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レオンハルトの証明  作者: 楽機
4/8

ヨハン

【ヨハン】


 (どうにも不可解だ)

 ヨハンは昨日のレオンハルトの言動に、未だに不信感を抱いていた。

 (やはり、何か。それもカタリーナに関係することで何か企んでいる)

 それまで自分が入る隙間などないほどまでに、カタリーナと親密に会っていたレオンハルトがある時を境に部屋に引きこもるようになった。

 そして、昨日突如として双子の数字について尋ねてきた。

 一瞬、カタリーナの事を諦め、あの純粋無垢なメイドを嫁にでもするつもりなのか。そう思いはしたが、あの男に限ってそんなことはないはずだ。あの男は人畜無害そうな様相の皮一枚隔てた裏側に、獰猛な獣のような野心を隠している。そういう男だと、ヨハンはレオンハルトの事を評価していた。したがって、レオンハルトがカタリーナのことを諦めたとは考えられない。

 (神の隷として、このようなことはしたくは無かったが、止むをえまい)

 夕方の六時前。ヨハンは自室の内側にて外の様子を窺い、レオンハルトが部屋を出るのを待っていた。しばらくすると、ドアの開く音と同時に人の足音が聞こえる。足音は階段の方へ遠ざかっていった。

 ヨハンは部屋のドアをゆっくりと開け、廊下に誰もいないことを確認すると、素早くレオンハルトの部屋へと忍び込む。

 すぐさま机へと駆け寄ると、机の上の書類や机の引き出しの中身を物色し始めた。

 (何か、手掛かりは……)

机の上には、何やら小難しい計算がびっしりと書かれた紙や数学書が無造作に置かれており、ヨハンにはこの数字が何を表すのか想像もつかない。

 机の一番下の引き出しを開ける。すると、そこには大学の卒業証書が入っていた。

 学長の印と、国王の印が押されたその証書は美しい斜体で書かれている。じっと証書を見つめるヨハン。心の中に、何か違和感を感じた。

 ヨハンは卒業証書を丸め、服の内に隠して部屋を後にした。



 「フラウ・カタリーナ」

 遅れてきたヨハンを交えての食事も終わり、カタリーナは自室に戻ろうとしていた時。ヨハンが彼女を呼び止める。

 「ヨハン様。どうなさいましたの?」

 「いえ、また何やらお元気がなさそうでしたので。私で良ければお話でもと」

 顔を俯かせ小さく頷くと、ヨハンとカタリーナは屋敷の二階へと上がる。

 二人は屋敷の二階の廊下の突き当たり。屋上へ通じる階段に向かい屋上に出て、扉を閉める。

 しばらくの沈黙の後、先に話し始めたのはカタリーナの方だった。

 「なんだか、最近疲れてしまったのです」

 「それは、何に?」

 再び沈黙が訪れる。

 「……ヨハン様にでしたら、お話しても良いかもしれませんね。私とレオン様のこと」

そしてカタリーナはポツリポツリと話し始めた。

 「……きっと、何か私のために一生懸命にしてくださっているのだろうけど。でも、私はいつまで待てば良いのかと。どうしようもできないことなのに。しかし、ここで私が心変わりしてしまっては、それは何だか裏切りのように感じてしまうのです」

 心の内をヨハンに吐露していくカタリーナ。それまで溜めこんでいた想いや不安は堰を切ったように流れ出る。

 その様子をレオンハルトは聞いていた。

 名前を出さずとも、それが誰の事を言っているのか。連れ立って歩く二人を追いかけ、屋上のドア越しに二人の会話を聞いていた彼にはわかった。二人に気付かれぬよう僅かに開けた隙間から、ヨハンの声が聞こえてくる。

 「……貴女が何に対してそのようなことをおっしゃっておられるのか私にはわかりません。しかし、そんなに辛いならばそれに耐える必要はないのではないでしょうか? その眼に涙を浮かべるほど苦しんで、何が幸せなのですか?」

 「――ヨハン様」

 優しく、囁くような声でカタリーナに話しかけるヨハン。そして、続くカタリーナの声と布と布が重なり合う音。姿は見えずともその音から、このドアの向こう側にどんな光景が広がっているのか。レオンハルトには容易に想像がついた。

 それ以上、レオンハルトは二人の会話を聞き続けることはできなかった。男女の会話を、二人にばれぬ様盗み聞きをしている自分が、酷く惨めに思えた。

 まだ何やら話している二人を後に、レオンハルトは自分の部屋へと戻った。


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