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 魔装具士ソルさんの工房は、バルコさんの工房の近くだった。

 ラナさんの家具屋さんも近い場所だ。

 素材倉庫の近くでもあるので、工房関係はこの付近に集まっているのだろう。


 クマを抱えて中に入れば、立派なヒゲの人がいた。

 おお、なんだか間近にここまで立派なヒゲの人って、久々に見た気がする。

 そう思っていると。


「なんだ、またそんなヒゲつけて!」

 ヘッグさんが、ソルさんのヒゲをいきなり毟った。

 そしてヒゲが取れた。え?




「つけヒゲだよ。竜人族は人族みたいにヒゲは生えないからな」


 またも初めて知った新事実。

 え、竜人族の人って、ヒゲが生えないの?

 確かに竜人自治区ではヒゲの人を見ていないけれど。


 一昨日会ったドランさんとかは、もじゃっとした髭が生えていた。

 でも竜人自治区で顔を合わせる人たちで、ヒゲが生えている人は見かけなかった。


 ザイルさんやガイさんは、きっちりヒゲとか剃っていそうなイメージだけど。

 ヘッグさんとか、無精髭とかの時間帯がありそうなのに、つるつるだ。


 そうか。グレンさんは年齢を重ねて渋くなっても、ヒゲは生えないのか。

 ヒゲにこだわりはないけれど、ちょっと新事実だ。


 ああー、でもそうか。そういう違いって、確かにありそうだよね。

 ヒゲの有無なんてあまり気にしない些細なことだけど、人族との違いって、寿命や硬化能力以外にも、そういった小さな違いはありそうだ。


 今まで考えたことがなかった新事実は、改めて新鮮だった。




 ソルさんは、ヒゲが似合うと言われるのに生えないので、付けヒゲコレクションを持っているそうだ。

 日によって色んなヒゲをつけるのが、楽しみだという。


 今日はとっておきのヒゲだったのにと、毟ったヘッグさんに文句を言っていた。

 人族の聖女たちが来ると聞いて、秘蔵のヒゲで迎えようとしたらしい。

 意外とお茶目そうな人だった。


 まあ、ファッションのヒゲもアリだよね。

 それに魔装具士らしく、ヒゲに効果を持たせているという。


「このヒゲは風魔法の補助効果があってな。掃除のときに付けている。このヒゲは周囲に気づかれにくくなる」

 うん。面白い人だ。

 マリアさんが、ちょっと引いているけれども。




 さて、初対面なので、ヘッグさんを介して紹介してもらってのご挨拶だ。

「まずミナだな。グレンの番で、聖女だ。グレンがダンジョンに連れて行く予定で、準備を頼まれた」

「よろしくお願いします」

 クマを抱えて頭を下げる。


 ソルさんは、ヒゲがあってもなくても、四角い系のゴツイ顔立ちの人だ。

 でも笑顔は目尻が優しく下がる。

「ソルだ。よろしくな。精一杯の装備を作らせてもらう」


 親しみのある笑顔で、親戚のおじさんのように頭を撫でられた。

 うん。子供扱いですね。

 クマか。クマが悪いのか。


「あの、グレンさんと番の儀のあとで、グレンさんの魔力が入っているんです」

「そうかそうか、番の儀を無事に終えたのだな。偉いなあ」


 理由を申告しても、子供扱いは変わらなかった。

 若返ったのと、日本人が幼く見られる現象のダブル効果なようだ。


 シエルさんとマリアさんとは、普通に大人の挨拶を交わしている。

 どういうことでしょうか。




「その髪飾りも、無事に番へ贈れたんだなあ」

 私の頭を見て、嬉しそうにしている。

 あれ、もしかして。


「このグレンさんからもらった髪飾りって」

「オレがグレンからの発注で作った。メインの魔宝石は、グレンが時間をかけて、魔力を込めたものだがな」


 なんと、この髪飾りを作った人らしい。

 物騒な威力はともかく、この可愛らしいデザインをした人なら、今回の装備も俄然期待が出来る。


 でもひとつ、確認がしたい。

「悪意を感じると攻撃魔法が出るって聞いているのですが、どのくらいの悪意で、発動するのでしょうか」

 それが一番気になっていた。




 ソルさんは、安心しろと優しく頷いて、説明してくれた。

「悪意というより、害意だな。怒っていたり、正当に抗議しようと思っているような相手には発動せん」

 なるほど。そこは安心設計なようだ。


「ただ害する意思がある場合、害意がそれなりにあれば、発動する」


 それなりが、どれほどかは、ソルさん本人もわからないそうだ。

 うん。やはり危険な魔道具っぽい気がしてきた。


 つまり故意に傷つけようとして来た人は、害意判定される。




「頭の上から攻撃魔法が出るのって、ちょっと怖そうなんですけど」

 そう伝えると、目を逸らされた。


 ちょっと、ええー。まさか考えてなかったの?

