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78 シェーラちゃんのお友達


 シェーラちゃんの友達と会うときも、もちろん私はクマを抱いたままだった。

 場所は昨日の建物だ。


「私はセシリアと申します。シーモル伯爵の娘ですわ」

 やわらかな茶色の髪の清楚な女性が、なぜかマリアさんに向かって一礼した。

「聖女様におかれましては、初めてお目にかかります」




 うん。クマを抱いた女が聖女とは、思わなかったのだろうな。

 なんならマリアさんの娘とでも思われているだろうか。

 マリアさんも苦笑している。


「聖女は私じゃなくて、こっちのミナちゃんよ」

 マリアさんの言葉に、彼女の視線が示された方を向いて。

 私をスルーして、キョロキョロと周囲を見回す。


「ええと、私が聖女のミナです。初めまして」

 クマを抱いたまま、挨拶をした。


 彼女は私に目を留めて、クマを凝視したあと、私の顔をガン見し、それから頭から足の先まで視線を走らせる。




「聖女様?」

「はい。称号に聖女がついている、異世界から来た菓子職人です」

「確かに彼女が聖女です、セシリア様」


 お友達だけど、シェーラちゃんは伯爵令嬢に様をつけた。

 友達でも爵位は関係するみたいだ。

 そしてセシリアちゃんの方が、少し年上だ。

 もしかすると私と同じくらいの年齢かも知れない。


「え、でもシェーラ様。こちらの方は、どう見てもお子様ですわ」

 あ、違った。お互いに様付けのお嬢様言葉のやりとりだ。

 そしてお子様とはどういうことか。見た目はこれでも、二十歳ですが。

 クマか。クマが悪いのか。


「あの、今日は訳があって、このクマを手放せないのです」

「訳とは何でしょうか」

 私の言葉に、彼女はすかさず突っ込んでくる。

 おお、けっこう会話のテンポが良さそうな子だ。


「グレンさんと番の儀をした直後で、グレンさんの魔力が手放せなくて」

「これに魔力水が入っているのよ」


 マリアさんの補足の言葉に、彼女は五度ほど瞬きをしてから。

「グレン様と、番の儀を…」

 そうしてまた動きを止めた。




「セシリア嬢。私は竜人の里から大使任命を受け、自治区の代表をしております、ザイルと申します」

 ザイルさんがずいっと前に出て、挨拶をした。


 え、大使? ちょっと聞いてないよ。

 いや、竜人自治区の対外交渉の責任者とか言っていたから、そうなるの?

 自治区の対外窓口的な仕事もする、普段は大家さんなだけの人じゃなかったの?


