目を瞑ると見えるもの
「なんかなぁ・・・」
ベッドに寝転がって、目を閉じていた先輩が突然言い出した。
寝てるのかと思ってそっとしておいたけど、そうじゃなかったみたい。
「どうしたんですか?」
ベッドの横に座って、聞いてみた。
「あのさ、目を瞑れば、自分の理想の姿っていくらでも想像できるじゃん?
でも、目を開けば現実が待ってるのって、なんかヘコまない?」
「それちょっと分かりますよ・・・」
「だろぉ?」
溜息をつくように答えた先輩は、なんかいつもと違う。
「でも・・・私は今の先輩が理想です・・・よ・・・?」
勇気を出して言ってみる。
だって本当だし。
「・・・おい」
「はい?」
ちょっと声上擦っちゃった。
「目、瞑って」
言われた通りに、目を瞑った。
なんか気を悪くさせたかなー、とビクビク。
でも次の瞬間、柔らかいものが唇に触れた。
ちゅ、と軽い音をたてて離れた時、やっとそれがキスだって分かった。
驚いて目を開くと、先輩の笑顔。
「ありがとな。で、何が見えた?」
放心状態だった私は、
「・・・なんにも見えなかった・・・」
なんて答えて。
「素直過ぎだろお前・・・」
って先輩に呆れられた。
でも、私にとって先輩は、現実だけでいいんだ。
だって、それだけが本物なんだから。
end.