第2話 彷徨
今回は短めです。
場面転換
寄り合い所から放り出された僕は、しばらくそのままの姿勢で、仰向けになったまま空を見上げていた。
秋の空は、腹立たしい程に高く澄み渡っている。
大人達は、何としても沙耶花をオサカナ様への生贄にしようとしている。僕にはそれを止める力は無い。
いっそ泰造を殺してしまえば、とも考えた。しかし、問題は祟りという機構なのだ。
泰造を殺しても、オサカナ様を畏れる人々の心は残る。泰造の死すらオサカナ様の祟りという事になってしまうかもしれない。
僕では、祟りを払い落とすことは出来ない。
沙耶花を救えない。
口惜しい。
涙が溢れそうになるのを堪えて、僕は立ち上がった。
太陽がじりじりと僕を照りつける。頭の中まで焦げ付きそうだ。
沙耶花に逢いたい。
ふらふらと、僕は沙耶花が沐浴をしているという小屋へと歩みを進めた。
沙耶花が篭る小屋は、化生ヶ沼へと続く森の入り口に建てられていた。小屋の前には中年の女の人が二人、地べたに座り込んでお喋りをしている。見たことの無い人達だ。
「沙耶花に逢いに来たんです」
そういうと、太った方の女性が困った様に答える。
「花嫁御はオサカナ様との婚姻に備えて、御身をお浄めになっているの。俗世の穢れを持ち込む事は出来ないから。だから、もう誰も花嫁御に会う事は出来ない」
僕は繰り返す。
「でも、僕は沙耶花に逢いに来たんです」
女は露骨に厭そうな顔になる。
「帰りなさい」
「沙耶花に逢わせて下さい」
急に物凄い力で体が後ろに引っ張られた。小柄な方の女の腕が僕の腰に巻きついている。一瞬の浮遊感の後、受身を取ることも出来ずに背中から地面に叩き付けられた。
息が出来なくなり、空の青が滲む。
女が僕を見下ろし――
「帰りな、小僧」と、有無を言わせない雰囲気を纏い、僕に命じる。
僕はよろよろと立ち上がり、来た道を引き返す。背中に女の声が追い討ちをかけた。
「次来たら、こんなもんじゃ済まさないよッ」
一町程歩いて振り返ると、女達は先程までと同じように、地べたに座り込んで何やらお喋りをしていた。耳障りな笑い声が風に乗って僕の耳に届いた。
読んでいただき、ありがとうございました。




