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始動

同日 8時21分



しばらく談笑していた俺達はいつの間にかもう校門の前まで来てしまっていた。

全く、楽しい時間というものはあまりにも経過するのが早く感じる。


「じゃあ……俺達はこの辺で、行こうや涼介」


昇降口で靴を上履きに履き変えた俺達四人はここで解散となる。

この木造の古びた校舎は二階建てであり、一階に一年生教室と二年生教室、二階に三年生教室があるからだ。

信二に促されるまま俺達は階段を上がった。


「じゃあね涼くん、また放課後に!」


階段を上がる俺の後ろから彩乃の大きな声が聞こえた。

しかし俺は反応しなかった。

級友達に茶化されるのが鬱陶しかったから、というよりも照れ隠しの意味合いのほうが強いかもしれない。





同日 10時28分



あれから俺と信二は相も変わらず内容の薄いホームルームを終え、つまらない数学の授業を受けていた


“あと2分でやっと数学も終わる”


訳の分からない数式が並んだ黒板の上にある壁掛け時計を見てそう思った瞬間、不意に校内放送が流れ始めた。


『職務中の職員の皆さん、至急職員室にお集まりください』


教室のスピーカーから流れた老人の声。

この学校の校長の声である。

半世紀以上前、かつてこの国が世界を巻き込んだ激戦の真っ只中にいた時代。

この校長というのが航空隊のエースパイロットだったという噂がある。

まあ、あくまでも噂ではあるが。


そうこう無意味な事を考えているうちに数式を熱心に教えていた教師は教室から消えていた。

職員室に向かったんだろう。


その時、生徒の一部が一人の生徒の携帯を覗き込むように集まり、ざわめき始めた。

一体何だろう。

沸き上がる好奇心を抑えきれなかった俺と信二はその生徒の輪に入った。

どうやらネットのニュースを見ているようだった。

そこまでは普通だ、何も驚くような事じゃない。

しかし問題はそのニュースの内容だった。


「大規模な暴徒の集団が発生し今もなお拡大中、無差別に人に噛みついている……って」


書かれている内容を無意識に読み上げ、俺は目を疑った。

平和なこの国で暴徒の集団?人に噛みつくだって?

これじゃあまるで映画や漫画の中のゾンビじゃないか。


俺は自分の携帯を学生服の上着ポケットから取り出し、ネットに繋げてみた。

どのサイトでもその話題で持ちきりのようだ、エイプリルフールはもうとっくに過ぎた筈なのに……。


「涼介!待てよっ!」


いてもたってもいられなくなった俺は制止する信二の声を振り切り職員室へと駆け出した。






同日 10時38分



職員室に着いた俺は取り敢えず乱れた息を整え、職員室の扉の小窓から中を覗いてみた。

教師達は神妙な表情で自分の椅子に座って、杖をついた校長の話を聞いている様だった。

校長が何を言っているのかはよく分からなかったが、一言だけ校長の掠れた声がはっきりと聞こえた。


「最悪の状況です」


最悪の状況?

どういう事なのか俺には分からなかった。

ただ、俺にも一つだけ感じ取れた事はと言えば、何か大きな良からぬことが起こるという本能的な恐怖だけだった。




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