表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/163

99 グレンさんのご両親


 下宿に戻ったら、二人でゆっくり過ごす。

 そう思って、帰ったのだけれど。


「あらあらまあまあ、可愛いわねえ。この子が私の娘になってくれたの? ちょっとグレン、なんてこと! あんたとこの子じゃ、えらい絵面だわ。可愛い子を拐かしてきたみたいじゃないの! でもいいわあ、ちょっとちょっと、小柄だって聞いて小さめの服も持ってきたのだけれど、着てみてくれないかしら。うちは男ばかりになったから、女の子が欲しかったのよねえ」


 初対面の挨拶もそこそこ、圧倒的な口数に、口を挟む隙もない。




 噂に聞いた、グレンさんのお母さんだった。

 ご両親は騎獣を駆けさせて、ずいぶん早く到着されたようだ。


 お義父様はグレンさんに似た印象だけど。

 さらにお義母様も凜々しい印象の、活動的な人らしい。

 きりっとした系の美人さんだ。


 先ほどこちらに着いて、ティアニアさんたちと夕食を一緒に食べていた。


 ちなみにお義父さんは「グレンの父だ。よろし」に、奥さんが言葉を被せて以降、話せていない。

 うん。よろしくお願いしますね。




「ご家族は別の世界にいらっしゃるのよねえ。つまりこちらの世界の両親が、私たち! 何でも言ってねえ。娘のいる人が、一緒にお料理して楽しいとか、お洋服を一緒に選ぶんだとか、自慢してきていたのよ。うちの息子たちも料理はするけど、息子と一緒に料理しても、むさ苦しいだけじゃない。大きくて嵩張るし。やっぱり女の子、いいわあ。お料理が好きって聞いてるの。明日は一緒にお料理しましょうね。私の故郷の煮込み料理とか、興味あるかしら。あ、でも異世界のお料理も気になるわあ。お互いに教え合いっこしましょうね。あら、そういえばお名前は?」


 グレンさんのお母さんのすごいところは、早口でこちらが口を挟む隙がないのに、話は意外と聞き取れることだ。

 音量か、声の響きか、言葉の合間のちょっとした区切り方か。

 いずれにせよ聞き取りやすい。


 そして聞き取りやすいからこそ、一方的に話を聞くことになる。

 質問をしなくても、理解ができる言い方なので。


 うん。なるほど。こういうことか。




 ちなみに名前を答えたら、またお母さんのおしゃべりがすぐに続いた。

 お母さんの計画では、まずは明日の朝、私と過ごして話を聞く。

 昼間はお城などにも行き、聖女が置かれている状況を調べる。


 状況把握をしたら、早々に帰るそうだ。

 日をかけて来られたのに、滞在は短いらしい。


 ダンジョン行きも、ご両親が帰るタイミングに合わせて行くことになる。


 おおう、一方的に決まる予定。

 そして私の話を聞くというのは、話す隙を作ってくれるのだろうか。

 今のコレでは、ちょっと疑問だ。




 食事を終えた今、次はお風呂だから一緒に行こうと誘われた。


 もちろんお風呂への行き道も、おしゃべりは続き。

 お風呂の中でも、他の奥様方とおしゃべりが続く。


 でも奥様方とのおしゃべりは、口数が多いものの、ちゃんと話を聞いていた。


 なるほど。そうだよね。

 大使の奥様として、そういうさじ加減は出来るはずだよね。

 でも、おしゃべりが好き、という雰囲気はすごくある。


 なんというか、おしゃべりを心から楽しんでいる様子なんだ。

 相手の話を聞くときも、ニコニコして聞いている。

 話す方も、ついうっかり話してしまう雰囲気がある。




 特に洗い場と更衣室では、口数の多さがすごいことになっていた。


「あら何この石鹸! すごく泡立つし、肌触りもいいわ。匂いもいい! 何コレ、どうしたの。え、作ったの? 異世界の石鹸? あらあら何てこと、すごいじゃない! いいわあ、これいいわあ、ねえ購入して帰れるかしら。竜人の里の皆も欲しがりそうなの。出来ればお土産に持ち帰りたいわ。あ、手紙を送る魔道具で、石鹸程度なら送れるわよね。あとからそれで取引なんて出来ないかしら。だってすごいわ、大発明よ!」


「何コレ何コレ、お肌がしっとりするわ! え、香油じゃないわよね。ちょっと、何この付け心地。ベタベタしないのに、お肌にいい感じがする。たっぷりつけてもいいの? あ、この上に香油をつけるの? へえ、お肌に潤いを入れるのがこっちで、潤いを逃がさないのが香油なの。まあまあまあ、すごいじゃない! そうなのよ、香油だと実際の肌の感触は良くならないの。つけたら誤魔化せるけど、あら、これはそれが改善できるのね。まあまあ、すごいわねえ!」


