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第三話 狼たちは殺されることを顧みずに人を襲いにきている。

 ヤネリやナギが住むヤマク村の青年、ウチナリは村で鍛冶師として暮らしている。十年前に隣村と争いが起こり、ウチナリの両親は亡くなってしまった。ウチナリもそのとき殺されそうになっているところを、ふらりと村にやってきたワケノとその夫のタカハに助けられた。彼らに引き取られてからさまざまなことを学び、手に職をつけて生活できるようになったこともあり、いくら感謝してもしきれるものではない。

 争いによってヤマク村の村長が亡くなってしまい、代わりにワケノが新たな村長になった。新参者だったが争いから村を救った英雄なので、反対する者はいなかった。実際、ワケノとタカハは村に多くの技術を持ち込み、二人にまかせておけば村の未来は安泰だと信頼することができた。

 孤児(みなしご)となり村長の家に引き取られることとなったウチナリは、九歳で両親を失った衝撃でそのころのことをよく覚えていない。

「武器を持った大人から逃げずに立ち向かうなんてな、なかなかできることじゃない。だけどな、そうするには相応の力が必要だ。俺たちならそれを身に付けさせてやれる。どうだ、俺たちの家の子どもになるか」

 村長の夫のタカハから、そんなふうに誘われたことだけは覚えている。もう誰にもなにも奪われたくない。そう決めたから、タカハの誘いを受けることにした。修行の厳しさから逃げ出したくなることはあったが、村長夫妻に引き取られたから今のウチナリがある。

 村長夫妻からの教えを受ける中で、ウチナリは鍛冶の才能を見出(みいだ)された。鍛冶師としての知識を吸収することにすぐのめりこんだ。自分を忙しくして両親のことを思い出さないようにしていたのかもしれない。そのころ、ウチナリよりも十歳以上年上のタオツキという青年が村長夫妻から狩人としての教えを受けていた。ウチナリはタオツキとともに武術を学んでいたが、武術ではタオツキに敵わなかった。

 タオツキも隣村との争いで両親を失っていたが、そのころすでに二十歳になっていたので、自分の竪穴住居(いえ)から村長の家へ通って教えを受けていた。同じ境遇だからか、タオツキはウチナリを弟のようにかわいがり、ウチナリもまたタオツキを兄のように感じていた。

「なにかあったら、いつでも俺を頼ってこい」

 そう言ってタオツキが狩人として独り立ちしたのはウチナリが十四歳のときだった。入れ替わりにオトヤという少年とアズサという少女が村長夫妻の教えを受けに通ってくるようになった。二人とも十歳の双子で、両親は健在だった。村長夫妻が村の子供たちの中から、才能がありそうだと見出(みいだ)したらしい。二人とともに教えを受けたのは一年だけだったが、タオツキのようにウチナリもよく二人の面倒を見た。すでに教えを受けるのも五年目で、教えられることはいくらでもあった。

 ウチナリが村長夫妻の家に引き取られた頃、隣にサマトとヨミヤという若い夫婦が暮らしていた。生まれたばかりのヒウチという男の子がいて、二人は米や豆を作って暮らしていた。隣同士だったので、よく二人から育てた米や豆を分けてもらい、村長夫妻は狩ってきた猪や鹿、鴨などその日にとれた獲物を届けていた。村に農業を広めたのは村長夫妻だが、自分たちは狩りをしながら狩人を育成していた。

 生まれたばかりの子どもの世話をしながら働くのは大変なので、時々ウチナリはヒウチを背負ってあやしたりしていた。二人の間には、三年後にサク、その二年後にヤネリという子が生まれた。二人とも男の子だった。ヤネリが生まれる一年前に村長夫妻の間にナギという女の子が生まれた。ウチナリは四人の子どもの遊び相手をすることも多かった。村長の家族と若夫婦の家族にはずっと幸せでいてほしい。そう願った。

 しばらく村長夫妻に育てられ、鍛冶師として一人前となったため、四年前——十五歳で独り立ちし、そのまま村長夫妻の鍛冶場を受け継いだ。村長夫妻と長く過ごしてきて、二人にできないことは何もないのではないかと思えた。狩りの腕も漁の腕も村で(かな)う者はいなかった。鍛冶や稲作の知識もあり、飢えることが無くなった。村長夫妻が来てから村の暮らしは目に見えて豊かになっていたし、人口も増えた。

 受け継いだ鍛冶場では銅、(すず)、鉛を溶かして青銅を精製する。そのときに有害な煙が出るため、鍛冶場は村の中心から少し離れた場所に建てられていた。去年からサマトとヒウチの親子がウチナリの鍛冶場で働くようになった。人が増えて鍛冶場が忙しくなったからだ。

 稲作も始まっていた村では、近くの水場が重要である。それは村の近くに縄張りを持つ狼にとっても同じだったようで、村ではたびたび狼による被害が起きていた。

 だが、今日の明け方から発生した襲撃は度が過ぎている。今までは村で飼っていた豚や鶏などの家畜が狙われていた程度で、人が襲われることはなかった。今はなぜか、狼たちは殺されることを(かえり)みずに人を襲いにきている。

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