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始動Ⅲ

同日 19時12分



あの後俺達二人はソファーに座り、何故かいつもの様に現場映像が映らないアナウンサーが淡々と暴動の内容を語るニュースを見ていた。

しかし今目を覚ましてみれば外は薄暗く、携帯の電子時計は19時過ぎを表示している。

TVはつけっぱなしで寝てしまったのに電源が切られていた。

恐らく彩乃が消してくれたのだろう。


隣に寝ている彩乃を起こさぬ様に、ゆっくりとソファーから抜け出して窓ガラス越しの景色を眺めた。


景色とは言っても実際には田んぼや畑が見えるだけ。

しかも街灯があまり無い為に、景色は月が出ていない夜では完全に夜の闇に染まる。

まあ、夕日が出ている夕方にはその景色は、日本人の心に眠る故郷への憧憬を刺激するようなノスタルジックな光景にはなる訳ではあるが。


残念ながら今日は雲で月光が遮られてしまっている様で、夜の景色は見ることは不可能だった事に加えてまたも眠気が襲ってきた。


再びソファーで寝る事には何だか気が乗らず、ソファーで小さな寝息を立てながら眠る彩乃に、近くにあった薄手のブランケットを掛けてやり、俺は一人部屋へと歩を進めようと廊下に出た。


しかしその時、外の門を激しく叩く音が聞こえた。


ニュースで報道されていた暴徒の話を思い出すと、不意に冷や汗が額から涌き出てきた。


“裏口から出て塀を上って逃げようか?”


俺が真っ先に思い付いたのは、戦うことでも門を強化する事でもない。

逃げる事であった。


しかしソファーで眠っている彩乃を俺は思い出す。

きっと俺は塀を上れるだろう、しかし彩乃は上れない。

彩乃には小さい頃に交通事故に遇った時の後遺症がまだ膝に残っているからだ。

つまり、このまま俺が逃げれば彩乃は確実に犠牲になるだろう。

殺されるかもしれない。

いや、若く綺麗な彩乃ならもっと酷い目に遇うかもしれない……。

そう考えると、俺の中の恐怖はまるで嘘の様に消え去った。


急いで部屋に行き、昔修学旅行のノリで買った木刀を手に取り、玄関へと向かった。


この時、俺はかなり好戦的な精神状態になっていた。

人は何かを守る時こそ本来の凶暴性を露にする。

母熊が子熊を連れている時、異常な凶暴性を見せるのと同じである。

所詮人間も動物に過ぎないのだ。


俺は玄関を出て、年季の入った木製の門の前に立ち、ゆっくりと音を立てないように突っ張り棒を取り、数歩後ろへと下がる。


そして言った。


「どうぞ……」


丁寧な言葉とは裏腹に俺は刺し違えてでもこいつの好きにはさせないと考えていた。


そして、ゆっくりと門が開いた。


そこに立っていたのは血塗れになった一人の男だった。

しかし俺は木刀で殴る事など出来なかった。


何故ならその男が俺の親友、信二だったからである。







同日 19時39分



「涼介……俺、夏音を見殺しにしちまった……どうしよう、どうしよう……」


信二の第一声は夏音を見殺しにしてしまったという事だった。

いまいち話が飲み込めなかった俺は、取り敢えず信二に着替えを貸してシャワーを浴びさせ、ソファーで眠る彩乃を起こして居間で待機していた。


そしてシャワーを浴び終えた信二は俺と彩乃の前に座り、事の顛末を事細かに語り始めた。


そこで俺は初めてその重大さに気が付いた。

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