崩壊
20×1年 4月16日 06時31分
俺は鳴り響く携帯のアラームで目を覚ました。
信二は昨日の疲れが堪えているのか、アラームが鳴っても起きてはいないようだ。
かく言う俺も何だかまだ眠い。
意識はぼやけていて、何だか深い淵をさ迷っているかのような感じだ。
信二がこの状態では学校など行ける筈もなく、今日は特に予定もないが、まず信二の件は解決しなければならない。
あと15分だけ寝ていよう、そう思い、俺は再び瞼を閉じた。
同日 8時21分
再び目を覚ました時、枕元に置いてあった携帯の電子時計を見た。
しまった、寝過ごしてしまった。
この村には1日にバスが2本しか通っていない。
しかも朝と夜だけという極端さだ。
バスでなければ隣町にある警察署に信二を連れて行けない。
下手に信二を家に居させれば俺も罪を問われてしまうかもしれない、そう考えた俺は、今は使われてない車庫に置いてある古びたバイクを思い出した。
バイクの免許ならあるが、何せバイク自体は親父が俺くらいの頃に使っていた物である。
まともに動くかどうか怪しい代物だ。
同日 9時18分
あれから俺は急いで車庫に行き、バイクの状態を確かめた。
車庫に入ったのは小さい時以来だ。
農具や工具にいつのものか分からない風化した缶詰、終いにはじいちゃんが若い頃に使っていた猟銃まで埋もれていた。
遺品整理の時に気付かなかったのか?
そんな事を考えながら車庫を漁っているうちに、ぼろぼろのビニールシートに包まれたバイクを見つけた。
車庫に入っていて日光や雨風から守られていた為か、ホコリを被ってはいるものの、幸いにもエンジンの調子も悪くなく、まだ何とか使えそうだった。
ホコリも拭いたし、同じく車庫にあった整備説明を見つけた為に何とか整備もできた。
その時、門の外から静寂を裂く黄色い悲鳴が聞こえた。
一体何事かと思い、門の外に出てみると、そこには想像を絶する光景が広がっていた。
一人の男に群がる人間の群れ。
軽く20人はいるだろう。
しかし一人として言葉を発する者はいない。
聞こえるのは苦しそうな唸り声だけ。
群がられている男は既に絶命しているのか、手を痙攣させている。
この、人ではない何かの群れは人間に噛み付いている、いや、食らい付いている。
人体組織を咀嚼する音、血を啜る音、目を閉じても耳から伝わる情報だけで胃の内容物が込み上げて来そうだった。
こいつ等は食事に夢中で、俺にはまだ気付いていない様だった。
俺は音を立てないように細心の注意をしながらゆっくりと門を閉めて、しっかりと突っ張り棒を鍵代わりにして封鎖した。
そして玄関に戻り、信二と彩乃を起こして居間に集めた。
「俺は今から一人で町に行く。
何が来ようと絶対に門を開けるな、裏に脚立を用意しておいたから何かあったら塀を登って外に逃げろ。」
信二はすぐに頷いてくれた。
彩乃は困惑していたが、俺の並々ならぬ表情に何かあったんだと察してくれた様だった。
そして俺は脚立を家の裏に置き、門を少しだけ開けて外の様子を見た。
さっきの集団は消えたようだ。
ただその代わりに道の真ん中に無惨にも食い散らかされた死体が横たわっている。
それをできるだけ見ないようにしつつ、しっかりと腰のベルトに車庫で見付けたバールを差し込んで、バイクで少し外に出る。
彩乃が門を閉めたのを確認し、俺は思いきりアクセルを回した。