 私が固まっていると、ソルさんは両手を振って、言い訳を口にした。


「最初はネックレスと注文されて、胸元から攻撃魔法は怖いだろうと話して、髪飾りにしたんだ。胸元からよりマシだろう?」

 いえ、頭の上からでも怖いと思うんですけど。


「それに聖女の結界魔法で身を守っている間は、発動しないから。あくまでも結界が切れた非常事態用だ」

 そう説明されて、なるほどと頷いた。


 結界が切れるような状況で、害意を持つ存在が傍にいるって、かなり不穏だ。

 頭の上からという怖さはあるけれど、身を守る結界や攻撃魔法は、確かに必要なのだろう。


 ソルさんが言うには、胸や手だと、姿勢によっては攻撃魔法を発動させられない。

 頭だったら体の端なので、いつも身につける場所として最適なのだそうだ。

 まあ、言わんとすることは、わかる。


 ちょっと納得いかない点もあるけれども、飲み込んだ。




 マリアさんは、同じ魔装具士としてソルさんの教えを受けたがっていると、ヘッグさんから説明があった。

「よろしくお願い致します」

 マリアさんも丁寧に頭を下げる。


「そうか、魔装具士か。しかも聖女の同郷で、賢者のお連れさん。うん、オレに出来ることなら、させてもらおう」

 何やら色々と、言葉を並べていたけれど。

 すぐに引き受けてもらえて、マリアさんがほっとした顔をする。


「そうだな。付与魔法そのものは、使ったことがあるか?」

「この国に来るときに、馬車に浮力を付けました。イメージして魔力に任せて発現させた、という感じかしら」

「なるほど。一時的な効果として、魔力を突っ込んで浮力という付与をつけたか」


 ソルさんからすれば、それは付与魔法の初歩の初歩だという。

「魔装具士としての付与はな、狙った効果を出せる、魔力を帯びた素材を使って、長期に渡って効果が出る付与をするんだ。素材を介さないまま魔力だけで付与するのは、一時的な魔法効果だ」




 なるほど。あのときのマリアさんの付与魔法は、時間経過で効果が落ちていた。

 その場にマリアさんがいたから、何度も付与魔法で浮力効果をつけていたけど。

 あれは本来の使い方ではないということだ。


「例えば今回、ダンジョンへ行くための装備と聞いているので、このキングタートルの甲羅の粉だ」

 ソルさんは棚から、灰色の粉の入った箱を出してきた。

「これは、オレたち竜人族の硬化みたいなことが出来る素材だ」


 ほほう、これが魔法付与のための素材。

 ファンタジーな話になり、マリアさんだけでなく、私とシエルさんも覗き込んだ。

 今回は魔蜘蛛絹という素材に、この粉と、魔宝石を砕いた粉を使うそうだ。

 それらを魔力で練って、硬化の付与をしていくという。


「まあ、全体に付与すると全体が光沢しちまうので、嫌がられる。守りを固める部分に使う感じだな」

 鎧みたいな効果を、服の要所に付けるのだと、ソルさんは説明する。




「あら。光沢が出て全面が駄目なら、模様のように入れたらどうかしら。ストライプとかチェックとか、デザインとして取り入れられるでしょう」

 マリアさんが、逆にソルさんに提案した。


「鎖帷子っていうのを聞いたことがあるけれど、鎖状でも刃物なんかは防げるわよね。面じゃなくて線で硬化をつけても、それなりに防御にならないかしら」

「ほう、確かにそうだな。面白いな」


 ソルさんが興味を持った。

 私もあからさまに鎧のような見た目になるよりは、マリアさん案の方がいい。

 マリアさんなら趣味もいいし、私に似合った物を作ってくれるだろう。


 なので話し合った結果、今回は服の基本デザインを決めたあと、模様としてマリアさんが付与をしてみることになった。




「実際に危険な場所に行くあなたたちの装備を、初めての私がして大丈夫かしら」

 マリアさんは最初、不安がっていたけれども。


「ソルさんが、付きっきりで指導してくれるのでしょう。だったら大丈夫ですよ」

「おう、任せろ!」

 ソルさんが、ドンと自分の胸を叩く。


「オレが付きっきりで見るんだ。駄目な物になったら、素材を剥がしてやり直せばいい。一度やってみようぜ」

 今回の装備で、マリアさんは付与の基本を実践で学ぶことが出来る。

 それってたぶん、今後のマリアさんにとって、とても大事な経験だ。




「それにマリアさんなら、私にちゃんと似合うデザインにしてくれるでしょう」

 美的センスとしては、ソルさんよりマリアさんがいい。

 そう私は伝えたけれども。


 マリアさんとしては、狙った効果がきちんと付けられるか、ちゃんと身を守る物になるのか。

 そこが不安だそうだ。


「私で本当に大丈夫かしら」

「駄目なら駄目で、ソルさんが教えてくれますよね」

「そうだな。横について付与するんだ。オレもしっかり駄目なら駄目と言う」

「じゃあ私は、マリアさんにしてもらいたい」


 シエルさんも、全面的にマリアさんに任せるという。

「そもそも誰にだって初めてはある。指導者がいるんだから、やってみればいい」

 シエルさんのその言葉に、マリアさんはようやく頷いた。




 ひとまず私とシエルさんは、ソルさんのデザイン画から、基本の服の形を選ぶ。

 女子用の型が少なく、マリアさんも意見を出して、デザイン画を描いてくれる。


 そしてさすがマリアさん、私の喜ぶデザインの提案が来た。

 ファンタジー的コスプレ衣装みたいな案もあり、シエルさんもマリアさんに、デザインをしてもらいたがった。


 模様を入れると印象も変わるので、そのあたりはマリアさんのセンスにお任せだ。

 付与の内容も、マリアさんとソルさんにお任せとなった。


「この装備にかかる金は、全部グレンが出す。竜人族の男が、番の装備にケチケチしねえよ」

 ソルさんの言葉に、若干の不穏は感じたけれども。


 まあ、この髪飾りみたいに攻撃魔法とかの不穏なものが混じれば、マリアさんが止めてくれるだろう。


 私の体のサイズは、マリアさんが測ってメモをしてくれた。




 シエルさんのものも、同じようにマリアさんの練習にと発注していたけれど。

 シエルさんは、このままここで作業を見て行くそうだ。


 なので私とヘッグさん二人で、ソランさんのパン屋さんへ向かうことになった。


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