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 ヘルプ機能が特別なものだとシエルさんが知ったところで、私は疑問を口にした。


 鑑定の項目にも差があるようだったけれど、そもそも私は相手が魔術を使っているときに、鑑定が出来るという感覚がわからない。

 ザイルさんは出来るというし、シエルさんもそれが出来るという。


「あの、魔術に鑑定って、どうやってかけてるんですか?」


 その疑問には、ザイルさんが答えてくれた。

 鑑定は出来る内容に個人差があるものだと。




 例えば私の場合、聖女という特性の他に、調理スキルという特性がある。

「ミナはよく食材の詳細などを鑑定しているだろう。それは異世界の皆が出来ることなのか?」

 聞かれてマリアさんを振り返ったら、首を横に振られた。


「私は出来ないわよ。ミナちゃんが教えてくれた範囲で知っているだけだわ」

 驚いた。マリアさんも同じ鑑定が出来ていると思っていた。


「逆にミナちゃんは、鉄貨や銅貨、銀貨や金貨の素材が、どういう特性かわかっていないみたいよね。地球の鉄や鉱石類と同じと思っていたもの」

 あっさりとマリアさんが、私が知らなかったことを知っていたと口にした。


 素材があれば、それをどう加工すればいいのか、鑑定とヘルプ機能でわかる。

 それが私の場合は料理の素材で、マリアさんは金属や布など物作りの素材になる。




 そういえば私は、食材についてはどのような調理に向くかなどの情報も見える。

 ミルクの実も種類によって、バターのこんな風味のものだとか、鑑定でかなりわかるので、希望のものを手に入れられる。


 でも布や金属は、おおよそ地球の何にあたるという情報はあっても、さらに詳細はわからなかった。

 なるほど。鑑定と得意なスキルが結びついているということかと、納得した。

 つまり私みたいに調理スキルがないと、食材の詳細鑑定が出来ないということだ。


 それはちょっと不便だなと思ったけれど。

 地球でも、果物や野菜を買ったときに、当たり外れは当たり前にあった。

 それと同じだと言われれば、なるほどと納得した。


 ともかく異世界人な私たちの鑑定も、それぞれで食い違いがある。

 そんなことが今になって判明した。




 食事を終えて、片付けながらお茶の準備をして、ラスクを並べていると。

 ザイルさんがグレンさんからの伝言を伝えてくれた。

「帰ったら、ダンジョンへ行こうと言っていた」


「ダンジョンか!」

 私よりも先に、シエルさんが反応した。

「ダンジョンとはどういうものだ!」


 テンションの高いシエルさんに苦笑しながら、ヘッグさんが答える。

 私が以前聞いたような内容を、比較的丁寧に話してくれた。


 タンジョンのおおよその構造。

 ダンジョンで魔獣を倒すと、通常とは違う形で素材が手に入ること。

 なぜかダンジョンで活動を終えた後は、力がついているとか説明している。


 シエルさんが目を輝かせているのを、私と似た反応だとヘッグさんが笑った。

 ちょっと微妙な気分になる。


 でもまあ、ここに兄がいたなら、一緒になって目を輝かせていただろう。

 兄はファンタジー小説をよく読んでいたし、ゲームも好きだった。

 兄に語られて私もそれなりに知っているので、ゲームのようなダンジョンの話は、私だってワクワクしちゃうんですよ。




「では私もダンジョンで戦ったら、雷魔法以外の攻撃魔法がうまく使えるようになるだろうか」

 シエルさんの言葉に、はたと私が手を打った。

「そうか。シエルさんもあの調理魔道具を使って練習しないと、風魔法の攻撃とかうまく出来ないってことか」


 以前、大規模瘴気溜りの浄化のとき、シエルさんはセラム様の護衛たちと一緒に、攻撃魔法をしてみていた。

 でもいくつか試した中で、唯一うまく攻撃になったのが雷魔法だった。

 そこから雷魔法を楽しそうに連発していたけれど。


 他の攻撃魔法だって、使ってみたいだろう。

 敵によって魔法の種類を変えるのは、ゲームではよくやることだ。




 なので私はシエルさんに、調理魔道具で野菜などを切れば、風の攻撃魔法の特訓になると話した。

 あと水魔法や火魔法など、基本的な魔法の練習になることも合わせて伝える。

「では明日、私にその調理魔道具を使わせてくれ!」


 シエルさんは普通の風魔法で切ることが出来ないため、科学知識を基にした鎌鼬的な風魔法を作ったけれど。

 威力があり過ぎて、使い勝手が悪いのだという。


 練習には、みじん切りにしても使いやすい野菜を、切ってもらうことになった。

 亜空間のある今、私たちは大量のみじん切りが作られても、便利に利用できる。

