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 これまでの話を聞いて、私はひとつ疑問に思った。

「エルフが精霊魔法を使えるというのは、どういうものなのでしょう」


 精霊王の眷属が精霊。

 ではエルフとは、どういう存在なのか。


 エルフは『精霊魔法が使える』ことを、誇りにしていると聞いた。

 そもそもなぜエルフは、精霊王の眷属の精霊たちを従えているのか。

 そう思ったけれど、精霊魔法は精霊を使役するわけではないそうだ。


「エルフは魔力の塊である精霊を感知できる。感知できるから、エネルギー体として活用できる」


 ただ、精霊の存在を感じ取れるから、活用できるだけ。

 魔力の塊だから、感知できれば魔力エネルギーとして使えるけれど。

 そうした使い方は、エルフの間では基本的に邪道とされているそうだ。


 たとえば、虫のいるところに灯りを出せば、虫はそこに群がる。

 エルフの精霊魔法は、そういった精霊の特性を活用するものらしい。




 精霊は循環を司るので、魔力で育つ植物に宿ったり、魔力の塊を散らして運ぶ。

 その特性を利用して、育てたい植物に精霊を向かわせたり。

 魔力の塊を散らせることを活用して、相手の魔法を弱くする。


 それがエルフの精霊魔法だという。

 なのでエルフは、精霊魔法が使えることを誇りにするけど、普通の魔法ももちろん使う。

 なぜなら普通の魔法の方が、圧倒的に使い勝手がいいからだ。


 でも植物の育成などを、自分の魔力ですることを、彼らはバカにするという。

 自分の魔力を使わず、精霊魔法でそれを出来ることが、彼らのステータスらしい。


 ちょっとよくわからない。

 使い勝手が悪くても、ブランド製品はそれだけでステータスになるみたいなものだろうか。

 そういったものに縁がなかったので、よくわからないけれど。




 実はグレンさんもザイルさんも、エルフのその特性は、理解できないそうだ。

 そして知り合いのエルフは、セラム様の護衛にいるエルフくらい。

 彼らはエルフとしては、変わり者だという。


 ともかく、私も精霊を感知しようとすれば出来る。

 なので精霊魔法は使えるはずという話だ。

 ただし、使い勝手は圧倒的に普通の魔法の方が、いいそうだ。

 うん。使いどころがわからないね!