 ザイルさんは、整えた口調で彼女に話す。

「隣国の異世界召喚については、既にお聞き及びかと思いますが、私はセラム様と同行し、異世界召喚の場に立ち合いました」


 途端に、セシリアちゃんの目が興味を帯びたように、輝きを宿す。

「召喚の場での出来事。そして私から見た、異世界から来た彼女たちの話をしても、よろしいでしょうか」

「ええ、是非お願い致しますわ!」




 物語を書く人にとって、珍しい体験談を聞けるのは、嬉しいことなのだろう。

 構えた空気だった彼女が、促されるまま席につき、ザイルさんに向き合う。

 私とマリアさん、シェーラちゃんは顔を見合わせてから、それぞれ席についた。


 今日はティアニアさんもこちらに来ていて、お茶とお菓子を出してくれる。

 そして席は、私の両隣にマリアさんとティアニアさんだ。


 お茶菓子は、私が昨夜焼いたサブレだ。

 いや、今朝かも知れない。時間の経過がちょっとわからない。


 テオくんは、ラナさんに預けているそうだ。

 たぶんメイちゃんと遊んでいるのだろう。

 手土産にサブレを持って行ってもらったので、一緒に食べているかも知れない。




 そうして挨拶もそこそこに、ザイルさん視点な召喚の場での出来事が語られた。


 魔術師たちが魔方陣を囲み、魔宝石をあちこちに配して、召喚の儀に臨んだこと。

 詠唱のあと、魔方陣近くにいた魔術師たちから、バタバタと人が倒れて。

 やがて魔方陣から光があふれたあと、異世界の私たちが現れたこと。


 召喚される前の出来事は、今初めて耳にした私もマリアさんも、興味深く聞いた。

 魔方陣から現れた私たちは、少し違った文化らしい衣服を着て、何人かは大きな箱のようなものを持っていたとザイルさんは語る。


 うん。私もマリアさんもシエルさんも、スーツケースを持っていたからね。

 空港からの路線だったからね。


「直後にバランスを崩したように地面に倒れ込んだ者が多かったので、召喚の魔方陣は通常の転移魔方陣より、位置の狂いがあったかと思われます」

 ザイルさんは転けた人が多かったのを、少し高い位置に転移してきたからだと解釈したようだ。


 いや、それは電車の座席に座っていたからだね。

 そうか。傍目に見ると、そんなふうに見えたのか。

 改めて聞くザイルさん視点は、なんだか新鮮だった。




 そのあとは私たちも知る流れだ。

 王様の発言と、鑑定石にいそいそと手を翳した、チャラ男三人組のこと。


 でも知らない話もあった。

 番の魔力に気づいたグレンさんが、私をガン見していたことで、ザイルさんが私の動きに注目していたそうだ。


「彼女はすぐに身の危険に気がつき、ステータスを偽装した」

「偽装、なんて出来ますの」

「実際にやってのけたんだ。非表示、といったか」

 私に話を振られて、自分のステータスが見えたこと、非表示に出来たこと。

 あと職業を料理人に変えたことを話した。


「聖女なんて、絶対あの国に目をつけられそうだったから、変更しました」

「まあ」

 子供なのに、という目を向けられて、ちょっと目を逸らす。

 年齢を言いたい気もするけれど、聖女への敵対心が今は消えてくれているだけに、下手に刺激が出来ないかなと思う。




 マリアさんの帰らせて欲しい発言と、チャラ男たちの行動、周囲の反応。

 セラム様がマリアさんの保護を宣言したあとの、シエルさんの言葉。

 そして私の行動と、ザイルさんは順序よく、あのときのことを語った。

 ティアニアさんまで興味深そうに聞いている。


 あと私がわざとらしく上げた声については。

「彼女は面と向かって国王に刃向かったシエルを助けるため、そうした行動をしていた。その陰でシエルに、ステータス偽装を教えていた」

 そう解説してくれた。


 あの場を出る前の誓約魔法にしても、ザイルさん視点でスマートに語られる。

 実際は必死の綱渡り感があったけれど、傍目には余裕に見えたようだ。

 なのでその部分は「私的には必死でした」と補足した。


 ちなみにトイレに行きたい宣言などは、きれいに省かれていて。

 エリアヒールを使った爆走逃走についても、私の画期的な発案みたいに言ってくれて、美談にまとめられている。




 そして夜、私がお菓子の箱を出して、泣いたこと。

 馬車の中の、グレンさんとのやりとり。


 みんなが寝静まる中で、私がグレンさんに抱きかかえられた状態で目が覚めて、初めてグレンさんの声を聞いたときの話だ。

 いや、ちょっと待った。おかしい。


「え、待って。あのときザイルさん、起きてたんですか?」

「いや、…話し声で目が覚めたが、起きない方がいい雰囲気かと」


 いやそれ起きてたってことじゃんと、微妙な顔になりながら、ふとマリアさんにも目を向けると。

 目を逸らされた。え、マリアさんも起きてたの?


「私も話し声で目が覚めたのよ。でもなんだか起きて会話に入っていけない雰囲気だったから」




 話し声で起きたにしては、一声目からよく覚えていたなと思う、詳細な話だった。

 むしろ最初から聞かれてたってことだよね、そこまで語れるって。

 私は言われてみて、そういえばそんな話をしたと思ったほどだ。


 話は明らかにズレていて、私は戸惑っていた様子なのに。

 グレンさんに誘われるまま、腕の中で寝てしまったこと。


 客観的に語られたそれが恥ずかしく、いたたまれなさに顔を両手で押さえて、身を捻ったら、皆様の生ぬるい視線を感じた。

 ちょっともう、どうすればいいのか。




 その間にも国外脱出からの、瘴気溜り遭遇。

 私の浄化や、その夜にも立ち尽くしてしまった私をグレンさんが抱き上げて、一緒に眠ったこと。

 翌日の初めての街歩きや、こちらの料理への反応などを、ザイルさんが語る。


 お城についてからのことは、ザイルさんも知らないはずだったけれど。

「城内ではずっと、ミナはマリアとともにいて、侍女たちに守られた部屋からは、出ていなかったと聞く」


 そう前置きした上で、ザイルさんがセラム様から聞いた、レティについての騒動から、竜人自治区に来るまでのことを語った。


 私がセラム様に、瘴気溜り浄化の協力は積極的にするけれど、聖女として利用されないため、情報を制限して欲しいとお願いしてからの、情報漏洩まで。


 その理由が、レティへの嫌がらせであったり。

 私を利用するために、わざと悪評を広められていることなど。

 ザイルさんはあまり感情を挟まない、客観的な口調で語った。




 静かに聞いていたセシリアちゃんは、語り終えたザイルさんを前に、目を閉じて、しばらく考えたあと。

 今度は私に向いて、メモを構える。


 そう、メモ。

 彼女は途中から、猛然とメモをとっていた。


 え、これ物語にされちゃう感じですか?

 なんか取材されてるのかな、私たち。


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