崩壊Ⅱ
20×1年 4月16日 9時25分
丁度街との中間地点である峠のカーブに差し掛かる。
俺はゆっくりとアクセルに入れていた力を弱めて40km/秒まで落とした。
一応免許はあるものの全くのペーパードライバーだった俺でも案外緊急事態には何にでも対応できるものだと、内心自己愛たっぷりな事を考えていると、いつの間にか街が見えてきた。
しかしアクセルは緩めたまま、緩めて、緩めて、やがて止まる。
同日 9時28分
街から、ビルから、民家から、至るところから禍々しいばかりの黒煙が上がっている。
それは昔テレビで見た紛争地帯の情景を思い出させるような光景だった。
誰が見ても非常事態だ、とてもではないがあんなところへ向かうなど死にに行くようなものだ。
そして俺はバイクを反転させ、自宅のある方向へと戻る為アクセルに力を込めた。
同日 9時48分
不安で胸が張り裂けそうなのを必死におさえながらも倉庫にバイクを入れた後、農具、工具、じいちゃんの猟銃など、目についた武器になりそうな道具を両手に抱えて家に入った。
そして信二と彩乃に一連の事情を伝えた。
心なしか信二が少し元気になったような気がする。
しかしそれも無理はないことだ、人間とは自分が罪悪感に苛まれている時、他人による更に大きな悪行を見ると自分のした事などちっぽけなモノに思えてきて、やがて適当な理由で自身を正当化して安心するようにできている。
人間は脆いものだ、体も、心も。