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崩れゆく現実と邪神の目覚め

儀式の失敗から数日が過ぎた。しかし、陽介にとってはそれが数日なのか、数週間なのか、もはや判断がつかなくなっていた。時間の流れが完全に歪み、昼と夜の区別さえも曖昧になっていた。空には常に奇妙な色の渦が巻いており、それは刻一刻と大きくなっているように見えた。


村全体が異様な雰囲気に包まれ、村人たちの様子も日に日に変化していった。彼らの目は空虚になり、皮膚は蒼白となり、中には体の一部が変形し始める者も現れた。陽介は恐怖と同時に、自分自身の変化にも気づき始めていた。


鏡を見るたびに、彼の目の色が少しずつ変わっていくのがわかった。そして、時折、自分の影が別の形に見えることがあった。しかし、不思議なことに、これらの変化に対する恐怖心は薄れつつあった。代わりに、何か新しいものへの期待感のようなものが芽生えていた。


ある日、陽介は村の中心にある祠を訪れた。そこで彼は、古びた巻物を発見する。巻物には、村の禁忌の儀式の詳細な手順と、その真の目的が記されていた。それを読み進めるうちに、陽介は衝撃的な事実に直面した。


この村で行われていた儀式は、邪神を封印するためのものではなく、むしろ目覚めさせるためのものだったのだ。そして、その目的は現実世界と異界との境界を曖昧にし、最終的には両者を融合させることだった。


陽介は震える手で巻物を握りしめた。彼の中で、恐怖と興奮が入り混じった感情が渦巻いていた。そして、自分がこの儀式の重要な一部であることを悟った。彼は「外の世界」からやってきた者として、この融合のための触媒の役割を果たすはずだったのだ。


その夜、陽介は再び悪夢に襲われた。夢の中で彼は、無限に広がる宇宙空間を漂っていた。周囲には、理解を超えた巨大な存在たちが浮かんでいる。それらは、人間の想像を遥かに超えた姿をしており、その一瞥だけで陽介の精神は崩壊寸前だった。


しかし、同時に彼はそれらの存在から何かを学んでいるような感覚があった。彼の脳裏に、この世界の真理とも呼べる知識が流れ込んでくる。それは人類がこれまで築き上げてきた科学や哲学を根底から覆すようなものだった。


目覚めた陽介は、全身が冷や汗で濡れていることに気づいた。しかし、恐怖よりもむしろ、新たな理解への高揚感を覚えていた。彼は急いでノートを取り出し、夢で得た知識を書き留め始めた。その内容は、通常の物理法則を超越した概念や、時空を自在に操る方法、さらには現実そのものを再構築する技術に関するものだった。


陽介はその知識を理解しようと必死になった。それは彼の理性の限界を超えるものだったが、同時に彼の精神は少しずつその理解に近づいていった。そして、彼は自分の体と精神が、人間の領域を超えつつあることを実感した。


数日後、陽介は再びサエを訪ねた。サエの姿も大きく変わっていた。その目は常人離れした輝きを放ち、皮膚の下では何かが蠢いているように見えた。


「サエさん、私はようやく理解しました。この儀式の真の目的を。」陽介は静かに言った。


サエはうなずいた。「そうじゃ。我々は長年、この時を待ち望んでいた。そして、お前がその鍵となる存在じゃ。」


「でも、なぜ私なのですか?」


「お前の祖父も、かつてはその役割を果たすはずだった。しかし、彼は最後の瞬間に怖じ気づき、逃げ出してしまった。だが、お前は違う。お前の中には、その資質が眠っていたのじゃ。」


陽介は自分の手を見つめた。その指先から、かすかに光のような何かが漏れ出ていた。「これから、どうなるのでしょうか。」


「最後の儀式を行わねばならん。それによって、この世界と向こう側の世界が完全に融合する。そして、新たな秩序が生まれるのじゃ。」サエの声には、狂気とも信念ともつかない響きがあった。


その夜、村全体が最後の儀式の準備に沸いた。村人たちは黒い衣装に身を包み、異様な雰囲気を醸し出していた。陽介も、いつの間にか同じ衣装を着ていた。


儀式が始まると、村の中心に巨大な渦が形成され始めた。それは空に渦巻く異様な色と呼応するかのように、地上でも渦を巻いていた。村人たちは、その周りで奇妙な踊りを踊り始めた。


陽介は渦の中心に立ち、両手を広げた。彼の体から、異様な光が放たれ始める。彼は自分の体が、この世界と異界をつなぐ通路になっていくのを感じた。それは恐ろしくもあり、同時に至福のような感覚でもあった。


渦は次第に大きくなり、村全体を飲み込み始めた。空からは、得体の知れない存在たちが降り立ち始める。それらの姿は、人間の目で直視できるようなものではなかった。


陽介の意識は、徐々に拡大していった。彼は村全体を、そして周囲の山々を、さらには地球全体を俯瞰で見ることができるようになった。そして、彼は気づいた。この現象は村だけにとどまらず、地球全体に影響を及ぼし始めているのだと。


世界各地で、同様の異変が起き始めていた。人々は空に現れた奇妙な色の渦を恐れ、パニックに陥っていた。科学者たちは、この現象を説明しようと必死になっていたが、従来の物理法則では全く説明がつかなかった。


陽介の意識は、さらに宇宙まで拡大していった。彼は、地球が宇宙の中でいかに小さな存在であるかを痛感した。そして、人類が長年恐れてきた「宇宙の恐怖」が、実は宇宙の真の姿のほんの一部に過ぎないことを理解した。


彼の目の前には、無限の可能性を秘めた新たな世界が広がっていた。それは、人類がこれまで想像もしなかったような世界だった。そこでは、時間と空間の概念が完全に覆され、生と死の境界さえも曖昧になっていた。


しかし、同時に陽介は恐ろしい事実にも直面した。この融合により、多くの「旧世界」の存在が消滅してしまうことを。彼の愛する人々、彼が慣れ親しんだ風景、そして人類が築き上げてきた文明の全て。それらは新たな秩序の中で、完全に姿を変えてしまうか、あるいは消滅してしまうのだ。


一瞬、陽介の中に躊躇いが生まれた。このまま進めていいのだろうか。自分には、この過程を止める力があるのではないか。しかし、その思いは次第に薄れていった。彼の意識は、もはや人間のそれではなくなりつつあった。


渦は更に大きくなり、村全体を飲み込んだ。陽介の体は、光の柱となって空へと伸びていった。彼は自分の肉体が溶解していくのを感じたが、もはや恐怖はなかった。


そして、最後の瞬間が訪れた。陽介の意識は、完全に拡散し、新たな世界の一部となった。彼は全てであり、同時に何者でもなくなった。


世界は、大きく変容し始めた。人々の目の前で、現実が歪み、崩壊し、そして再構築されていく。新たな秩序が生まれ、古い世界の痕跡は徐々に消えていった。


そして、「黄昏の裂け目」を通じて、かつて人類が想像もしなかったような存在たちが、この世界に降り立ち始めたのだった。

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