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退職した最強の神様、古代世界で人として暮らす〜狼とゾンビに抗い、村を守るために戦います〜(WEB版/原題:月宮奇譚1 狼と骸の王)  作者: いふや坂えみし
第三章 穢れ

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第四話 いつからこの状況を予想していたんだろうね

「あなたが、あのホムラ様ですか」

 ホムラは世界の誕生とともに地上を放浪する神である。

「僕は神としては何もしてないんだけど。君は何の神様?月宮(あそこ)にはほとんどいないから、神の世情には(うと)いんだ」

 ホムラは頬を()く。

「私は知恵の神で、シキと申します。お初にお目にかかります、ホムラ様」

 ホムラはシキをじっと見る。

「……なんでしょう?」

 シキは首を(かし)げる

「どこかで会ったことないかな?悪いけど、目隠しと口の布をとってもらってもいいかな」

「申し訳ありません、布を取るわけにはいかないのです。いまここに穢れが漂っているかもしれないので、二柱とも、これで口を覆ってください。それと私とホムラ様は初対面ですよ」

 シキはホムラとキサイに口を覆う布を手渡した。

「だよねえ。子どもの昔なじみなんていないしなあ。なんでそう思ったのかな」

 うーん、とホムラは考え込みながら布で口を覆い、頭の後ろで縛る。

「長い間、地上を旅していたのでしょう、私に似た何かに会っていたのかもしれませんね」

「穢れとはなんですか?」

 キサイも口を布で覆いながら尋ねる。

「シラスは、大きな狼の死骸に運ばれていたんだ。どう見ても死んでいるんだけど、首が切れたまま動いていてね。死骸を動かしているもののことを便宜上、穢れと呼ぶことにしたんだ。ちょっとこれを見てくれないかな」

 シキは、シラスの傷口から(あふ)れた血を入れた(つぼ)と、空の皿を用意した。壺の中の血を皿に注ぐ。皿の中に溜まった血は、ぴくぴくと揺れ始める。

「シキ様、これは?」

 キサイの表情に隠しきれない不快さが(にじ)み出る。

「シラスの傷口から採取した血だよ。こうして動いているから、死骸を動かしているのはこれなんじゃないかと思う。調べてみないとわからないけどね」

「へえ。興味深いね」

 一方のホムラは目が輝いている。

「シラス様になにか影響はあるんでしょうか?」

 キサイはうねうね動く血から目が離せない。

「繰り返しになるけど神だからね。大抵のものには負けないと思うよ。穢れもほとんど抜けたと思う。傷口が(ふさ)がったらダメ押しの治療をする予定だよ」

 シキが皿の血を壺に戻して蓋をすると、キサイは少し残念そうな表情をした。

「へえ。対処が的確だね。さすが知恵の神だ」

 ホムラはシキの頭を撫でようとしたが、さらりと(かわ)された。

「私は世の中に存在するものであれば、知識として捉えられるのです。しかし、死んだものが彷徨(さまよ)っているこの状況はまずいと思うのです。世が乱れます。それで、二柱には死の世界を作って欲しいのです」

 シキは顔を伏せる。

「なるほどね。さっき僕たちも、死んでるのに動く狼に出会ったよ。確かに、あんな気持ち悪いもので世界を満たすわけにはいかないね。ウジも、動く死体で溢れかえる世界を作りたかったわけじゃないだろうしね。僕は、世界を生んだ原初の炎を司っている。死の世界を作ることもできるかもしれないね」

 ホムラが微笑むとシキはぱっと顔を上げる。目隠しと口を覆う布で表情はほとんど見えないが、喜んでいるようだ。

「そう言っていただけるとありがたいです。実は、ウジ様から死の世界を作る珠を預かっているのです」

 シキは懐から黒い珠を取り出す。

「これは、御霊玄室(みたまのくらきや)というものです。……そうですね。生きているものは大雑把(おおざっぱ)に分けると、いま動かしている目に見える身体とものを考える心に分かれています。普通は死ぬと身体も心も動かなくなって無に帰ります。ですが、身体が死んでも心がまだ生きていることがあるのです。死ぬことに未練があるときですね。生きて世界にあり続けたい、という強い思いがそのような現象を起こすのです。そうして残った心に穢れが混じると、死体が動く状態になるのです。生き返りとでも呼びましょうか。生き返りを元の死体に戻すには、穢れを(はら)う必要があります。しかし、穢れが祓われても心はまだ残っています。身体を失った御霊(みたま)ですね。御霊の安らげるところを用意することで、生き返りを生む危険はなくなるでしょう。この珠には、御霊を引き付ける力があります。これを使って、死の世界を作るのです」

 こほん、とシキは咳払いをする。

「死体に御霊が残っていなければ、生き返りにはならないということですか?」

 キサイは水を用意してシキに薦める。

「ありがとう。うん、その通りだよ」

 シキは水で喉を(うるお)す。

「なるほど、わかりました。冥界を生み出すお役目に取り掛からせていただきます。ホムラ様、至らぬ点もあるかと存じますが、よろしくお願いします」

 キサイは座ったままホムラにお辞儀をする。

「こちらこそ、よろしくね。それにしても、ウジのやつはいつからこの状況を予想していたんだろうね」

「ウジ様は穢れが現れなくても、冥界の必要性を感じていたのでしょう」

 ホムラとキサイは御霊玄室をシキから受け取り、一度村に戻った。今までの経緯をタカハとワケノに説明し、冥界を生み出すためにしばらく留守にすること、穢れに警戒が必要であることを伝えた。

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