 なのでシエルさんは明日、野菜を切って魔法の練習をすることになった。




 ラスクもみんな美味しそうに食べてくれて、テオくんがまた両手に持って口に運んでいるのが、可愛かった。

 片付けのあとは、マリアさんとティアニアさんと大浴場だ。

 それから寝る前に聖水を作るなど、夜のルーティンをこなす。


 すべて終わって、今日も気持ち良く就寝。

 の、つもりだったけれど。


 眠れなかった。


 眠ろうとすると、遠くにあるグレンさんの魔力を感じて、寂しくなる。

 グレンさんがいないということに、なんだかダメな感じだ。

 日中は色々と忙しなく動いていたので平気だったけど、今はダメだ。


 寝られないのにベッドでうだうだしているのは、余計に眠れなくなると聞くので、いったん起きる。




 厨房へ行き、そうだそうだと、ギルド長からもらった食材の包みを開いた。

 包みのひとつひとつに、メモがつけられている。

 品物の名前と、購入できる地域かな?


 包みを開けて鑑定していくと、夜中なのに声を上げたくなった。

 だって、小豆があった! 寒天的な食材も!


 小豆は二種類のマメを一緒に炊いたら、餡子の味になるというので、俄然やる気になった。

 寒天的な食材は、ひと手間かければ寒天として使えそうだ。

 調理魔道具と魔法でどうにか出来そうなので、そちらをまず下準備する。




 残念ながら米はなかったけれど、なんと鰹節的なものや、昆布的なものもあった。

 どうやら海産系の干物みたいだ。

 乾物は魔法で水気を抜けるし、作りやすいのかも知れない。

 鰹粉末と昆布粉末で、粉末だし的に使えないかなと、粉にしてみる。


 さて、本命の小豆だ!

 まずは豆を洗って、炊いていこうではありませんか。


 寒天があるから、羊羹でも作ろうかな。

 そうだ、おやつに食べていたあれは、どうだろう。

 煮詰めた砂糖水で、餡子玉をコーティングするやつ。

 商品ではなく、家のおやつ用に、父が時々作ってくれていた。


 それでも眠気が来ないなら、サブレの試作もいい。

 カップケーキも作ってみようかな。パウンドケーキもいいな。









「ちょっと、ミナ! あなたこんな時間に、何してるの!」


 作業に熱中していたら、マリアさんに声をかけられた。

 窓の外は暗くて、まだ真夜中っぽい。


「水を飲みに来たら、厨房でこんなに広げて! まさか寝ていないの?」

「…グレンさん、いないから。なんだか眠れなくて」

「ちょっと!」

「大丈夫、眠気が来るまでの作業だから」

「眠気が来るまでって、今たぶん夜明け前くらいよ。朝方よ」


 あれ、そんなに作業してたのかな。

 そういえば、餡子がうまく炊き上がって、そのあと作った羊羹が完成している。

 羊羹が固まるのを待つ間に作った餡子玉もあるし、どら焼きも作った。

 今はサブレが焼き上がり、オーブンにパウンドケーキを入れるところだ。


「今からでも寝なさい!」

「でも、眠くないし」




 私たちの声に、ザイルさんがやって来た。

「ミナが眠れないからって、一晩中起きていたみたいなんです」

「やはりそうなったか。可哀想なことをしてしまったな」

 ザイルさんが、なんだかしょげた顔になっている。


 二人はそのあと何かを話していて、マリアさんがどこかへ行った。

 部屋に帰って寝たのかなと思っていたら。


「ミナ、グレンさんの魔力水とやらを出しなさい」

 言われて私は、ぱちくりと目を瞬いた。


 魔力水。そういえばそんなのもらっていたなと、ようやく思い出す。

 水瓶に入れていたそれを取り出すと、マリアさんがザイルさんに声をかけて。

 二人でゴム製の袋のような何かに、魔力水を入れた。




「はい、ここにあるもの、まず収納してしまって」

 マリアさんが指示をしてくる。

 ちょうどパウンドケーキが焼き上がってオーブンから出したところだ。

 ひとまず全部、亜空間に片付けるように言われ、従った。


「じゃあ、こっちに座って」

 次にソファーに呼ばれて、そこに座ると。


「はい、これ抱いてみて」

 さっきの袋のようなものを持たされた。

 水の入った抱き枕的なものを抱えると、そこからグレンさんの魔力を感じる。




 グレンさんの魔力! 温かくて、力強くて、安心出来る。

 あの魔力をここから感じる!


 嬉しくなってそのまま抱きしめていたら。

 なんだかふうっと力が抜けて、安心して。


 意識が、落ちた。


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― 新着の感想 ―
 魔力水ってそういう使い方するんだと目から鱗でした。
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