表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
退職した最強の神様、古代世界で人として暮らす〜狼とゾンビに抗い、村を守るために戦います〜(WEB版/原題:月宮奇譚1 狼と骸の王)  作者: いふや坂えみし
終章 未来

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/52

第五話 実験

 首を()ね飛ばされた狼の死骸から植物の(つる)のようなものが生えている。その狼の場合は、両前足から生えていた。オキヒは、短刀で蔓の先から根本に向かって切断していく。根本に近くなると、黒い樹液のようなものが切断面から()み出し、土の上に(したた)り落ちる。落ちた黒い液体はゆらゆらと(うごめ)き、液体同士が集まって大きな(かたまり)になろうとしていた。

 今度は、前足の方を切り裂いてみる。狼は死骸となってから数日以上経過している。通常の死骸であっても、血液が吹き出してくることはない。黒い液体が染み出してくることもなかった。

 地面に滴り落ちた黒い液体を壺に入れて蓋をする。それから夕食と実験のために狩っておいた(うさぎ)を準備する。血抜きしたものとしていないものをそれぞれ木の枝に吊るした。準備は整った。壺の蓋を開け、まずは血抜きした兎に黒い液体を垂らす。黒い液体はそのまま兎の体から滴り落ち、地面で塊を作った。

 続けて、血抜きしていない兎に黒い液体を垂らす。すると、黒い液体は兎の傷口から体内に入り込み、兎はぴくぴくと動き始めた。兎の首を刎ねると、兎はまた動かなくなる。動かなくなった兎は念入りに焼く。夕食にするためだ。黒い液体は火に弱いらしかった。

 最後に、あらかじめ首を刎ねておき、血が抜けないよう保存していた兎の遺体に黒い液体をかける。この場合、やはり黒い液体は兎の体内には入りこまず、地面に落ちるだけだった。

「あの大きな狼は首を斬られても動いていたが……。(ひたい)に埋まっていた黒い珠が関係しているのかな。あの珠……御霊玄室(みたまのくらきや)に似ていたな。あれも神器なのか?」

 オキヒの独り言に答える者はいない。オキヒは気が遠くなるほど長い間、地上を旅している。毎日のように狩りもしているが、死骸が動くなどという現象を目撃したのは今回が初めてだった。首を刎ね飛ばすと動かなくなることから、黒い液体はどうやら死骸の頭に入り込み、体を動かしているようだ。

 森を移動する中で、猪や蛇、蜥蜴(とかげ)、鳥などのいろいろな種の動く死骸を見つけることも増えた。

「この黒い液体は、生きているのか?他の生き物に寄生している。集まって大きくなろうとする。……どうやって増えている?」

 オキヒはここしばらくは検証に熱中し、退屈を忘れることができていた。


 女は樹海と呼んで差し支えのない森の最奥(さいおう)にいた。力の強い獣を探すためだ。狼は惜しかった。だが、実験としては悪くない結果だった。神格が封じられた上に油断していたとは言え、神を相手に深手を追わせることができたのだ。十分だろう。あの狩人の男を完全に支配することができなかったのは想定外だった。人は他の獣に比べて自我が強いということだろうか。人の支配にはもう少し工夫が必要になるだろう。

 狩りをしながら様々な獣を見て回る。


 ずるり、ずるりという大きなものが()いずる音が女の耳に届く。


 その音源を求め、近づいていくと頭の大きさが女の背丈ほどもある大蛇に遭遇した。猪を一頭、丸呑(まるの)みにしているところである。

「うん、よいぞ。お前にしよう」

 女は大蛇の視界に入るよう、正面に回った。かごの中から穢れの入った壺を取り出す。大蛇は頭をもたげ、大きな口を開けた。女を呑み込むつもりである。女は身軽に跳んで木を蹴り、更に高く跳ぶ。自ら蛇の口の中へ飛び込む形になるが、中空で壺の(ふた)を開け、大蛇の口の中に穢れを(そそ)ぐ。大蛇は(ひる)み、動きを止める。女は大蛇の口に入って下顎(したあご)に降り立ち、さらに穢れを注いでいく。壺が空になると大蛇はふらりと頭をふらつかせ、地面に倒れた。

 女は飛び降り、大蛇の様子を観察する。口から泡を吹き出し、痙攣(けいれん)を始めた。やがて痙攣は治まり、しばらく動かなくなったが、目を開けて再び頭をもたげる。女に狙いを定め、食らいつこうとする。女は地面を蹴り、大蛇の頭を()け続ける。的を見失った大蛇は木の幹を(かじ)り取る。大蛇は女の予想を超える速度と力を示した。

「ふふ、なかなかだ。これからの成長に期待しよう」

 そのまま逃げ続け、女はその場を去った。

最後まで読んでくださってありがとうございます!

ブックマークと評価をいただけると励みになります。続きを読みたいと思っていただけたら、ぜひよろしくお願いします。


↓X(旧Twitter)

https://x.com/zaka_blog


↓個人ブログ

https://zaka-blog.com/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