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退職した最強の神様、古代世界で人として暮らす〜狼とゾンビに抗い、村を守るために戦います〜(WEB版/原題:月宮奇譚1 狼と骸の王)  作者: いふや坂えみし
第一章 狼

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第九話 噛まれるのは痛いだろうな。

 サクは狼に囲まれながら、自分の背と木の間にヤネリを(かば)うように体をずらす。右の狼が飛びかかろうと四肢(しし)に力を込めるのが見えた。絶対に敵わないことはわかっている。それでも、ヤネリだけは守らなければならない。

 母からいつもサクはお兄ちゃんなんだから、と言われ反感を覚えることもあった。でもヤネリはいつもサクを信頼している。できることをいつもしてきたから。いまヤネリを守ってあげられるのは自分しかいない。

 この状況で自分に何ができるわけでもない。狼をどうにかできるなんて思えない。それでも、木の棒を振るって右の狼の頭を狙う。

 狼は木の棒に()みつき、頭を振って木の棒を奪おうと暴れる。サクは体を引っ張られているうちに、左側から別の狼が襲いかかる。

「わあああああ!」

 サクは咄嗟(とっさ)貫頭衣(ふく)の帯に差していた小刀を左手で引き抜く。父のサマトが工房で作り護身用に持たせてくれた青銅製のものだ。左から迫る狼の口の中にサクの左手は滑り込み、狼の(のど)を刺した。だが左腕に狼の牙が食い込む。

「いいいぃ……!」

 (うめ)き声が()れる。狼は左腕に噛みついたまま息絶(いきた)えた。しかし、気づけば後ろから別の狼が迫っており、首に噛みつかれる。

 こひゅ、というような息が漏れ、目の前が暗くなる。首が熱い。体は寒い。

「さっちゃん!さっちゃん!はなして!」

 ヤネリが叫んでいる。逃げて、と伝えたいが声の代わりに喉の奥から血が漏れ出す。お父さん、先生、まだかな……。


 ヤネリは狼に抱きついてサクから引き()がそうとするが、狼が体を震わせると地面に投げ出される。ぶつけた(ひじ)(ひざ)が痛くてヤネリの目から涙がぽろぽろと流れるが、起き上がってよたよたと狼に(つか)みかかる。

「さっちゃんを、はなせ」

 狼の後ろ足に()られ、ヤネリの(すね)から血が流れる。痛いけれどいまはそれどころじゃない。

「はな……」

 ぽん、と唐突にヤネリの体が吹き飛び、直後に背中を激しい痛みが襲う。息ができない。

「っ……」

 ヤネリがいたところに大きな狼が(たたず)んでおり、こちらを見下ろしている。サクの喉元(のどもと)に噛みついた狼の口元からたくさんの血が(したた)り、サクが狼の口に力なく(くわ)えられている。

 大きな狼が口を開く。

「今頃、我らの群れはお前の村の者たちを(ほふ)っていることだろう。村の中にいれば、生き残れるものはいない。人の子が一人では生きていけぬ。もう一度だけ問う。お前は、人の子にしては見どころがある。ついてくるなら、群れに加えても良いが、どうする?」

 サクの首から血がたくさん流れている。もう生きていないだろう、とわかってしまった。ナギはお父さんと先生を連れて戻って来るかな。そうしたら、こんな狼すぐにやっつけちゃうのに。ぼく一人では何もできない。でも。

「さっちゃんをかえしてよ。そしたら、ついていってもいい」

 ヤネリは大きな狼の目をまっすぐに見つめた。この狼は、本当はぼくのことを殺したくないんじゃないかな。なぜか、そう思った。狼は、尻尾(しっぽ)を一振りする。

「……もう死んでいる。生き返すことはできない」

 ヤネリの目に映る狼の姿がさらに(にじ)む。

「うん。やっぱりそうだよね」

 ヤネリは目を閉じた。噛まれるのは痛いだろうな。もうできることはなくなってしまったから、せめて自分の血は見たくなかった。


 オオシはその様子を見てやはり群れに加えたいと感じた。この子どもが群れに加われば我が子と友人になれたかもしれない。だが、弱くとも家族を守ろうとする意思の強さに()かれている。この子は決して家族を殺した相手とは相容(あいい)れないのだろう。オオシと同じだ。だから。口を開けて、ヤネリに近づく。せめて一息で殺してやろう。


 顔に生暖(なまあたた)かい何かがかかるのを感じる。狼の(よだれ)だろうか。ヤネリはもう死んでしまうのだとぼんやり受け入れた。

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