、確信した。この女はもしかしたら…
「お前、俺の名前、間違ってるよ」
と言った。彼女は、はっとして
「ごめーん!カイト」
と言った。嘘だろ。
「違うよ。本当にわかる?」
と言うと彼女は、焦った。そして
「あっ!裕太ね。ごめんね。親戚の名前と間違っちゃった。この前集まりがあってね。」
と言った。俺は呆れた。親戚の顔、名前なんて間違える訳ない。
「なぁ…。俺以外の人にも同じこと、してないだろうな?」
と聞くと彼女の顔が豹変した。
「何えらそうなこと言ってんの。そうだとしたらどうすんの?警察に相談するの?何もしてないのに?バカじゃん。」
俺は頭に来て、
「もういい、俺警察行くわ。あのダンボールの中身のメモ書き見せればどうなるだろうな!」
と言った。そしてコーヒー代を置いて扉を開けて家に向かおうとした。そしたら背中に何か刺さった。それがわかった瞬間、激しい痛みが走った。手で背中に触れると生暖かい赤い血が流れていた。俺が倒れ込む前に耳元で
「ほら、赤いあなたの液体にこのナイフは染まったよ。」
と言って笑い声が聞こえた。あの女の声だ。そして目の前が真っ暗になった。
しばらくするとベットの上で寝ていた。目を開けると2人の男がいた。
「浜崎さん、大丈夫ですか?警察の河北です。」
と言った。俺は慌てて起きあがろうとすると背中に痛みを感じた。
「浜崎さん、寝てて大丈夫ですから。」
と河北さんに言われたがまま寝た。
「浜崎さん、寝たままで良いので質問にお答えください。まず中尾さんとはどのようなご関係でしたか?」
と河北さんが尋ねてきた。
「元恋人です。」
と俺は言った。その後も何個か質問された。そして河北さんから
「中尾麗奈さんを殺人未遂と恐喝罪、詐欺罪で逮捕しました。」
俺はあの女のもう一つのを見てしまった。だが、河北さんから衝撃的なことを聞いた。
「彼女が殺人未遂まで走ったのはあなただけでした。理由を聞くと恋愛感情を抱いていたのに踏みねじられたからだと供述していたのですが心当たりは?」
と尋ねてきた。俺は、こんなことがあろうと彼女似合う前に取材でよく使う録音機を聞かせた。まあそれで分かったのか
「ありがとうございました。」
と言い立ち去った。
今、彼女がどうなったのかわからないが俺はあの後すぐに引っ越して社長が頭を下げて交渉してくれた大手の出版社に移動した。そしていつも通りの生活を送ることができた。