6.はじめてだから……*
※Rシーンは大幅カットしております。ムーンライトノベルズにR18版がございます。
「――リラ?」
「……はぇっ?」
ヴァールハイトのことを考えすぎたゆえの、幻聴かと思った。でも視線を上げると、リラの寝室に現れたのは間違いなく――
「ヴァールハイト……?」
「待たせたな」
口角を軽く上げてリラを見下ろす、ヴァールハイトがそこにいた。いや、確かに待ってたけど……なんでいるの⁉︎
昼間よりも少しラフな格好で、洗ってきたのか黒髪はしっとりと艶めいている。見るたびに整った顔立ちだと思う。
そんな彼が両腕を広げて「おいで」といってくれるから、嬉しくて自然に抱きつこうとした……が、いまは素っ裸なことに気づきシーツの中に舞い戻って隠れた。
恥ずかしい……っ。リラはオメガと判明し湯浴みをひとりでするようになってから、他人に裸を見せたことがないのだ。
「あの、これは、その……」
「ふはっ、恥じらってるのか? 発情期が来たからとリラの父上に呼ばれたんだ。そんなんじゃ……先が保たないぞ?」
シーツの端から頭と目だけを出し、潤む瞳で未来の夫を見た。笑うと目尻が細まって、そんなところも格好いい。
リラはシーツの間からにゅっと腕を伸ばし、ヴァールハイトの手を掴む。
「ヴァル。はじめてだから……ね。優しくしてくれる?」
「…………」
「あと項、噛んでほしい……」
「そのつもりだ!」
突然腕を引かれて身体を起こせば、顎を掴まれて唇同士が重なった。少し強引な動作と、初めて知る唇の柔らかさ。感触に驚いていると、離れていく。
「優しくしてやるから、これ以上煽るな……」
「え?」
煽っ……? きょとんとしているとまた口づけが降ってきた。
◇
――行為の最後、項に強く歯を立てられた。
「〜〜〜〜〜っ、ぁ……――――‼︎」
ヴァールハイトの犬歯が項の皮膚を貫通し、ざわ、と全身の皮膚が粟立つ。血が出ているはずなのに、不思議とリラは痛みを感じなかった。
白く光る瞼の裏では体内を駆け巡る血が沸騰し、蒸発して、もう一度リラをかたち造っていく。アルファに噛まれた、それだけのことで生まれ変わっていくような心地だ。
「リラ……俺のつがいだ」
舌で癒やすみたいに項を舐めたヴァールハイトが、リラを抱き締めて耳の裏で囁く。リラは胸が苦しくなって、ひっくと小さくしゃくり上げた。
慌てた様子でコロンと仰向けにひっくり返される。
「どうした。痛かったか……?」
「ううん……幸せで。僕、オメガに生まれてきてよかったぁ……っ」
熱い涙がぽろぽろと眦から流れ落ちる。ヴァールハイトはそれをキスで優しく拭って、抱き締め直してくれた。
リラは自分の存在意義にずっと疑問を抱いていた。母の命を縮め、父を哀しませて生まれ育った。二次性はオメガで、発情期は苦しいだけだ。
せめて父のためになる結婚をと思っていても、相手を好きになれるか不安だった。運命の番なら? 運命の相手とだって幸せになれるとは限らない。
他人に迷惑をかけて生きているくせに、自分の幸せを求めること自体間違っているのかもしれない。欲張りなリラに、神様は罰を与えているのかもしれない。じゃあ……リラの生まれた意味は?
「これからはずっと一緒だ。苦労させるかもしれないが、リラのために生きることを誓おう」
「……うんっ」
きっとヴァールハイトに出会うために生まれてきたんだ。この人を幸せにしたい。彼が幸せなら、リラも幸せになれる。