 歴代聖女は、精霊魔法を使わなかった。

 精霊魔法を使えることも知らなかったし、使いたいとも思わなかった。


 なのでエルフの中では、聖女も精霊魔法を使うという伝承は廃れてしまった。

 まして彼らは、精霊王の存在を知らない。


 原初の時代は、意思疎通が出来る精霊を通して、エルフも聖女を助ける役目を持っていたそうだ。

 でも今となっては、エルフたちは知らないことみたいだ。




 さてさて、疑問があらかた解消したところで。

 私もグレンさんが不在だった間の報告をした。


 保存食業者の、ドランさんたちと会ったこと。

 障害者雇用施設の運営という、社会活動をしているので、私も支援したいこと。


 シェーラちゃんと、そのお友達のセシリアちゃんのこと。

 ソランさんのパン屋開店について。


 ダンジョン装備のブーツや、装備について。

 マリアさんが、ソルさんに弟子入りしたこと。


 そして何より、王妃様にもらった腕輪の話だ。

 さっきザイルさんが心配した対策が、盛り込まれていることを説明した。




「その効果は、有り難いな。オレのこの魔道具を、カバーしてくれる」

 私と同じ感想だ。


「そうか。聖女の魔力を封じられても、大丈夫なのか」

「特定の魔力を封じる呪術の、対策になっているそうです」

「魔力を変質させて活用できるというのは、すごいな」


 グレンさんは、腕輪をはめた私の腕を優しく撫でる。

「ミナの守りが増えるのは、いいことだ」

 優しく目を細めて言ってくれるから、ちょっと照れてしまった。


 あと夜会に呼ばれるかも知れないと言われたことも、報告した。

「そのときは、オレも傍にいる」

 すかさずグレンさんが言ってくれたことが、嬉しい。


 うん。グレンさんがいてくれるのなら、大丈夫だ。




 さて帰ろうかという雰囲気になったとき、ザイルさんからグレンさんに、留守中の連絡事項があった。

「先代がこちらに来られるそうだ」


 何の先代かというと、ザイルさんがしている竜人族の大使の、先代らしい。

 それを聞いて、グレンさんがちょっと動きを止めた。

 珍しいなと思い、グレンさんの袖を引っ張ってみると。


「ああ。先代大使は、オレの両親だ」


 なんと、ザイルさん夫婦がテオ君をこちらで育てるために来るまでは、グレンさんのご両親が竜人自治区の代表で、大使夫妻だったそうだ。

 なんということでしょう。義父母と会うことになりそうだ。


「何のために来るのか聞いているか」

「ミナの状況を知るためだな。状況を確認して、神殿本部にも、物申すことになりそうだと」




 ザイルさんとグレンさんの会話を聞いていて、おおよそわかったのは。

 商業ギルド長が教えてくれたように、神殿本部のあたりは、聖スキル者を強引に、神殿所属にしていないという話だ。


 神殿本部にはそういった意思はない。

 なのに、このあたりの神殿は、強引な行動をしている。


 そして今回、聖女まで神殿に所属すべきだと、強引な手段に出た。

 ザイルさんはそういったことを、竜人の里に伝えていた。


 竜人族は、神殿本部とは繋がりがあるそうだ。

 気持ちとしては、聖スキル者の管理についても物申したかったけれど、竜人族そのものへの手出しではなかった。

 なので今まで対処が出来なかった。


 でも今回、グレンさんの番である、聖女に手出しをして来た。

 竜人族として対処すべきという方針が、竜人の里で話し合われたそうだ。

 その対処のために、グレンさんのご両親が来られるのだ。




 なんということでしょう。

 舅と姑さんと、初対面の予定が出来てしまった。

 もうグレンさんとは夫婦なのだから、是非とも好印象を残さなければ。


 これは何か美味しいもので歓待するべきか。

 ショートケーキとか作ってしまうべきか。


 いや、グレンさんは餡子が好きと言ってくれたから、練り切りとか作っちゃう?

 白餡と黒餡で、別の色の薄皮で透かして模様をつけて。

 今の私に出来る最高傑作に挑戦するべきだろうか。


 粉末だしもあるし、お料理も色々と挑戦出来そうだ。

 こちらの野菜の色と食感を利用して、見た目もこだわった煮物とか作っちゃう?




 私は歓待の方法に頭が飛んでいたけれど。

 グレンさんはちょっと、困った顔になっていた。


 そのことにようやく気づいて、首を傾げた。

「何に困ってるんですか?」

「困っているわけではない。ただ、うちの両親がミナを困らせないか心配だ」


 うん。どういうご両親なんだろうか。

 ザイルさんは笑っているので、深刻な話ではないだろう。


「特に母が。とてもおしゃべりな人だから」

「ああ。あの方は、ひとりでしゃべっている。それでグレンが寡黙になったのではないかと言われるほどだ」


 なんと。家の中ではお母さんが圧倒的に話すので、グレンさんとお父さんは、口数が少ないらしい。

 それはまあ、でも、特に困りそうでもないかな。




 こちらに向かわれたのは、番の儀の翌朝だという。

 ザイルさんが、番の儀を今夜すると報告をして。

 それを受け取った竜人の里で、グレンさんの番になった私をどう保護するかという話になったそうだ。


 うちの義娘になった子だから、私たちが対処する。

 何なら神殿とやり合う!

 そんな意気込みで出立されたらしい。


 うちの義娘と言ってくださっているそうなので、お会いするのが楽しみだ。

 うん。ここはやっぱり、私に出来る精一杯の歓待をしよう。




 竜人の里から二日ほどの距離に、転移魔方陣があるそうだ。

 そこから私たちがこの国に来たときの、リオールに転移する。


 合計五日か六日ほどで着く行程。

 ザイルさんの見立てでは、明後日に着く予定だという。


「あの人たちは、馬車ではなく騎獣を飛ばして来る。明日には着くのではないか。いや、むしろ…」

 グレンさんが珍しくも、言葉を濁している。


 まあ、つまり明日か明後日には、義父母に会うことになりそうだ。


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