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ある集落の秘密

作者: 口羽龍

 ここは石平いしだいら。山間の消滅集落だ。石平の集落ができたのは、江戸時代の頃、落ち武者たちがここに集落を形成したのが始まりだという。山の斜面に形成されていて、険しい場所にある。人口は決して多くはないものの、明治時代には小学校ができ、多くの子供たちが学んだ。最盛期には数百人の生徒がいたという。石平の主要産業は緑茶で、ここで採れた緑茶はとてもおいしかったという。だが、そんな石平は、高度経済成長期になると、若い者が次々と集落を出ていき、高齢者ばかりになった。険しい場所にあり、生活が豊かではないので、人々は豊かさを求めて都会へ移り住んだのが原因だ。そしてある年の夏、土砂崩れが起こって、集落の人々がみんな亡くなった。そして、この集落は消滅集落となった。


 そんな集落への道を、1台の軽自動車が走っていた。この車を運転している七紀ななきは東京の会社員。消滅集落を巡るのが趣味だ。今回も、休日を利用して、消滅集落にやって来た。


 しばらく走っていると、斜面に集落らしき跡が見えた。ここが石平だ。


「ここか・・・」


 石平の跡を見て、七紀は興奮した。かつてはここに集落があり、人々の営みがあった。険しい場所だったけれど、とてもいい場所だったんだろうな。


「かつてここに集落があった。すごいな」


 七紀は石平の入口で車を停め、辺りを見渡した。ホームページにあった通りだ。斜面に集落の跡がある。とても素晴らしい光景だな。この集落が全盛期の頃は、どれぐらいの民家があったんだろう。全く想像できないけれど、もっと多くの民家があったんだろうな。


「かつてはここに何百人もの生活があった」


 かつては何百人もの人々が住んでいた。彼らは厳しい環境の中で、一生懸命生き、この集落に住み続けていた。今住んでいる東京とは違い、ここは生活が厳しかったんだろうな。だけど、自然が豊かという点がある。


「もうここに人は戻ってこない・・・」


 石平はとても静かだ。もうここに人は住んでいない。ある日、土砂崩れによってここの集落は消滅集落になった。突然、みんな死んだと聞いて、みんな驚いただろうな。


「どんな日々だったんだろうか? とても栄えてたんだろうな・・・」


 しばらく歩いていると、レールらしきものが見える。急な斜面を上り下りするためにあった、モノレールだろうか? 座席のある車両もある。これは住民を乗せるためにあると思われる。こんなモノレールがあったんだな。


「これは、モノレール!」


 七紀はレールの先を見上げた。とても急な斜面が広がっている。その先にも畑があるようだ。このモノレールは、そんな斜面の上り下りのために使われたんだろう。


「斜面を行き来するのに使ってたんだな」


 だが、そのモノレールはすっかり朽ち果て、もう動かない。レールは老朽化し、所々で柱が崩れたり、レールが途切れている部分がある。もう何年も使われていないようだ。


「もう動かない・・・」


 もう動かないんだなと思うと、七紀は寂しくなった。その頃のモノレールに乗ってみたいな。きっと素晴らしい風景が見られたんだろうな。


「大変な日々だったけど、とても素晴らしかったんだろうな」


 少し眠たくなってきた。ここまでの道のりが大変だったので、疲れたんだろう。七紀は車に戻ってきた。


「ちょっと寝よう」


 七紀は車の座席を倒し、ベッドのようにした。そして、寝入った。


 七紀は寒気で目を覚ました。今日はこんなに寒くなる予報だったかな? 今は夏だ。そんなに寒くならないはずなのに。


「あれっ、ここは石平だよね」


 七紀は窓の外からの風景を見た。そこには石平がある。だが、民家が若干多いし、廃墟となっている集落がしっかりと建っている。昔の石平のようだ。


 七紀は外に出た。外に出ると、そこは大雨だ。


「ものすごい雨!」


 七紀は夢だとわかっている。でも、どうしてそんな夢を見ているんだろうか?


「でもどうしてこんな日にいる夢を見てるんだろう」


 と、山の方から音がした。何だろう。七紀は山の方を見た。だが、何もない。


「えっ、何だあれ」


 七紀は首をかしげた。と、七紀はある事を思い出した。この集落が消滅するきっかけになった土砂崩れだ。ひょっとして、土砂崩れの音だろうか?


「土砂崩れ?」


 程なく亭、土砂崩れが襲い掛かってきた。まさか、土砂崩れが襲い掛かってくる夢だろうか?


「うわぁぁぁぁぁぁ!」


 七紀は目を覚ました。夕方の石平だ。相変わらず静かな場所だ。


「ハッ・・・、夢か・・・」


 どうやら夢だったようだ。ひょっとして、土砂崩れで集落が消滅する夢でも見たんだろうか? 妙にリアルだったな。


「もしかして、土砂崩れで集落が消滅した夢を見た?」


 七紀はいったん外に出て、背伸びをした。と、七紀は足元に寒気を感じた。


「冷たい!」


 七紀は足元を見た。すると、びしょ濡れになっている。雨が降った形跡がないのに、どうしてびしょ濡れなんだろうか?


「えっ・・・」


 まさか、夢で見たあの光景の水がそのまま付いてる? そう思うと、七紀はゾクッとなった。


 だが、七紀は全く気にせず、集落を後にした。早く家に帰らないと、親が心配するだろう。もうこの集落に来ることはないだろう。あんな夢を見るのはもうごめんだ。


 七紀は全く気づいていなかった。後ろの席にびしょ濡れの老人が乗っている事を。


 それ以後、七紀の車を見た人はいないという。

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