乙女ゲームをやったそのあとに…
「乙ゲーねぇ……」
姉貴のゲームを借りた。
「絶対面白いからっ!!」
……どこが?なにが?それに現実問題、こんな世界あるわけないだろう。
イケメンばっか出て来て……ってか、この世界はイケメンしか存在しちゃいけない世界なのか?イケメンと仲良くなって、最後は歯の浮くような、砂だか砂糖だかを山と吐き出させるようなセリフを聞かないといけない。
耐えられない……鳥肌がたつ。姉貴はこんなクソゲーのどこがいいんだ?
「かっくーん。入るねぇ」
姉貴だ。もう午後三時か。
「どうぞ」
ぼくは自分の部屋のドアを開ける。
「勉強は進んでる?」
「いいや。お姉ちゃんから借りたゲームやってた」
「え?あれ、やってくれたの?どうだった?」
「……なにが楽しいかわからない」
「やっぱ、かっくんにはダメかぁ。面白いと思ったんだけど。
でもまだ全部やってないでしょ?貸したの午前中だし」
「落とす男、十人のうち、半分は落とした」
「……は…はや」
姉貴はぼくの机の上に、紅茶と手作りのマフィンを乗せる手を途中で止めて絶句していた。
ってか、こんなワンパターンの内容を攻略するのに、なんで時間がかかるのさ?
「これ返すよ」
「……あ、ありがと」
「あと宿題は終わったから、これ食べたら遊んでくる」
「そ、そう……」
ぼくは姉貴にゲームを返すと、紅茶に手を伸ばした。
姉貴は魂を抜き取られた――なんて人を実際に見たこと無いけど、呆然としたまま、それ以上なにも言う事なくぼくの部屋を出て行った。
とか言いつつ。
特に遊ぶ目的もないまま、コンビニに寄ったあと、ぼくの通う中学の方へと足を向ける。今日は祝日だから、学校は休み。
「よう、かつみ」
そうぼくに声をかけてきたのは同じクラスの高梨久遠。
今日は部活だったのか。というジャージ姿でぼくに手を振っている。
「久遠。今日は部活だったんだ。真面目だねぇ」
「大会近いからな」
そうか、こいつレギュラーだっけ。
ここでこれから部活の練習か、学校に向かう女子たちからきゃぁーという声があがる。
まぁ、久遠は人気あるからな。
それなりに身長あるし、顔もいいし。
さっきの乙ゲーに出しても、結構いけるんじゃないの?ってぐらいか。
「久遠、女子がおまえに手を振ってるぞ」
「……なぁ、かつみ。いい加減自覚しろよ……」
なんでか久遠がぼくを見て呆れている。なにが「自覚」だよ、まったく。
意味わからん。
ぼくは久遠と別れて、学校をあとにする。
「よう、かつみっ!!」
こいつは幼馴染の岡本修平。
小、中学と一緒のくされ縁。そういや、こいつもなんやかんやと背も高いし、顔もそれなり。やっぱ、あの乙ゲーに出しても、久遠には負けるかもしれないけど、なんやかんやと人気はありそうなキャラっぽいな。
「暇だったらメールでもしてくれりゃいいのに」
「今、暇になったんだ。それまで宿題してた」
「あんな程度の宿題だったら、おまえは一時間もかからないだろう?
学年トップの頭をもつおまえがさ」
「……褒めても何もでないよ」
「なんだ。つまんね」
屈託なく、修平はぼくににっかりと笑って見せた。
こいつはこういう会話を気楽にできる数少ない親友のひとり。
ここでまた同じ中学の女子たちに会う。なんか面倒なんだよな。
修平もやっぱり女子たちに人気がある。
きゃっとか、熱っぽい目で修平を見てる。
「修平。女子たちに声をかけてやれよ。ずっとこっち見てんじゃん」
「……かつみ。あれはどう考えても違うだろ?」
何が違うってんだよ、まったく。
ぼくは修平を伴って、結局ぼくの家でゲームをすることにした。
「ただいま」
「おかえりなさーい」
姉貴の声。
わざわざ玄関まで迎えに出てこなくていいよ。
「あら、修平くんひさしぶり」
「こんにちは」
修平は礼儀正しく姉貴に頭を下げた。
「お姉ちゃん。これから修平と部屋でゲームするから」
「そう……ごめんね、修平くん」
「いいえ。お邪魔します」
ぼくは姉貴を無視して脇をすりぬけるように玄関を上がった。
「なぁ。いい姉ちゃんじゃないか。いつまで反抗してるんだよ?」
「別に。色々面倒みてくれるし、いい姉貴だと思ってるよ。でも少しウザい」
「どこが?あんな綺麗な姉貴なら喜んじゃうけどな、俺」
「……そうか。ならノシつけてあげるよ」
「またそういうことを言う」
階段を上がって二階のぼくの部屋にいく。
「……でもさ。相変わらず男みたいな部屋だよな」
修平はぼくの部屋をみて、苦笑い。
「うるさい。ゲームするの、しないの?」
「おう、するする」
え?ぼくの事?そんなの訊いて楽しい?
ぼくの名前は一本木かつみ。十五歳。
ぼくは女だよ。見てわかんない?やんなるよな……まったく。
ぼくを見ると、女子はすぐきゃーとか付き合ってくださいとか言うんだよね。
面倒なんだよなぁ、それ。だから無視してたのにさ……。
男子と遊んでた方がずっと気楽だよ。