 マリアさんの作った石鹸や化粧水が、とにかく絶賛だった。

 口数の多い絶賛に、マリアさんはちょっと身を引きながらも、嬉しそうだ。


 石鹸は劇薬を使うので、制作の委託が難しい。

 化粧水の委託とあわせて、商業ギルドと相談中だとマリアさんが説明している。


 勢いに押されて、なるべく多く作って渡せるようにすることを、約束させられていた。




 もちろん帰り道もおしゃべりだ。

 でも私としては、興味深い話をたくさん聞けた。


 グレンさんは四男。

 上が三人とも男の子なので、女の子が欲しかったのに男の子だった。

 でもまあ、子供の頃は小さくて可愛かったという。

 あるときから、ぐんぐん背が伸びて、今のグレンさんになっていったそうだ。


 長男さんが竜人族。番を見つけて、竜人の里でラブラブ生活中。


 次男さんと三男さんは人族だったので、独立された。

 三男さんは手紙で結婚を知らせて来たことがあり、次男さんも生活拠点を定めたときに、やはり手紙が来た。

 仲良し家族だったようだ。




 竜人自治区で次男さんと三男さんの子育て中に、グレンさんが生まれた。

 大人になっていた長男さんも、番探しでこちらにいたので、四人兄弟の末っ子として、グレンさんは育った。


 そしてあの呪いのような、強くならなければという意思のもと、無茶をした。

 初めてのダンジョンは、皆がハラハラして、お父さんと長男さんがこっそりついて行き、見守ったそうだ。


 初めておつかいに行く子供を見守る番組を思い出したのは、内緒だ。




 グレンさんのお母さんは、きりっとした系の美人さん。

 実はグレンさん、お母さん似だった。

 目元はお父さん似だけれど、他のパーツはお母さんに似ている気がする。


 子供の頃は可愛かったと言われ、なるほどと頷いた。

 その頃のグレンさん、見てみたかった。


 初めてのダンジョンは、まだ体が出来上がる前の、細身だった頃のグレンさん。

 それは心配になるだろう。


 でも戦闘センスはあったみたいで、見守る父と兄が手を出すことなく、無事に帰ったそうだ。




 先代竜王の記憶が潜在的に影響して、強くならなければと焦る状況だったことには、切なくなる。

 でも子供の頃の頑張るグレンさん、正直見たかった!

 まだ子供の華奢なグレンさん、ちょっと想像が出来ないけれど。


 私がウズウズしているのを見てとったのだろうお母様は、こう言った。


「あら、グレンの子供を産めば、あの子に似たところはきっとあるわ。私も長男を育てたとき、うちの旦那の子供の頃って、こうだったんじゃないかと思ったもの。あのゴツい人に、可愛い子供時代があったなんて、今は想像がつかないけどね。長男やグレンの成長を見ていたら、黒竜族の男ってこう育つのねって、思ったわ。ああ、孫って楽しみね! 長男のところもまだだし、今は待つ楽しみ中なの。ミナちゃんも、まだまだ先の話よね。まあ夫婦仲が良ければ、それが一番だわ」


 適度な息継ぎもしながら、楽しそうに話すお母様。

 話し相手の、私の反応を見て次の話題になるあたり、さすが先代大使夫人。


 たぶん子供を産む話題で私が嫌がったら、さくっと別の話題に流したのだろう。

 まだ生まれていない孫の話題は、デリケートと聞くからね。


 一方的に話しているようで、私の反応はしっかり見られているみたいだ。

 私が言葉を挟みたくなったら、ちゃんと止まって待ってくれる。


 ただ、挟む言葉を思い浮かべる間がないまま、話題が流れていることも多いけど。




 お風呂の中で、奥様方から情報収集をするときは、話題を向けてから、相手が話しやすい雰囲気を作っていた。

 そういう情報収集がさらっと出来るお義母様、ちょっとすごい。


 だから今、私が口を挟む隙がないようなおしゃべりは、気を抜いてのことだろう。

 身内として接してくれている感じが、私としては嬉しい。

 家族として迎え入れてくれたんだなと思える。




 下宿に帰ると、居間でお父さんと過ごすグレンさんがいた。

 二人ともお風呂を終えたあと、ここで私たちを待ってくれていたみたいだ。


 行きも帰りも更衣室もお風呂の中も、おしゃべりをしていた私たち。

 行動がかなり遅かったと思うので、もしかするとかなり待たせたかも知れない。


 静かな雰囲気だけど、言葉がなくても居心地は良さそうだ。

 義父とはほとんど話していないので、実はまだよくわからない。

 でもグレンさんと似た雰囲気を感じる。


 こちらを見て、少し口元をほころばせるところも、似ている。




 この下宿には客間もあるそうで、義父母はそちらに泊まることになる。

 シエルさんが竜人自治区に住むことになった日も、部屋を整えるには時間が足りなかったので、初日は客間に泊まっていた。


 おやすみなさいの挨拶をして、私たちが居間を立ち去ろうとすると。

「そういえばあなたたち、番の儀は終わったけど、一緒に寝るの?」


 ちょっとニマニマ気味のお義母様から言葉が飛んで来た。

 お義父様がその袖を引っ張っているけれど、気にした様子がない。


「ああ。一緒に寝る」

 あっさりグレンさんが答えて。

「あらあらあらあら、仲良しね!」

 楽しそうにお義母様は答えていた。


 うん。仲良し親子だ。


手紙を送る魔道具について、疑問を持たれているかもなので、こちらで補足。

竜人たちと、商業ギルドや冒険者ギルドは、魔道具を大いに活用しております。

セラム様の国は、魔法石をそれなりに使うので、常時利用はしていません。

国としてかなり急ぐ連絡が必要なときに、活用している状態です。


最初に召喚された国は、王妃様のご不満のとおり、魔法も魔道具も技術を取り込むのが遅れていたのと、各ギルドと国が友好的でもないので、その魔道具の利用は、ありませんでした。

あちらの国は、かなり色々と時代遅れだと思って下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